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本田圭佑にも通じる! "メンタルの強い選手"の育て方(1)

※本稿は、『徹マガ』(著者・宇都宮徹壱)に掲載された『心はトレーニングで強くなる(前篇)メンタルトレーニング・コーチ大儀見浩介(株式会社メンタリスタ代表取締役)インタビュー』を転載したものです。※

――現在、いわゆるカウンセラー、あるいは『メンタリスト』を呼称にする方などメンタルに関する知識を武器に活動する方は、多くいます。そういった方々とメンタルトレーニング・コーチである大儀見さんには、どういった違いがあるのですか?

 僕の場合は、スポーツがバックグラウンドにあることですね。スポーツ用のメンタルトレーニングです。歴史的な背景をみると、旧ソビエトで始まったものが、スポーツに応用されていった経緯があります。最初は、宇宙飛行士のためのメンタルトレーニングでした。それがスポーツに応用されていき、成果が伸びたことでヨーロッパやアメリカにも普及していきました。

 特に、アメリカでの発展が顕著です。アメリカで発展したメンタルトレーニングのプログラムを日本で紹介している、というところが最も大きな違いかなと思います。また、スポーツ界でのメンタルトレーニングはオリンピックとともに発展してきた経緯があります。

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■心は、サボれば衰えてしまう

――私のような素人でも『メンタルトレーニング』という呼称を聞くようになりましたが、日本でメンタルトレーニングを取り入れるチームは増えてきていますか?

 例えば、神奈川県では高校野球やバスケットボールでかなり広まっています。近くに東海大があるというのも理由の一つでしょう。類書もたくさん出てきていますし、だいぶ浸透してきています。ですが、例えばJリーグのチームに専属のメンタルトレーニング・コーチがいるかというと、そういった話はまだ耳には入ってきません。野球もそうですね。海外に行くとメンタルトレーニング・コーチはどこのチームにもいます。アメリカのメジャーリーグには必ずいますし、NBAでもメンタルトレーニングの専門家がいます。そうなってくると、まだまだ(浸透していない)かなとは思います。

――普及を妨げる要因は、どういったところにあると思いますか?

 やっぱり「心はトレーニングできるものだ」という認識が、まだまだ浸透していないのではと思います。もう一つ言えば、要するに「気合い」とか「根性」っていう言葉ですね。例えば「根性」という言葉はかなりアバウトで、一人ひとり捉え方が違います。どちらかと言うと、やらせる、強いるところから心を強くしていく考え方だと思います。(心の強さは)生まれつきのもの、と思われているように感じます。

――私自身も、「こういう風にすれば強くなるんだ」っていう解を改めて示されたことで啓蒙された感があります。「心をトレーニングする」ということは、身体と同じで継続的に鍛えれば強くなるし、サボれば衰えてしまうものですか?

 そうです、筋力と一緒ですね。筋トレをやれば少しずつ筋肥大しますし、やめてしまえば衰えますよね。

――例えば試合の直前に急ごしらえでやるということではなく、日常的にずっと続けていかないといけないということですね?

 そうですね、はい。

――「心はトレーニングで強くなる」ということをご自身で実感されたのは、いつ頃のことですか?

 やはり指導した子供たちが目まぐるしく変わっていくのを見た時ですね。心理的競技能力、つまり心のパフォーマンスを推し量る診断検査があるんです。DIPCA.3(心理的競技能力診断検査)というものです。(株)トーヨーフィジカルが出している、九大の名誉教授である徳永幹雄先生と橋本公雄先生が制作した検査です。

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 この検査では、52の質問に自己診断で5段階評価をつけていくと、その場でフィードバックが得られるものです。普通、心理検査ってすぐには結果がわからなかったりするんですが、これは自分で計算して自己診断していくことができます。メンタルトレーニングを始める前に、これをやります。そうすると、強いところと弱いところがわかります。これまでの日本の心理学というのは、人間のネガティブな側面、つまり弱いところを見つけて、そこに対するアプローチをしていくものでした。「あなたは最近イライラしやすくないですか?」「よく眠れないことはありませんか?」と。

 このテストの素晴らしいところは、良い部分もわかることです。選手の心の強いところと弱いところを両方把握でき、かつ良い部分にフォーカスできるわけです。1年後、このDIPCA.3を再受検して1年前との差を見ると、明らかに数値のグラフが大きくなってるわけですよ。1カ月ごとにやっていけば、だんだん大きくなっていくのがわかります。しかしメンタルトレーニングをやめてしまうと、だんだん小さくなっていくわけです。

――経過も、きちんと数値化して追えるわけですね。

 例えば、サッカー選手にこれをやってもらうとしたら、まず『競技意欲』という部分では4つの項目でモチベーションがわかります。忍耐力が弱くて闘争心だけが高い場合は外発的、つまり「怒られるのが嫌だからやっている」「キレやすい」「空回りしやすい」とかそういうことがわかります。勝利欲が強い、というのは「負けん気が強いけど勝つことしか考えていない」「成長や経験といった部分に目を向けられていない」とか。また『自己コントロール』『リラックス』『集中』という項目からは、実力を発揮できる度合いがわかります。ここが低い場合は試合で過緊張してしまう、ドキドキバクバクしやすい、そういうことがわかるわけです。

