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惨敗が変えたドイツの育成。コピーに留まらない大国の底力

 今でこそ代表・ブンデスリーガともに栄華を誇るドイツサッカーですが、ほんの10数年前に危機的状況にあったことはどれぐらいの方が覚えていらっしゃるでしょうか。1990年ワールドカップ優勝以降、ドイツ代表は世代交代が遅々として進まないまま。それでも1996年欧州選手権は優勝したものの、血の入れ替えはそれにより一層妨げられた感がありました。
 
 現在に至るまでの筋道には、どういう要因があったのでしょう。ドイツサッカー協会公認A級コーチライセンスを保持する中野吉之伴(なかの・きちのすけ)さんにお話を伺いました。

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■欧州選手権のGL敗退からスタート
 近年、ドイツサッカーの躍進ぶりには目を見張るものがあります。代表チームは国際大会で常に好成績を残し、昨年はクラブレベルでもバイエルン・ミュンヘンとボルシア・ドルトムントが史上初のチャンピオンズリーグ決勝戦でドイツ対決を実現。今シーズンも、チャンピオンズリーグ決勝トーナメントにこの2チームの他シャルケ04、バイアー・レバークーゼンの計4チームが勝ち残っています。結果だけではなく、内容的にも充実しているドイツサッカー。しかし、ここまでの道程は長く険しいものでした。

 1990年にワールドカップ優勝を果たしたドイツですが、その後世代交代がうまくいかずに長い低迷期に。1996年欧州選手権は1990年組の遺産でなんとか優勝を果たしたものの、2000年欧州選手権ではまさかのグループリーグ敗退。内容的にも散々な出来であり、検討され続けていた長期的なタレント育成プロジェクト導入に本腰を入れる、決定的な契機となりました。

 ドイツ伝統のフィジカルと精神力"だけ"を前面とした縦に速いサッカーから脱却すべく、「サッカーはボールを足で扱うスポーツ」という原点に立ち返り、当時育成で高い評価を得ていたフランスから「どうすれば技術力・創造力を持った選手を育成出来るのか」を重点的に学びました。そして、育成年代では目の前の勝利に固執するのではなく、4種年代であればコーディネーション能力のアップと足元の技術習得といったように、それぞれの年代にあったトレーニング理論を作り上げました。

 ブンデスリーガクラブは育成アカデミーを持つことを厳命され、ユース指導者は盲目的にプロ選手のセカンドキャリアの場とするのではなく、しっかりと教育を受けた指導者が配置されるようになりました。さらに、各地に散らばるタレントを取りこぼすまいと、ドイツ全土に395のシュトゥッツプンクト(日本で言うトレセン)が設置され、ブンデスリーガクラブ・シュトゥッツプンクト・地域アマチュアクラブの間で有望選手やトレーニング法についての積極的な意見交換や情報提供、指導者派遣などが行われるようになりました。

■"お父さんコーチ"へのアプローチ
 またトップレベルだけで物事を語るのではなく、底辺層に至るまでの全体的なレベルアップを目指し、町・村クラブにも積極的にアプローチをするように取り組みました。アマチュアクラブにおける指導者のレベルアップのためライセンスシステムを再構築し、確立された新しい育成法を浸透させていくためにDFBや地方サッカー協会によるミニ講習会が定期的に開かれました。いわゆる"お父さんコーチ"に対して、向かい合っての基礎練習・ポストシュートといった『練習のための練習』の非効率さを説き、子供たち全員がもっとアクティブに関われるような練習メニューや少人数制ミニゲームを推奨してきました。

 学んだ技術は、試合で使われるように導かれなければなりません。例えば一般的な基本練習として、二人の選手が向かい合い、一人がボールを投げ、もう一人がインサイドやインステップで蹴り返すというものがあります。一般的には、投げる選手がやりやすいように胸元に蹴り返すことが求められるのでは、と思いますが、試合中に浮いたボールを受けた選手がパスを送る先としてふさわしいのはどこでしょうか? パスの受け手の足元か、あるいはその選手が動く先ではないでしょうか? ならばこの基礎練習においても、ボールはしっかりと相手選手が要求する場所へと蹴り返されなければならないでしょう。

■他国を真似るだけでないドイツの強さ
 育成層の練習において特に大事なのは、子供たちが「チャレンジしたくなる環境」を作ることです。「クリエイティブにプレーしろ!」と強制された状況から、クリエイティブなプレーが生まれるはずはないですから。ゴールを置いての4対4や5対5のミニゲーム、時にはフリーマンをつけたり、片方のチームを多くして数的不利・有利の状況を作ったりしていろいろなプレーにチャレンジさせます。

 もちろんリスクチャレンジとわがままなプレーとの間には、明確なラインを引く必要があります。そうした観点からも、ドイツではどの練習を何回やったかが大事なのではなく、どういった状況下で何回成功アクションをすることが出来たかが重要視されています。巷で騒がれている「決定力不足」や「相手プレッシャー下でのボールコントロール」といった問題を解決するには、そうした状況下での成功体験を積み重ねること以外に方法はないと分かっているからでしょう。ミスを恐れず、練習から果敢にチャレンジし、動きの質の向上を目指していきます。

 こうして練習メソッドは整理されましたが、コピーからはオリジナルを超える強さが生まれることはありません。あの皇帝フランツ・ベッケンバウアーも「スペインサッカーから学ぶことは多いだろう。しかし全てをコピーするのではなく、ドイツにおける美徳、ツヴァイカンプフにおける闘争心や積極性はこれからもなくてはならないものだ」と話していました。

 ドイツサッカーの特徴を一番よく表す言葉がZweikampf(ツヴァイカンプフ)でしょう。1対1での状況におけるボールをめぐる凌ぎ合いのことで、「ツヴァイカンプフを制するものが試合を制する」というドイツから伝統的に広く使われている言葉があるくらいです。ボールに対する積極性は本来自然なもの。幼稚園児のサッカーを見ているとみんなボールをめがけて走るではないですか。原点といえるその思いを大切にするドイツ人は、スマートなモダンサッカーと武骨なツヴァイカンプフの融合を目指しています。技術はどんどん洗練されていきますが、ボールに対する積極性、執着心はこれからもドイツらしさとして残り続けることでしょう。

中野吉之伴(なかの・きちのすけ)
秋田県出身。1977年7月27日生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU15チームでの研修を経て、元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU16監督、翌年にはU16/U18総監督を務める。2013/14シーズンはドイツU19・3部リーグ所属FCアウゲンでヘッドコーチ、練習全般の指揮を執る。底辺層に至るまで充実したドイツサッカー環境を、どう日本の現場に還元すべきかをテーマにしている。


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