 『イメージトレーニング』という項目では、頭の中でイメージするときに自分のベストプレーだけじゃなく相手のこと、時間帯によるプレーの変化、そういうイメージができているかどうか。『協調性』の項目では、周りの選手とコミュニケーションが取れているか、信頼関係が作れているかどうか。そういったものがわかるわけです。

 サッカー選手について、スコアを細かく見ていくとよくわかりますよ。「君は相手にパスしてよくボールを取られるでしょ?」「本番になるとトラップが大きくなるでしょ」「力みすぎてシュートを上に外すことが多いんじゃない?」とか。プレーが見えてくるんですね、これを見ただけで。サッカーを通じてこれができるのは、おそらく日本で僕だけだと思います。

■「メンタルが強い選手」の定義とは何か?

――優れたメンタルを持っている、いわゆる『メンタルが強い選手』というのはどういった状態にある選手のことを指すのでしょうか?

 やはり「練習も本番も実力が発揮できる」ということと、もう一つは人間的成長を続けていくことができる、満足しないということですね。常に成長していこうと、より良くなろうと考えている選手、これがメンタル面で一流の選手だと思います。

 たとえば中高校生、一般の指導者の方々に「一流の選手はどんな選手か」って聞くと「足が速くて、技術があって、体が強くて、言葉も堪能で、頭もよくて」となります。けど、世界で活躍するトップアスリート、一流選手とされる人たちに「一流選手ってどんな選手だと思いますか?」って聞くと、「一流とはどんな選手か、常に考えている選手が一流だと思います」となるわけです。この差だと思います。どうすればいいか、どうすればより良くなれるか、成長していけるか。それを常に考えて行動する選手が、僕は一流選手であり、メンタルの素晴らしい選手だと思いますけどね。

――著書『「心理戦術」が日本サッカーを進化させる』では、本田圭佑選手のことを取り上げておられます。本田選手の優れた点というのは、今おっしゃられたようなところにあるのでしょうか?

 そうです。「近い将来、自分はこうなっていたい」という姿を明確に持って、それに向かって突き進んでいける。大きなところに目標を持っていますから、伸び続けていくと思います。彼からしてみたら、敗戦とかミスも成功への情報源なんです。「こうすればいいんだな」「次はこうやってみよう」というチャレンジに変わるということですね。

――発明王エジソンは「失敗ではない。うまくいかない方法を一万通り発見しただけだ」と言っていますが、本田選手の姿勢に通じるものがありますね。

 そういう考え方です。だけど日本というのは、ミスをすると指導者が叱責したりする。ランク付けをして優劣をつけるから、選手たちはミスしないようにしようとなる。「ミス=いけないこと」と考えて、評価が下がる情報、優劣がつく情報と受け止めるんですね。これが当たり前になっちゃっていますが、変えていきたいですね。ミスとは、成功への情報源なんです。

――選手をそういう心理状態に置いてしまうのは指導者に責任があると思うのですが、メンタルトレーニングをする上であってはいけない指導者像はたとえばどういったものですか?

 無理強い、やらせるという感じの指導です。ロボットにしてしまうということ。すべてを指示し、管理し、自分の出した指示通りに動かし、指示通りやらないとバツを与える。結局、選手に自ら進んでやるっていう気持ちがなかったら上手くなりません。選手をロボットにしてしまわないことが大事だと思います。

――それは、親御さんにも言えることですよね。

 過干渉はよくないですね。

――本田選手がああいったメンタリティを持ったのは、生まれ育った環境も良かったということはあるみたいですね。

 そうですね。本田選手は、実兄や親戚にもアスリートとして活躍していた人物がいたはずです。そういう素質は持っていて、自然にそういう考え方になっていったんだと思います。挫折も経験していますしね、本田選手は。ただそこで自分自身がやれること、その時できることをやっていこうとしたんだと思います。

――ずっと負傷で戦列を離れていても、「これは自分がビッグクラブに行くためのステップ、ここはどうしても必要なんだ」と周囲にも言っているわけですよね。

 プラスの影響を周りにも出せると思います。

――外から見たら挫折であっても、自分が挫折と受け止めないかぎりは成長の機会に持っていけると。

 そうです。挫折した瞬間、筋力やスピードが落ちることはないわけです。落ちるのはメンタル。そこを次に切り替えていく。どうすればより良くなるのか、今現在何が良くなくて、どこをどうすればいいのか。そういう自分の計画、見立て、仮説を立てて、その仮説を検証しにいく。それだけですよね。

<(2)へ続く/2月20日(木)配信予定>

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大儀見浩介(おおぎみ・こうすけ)
株式会社メンタリスタ代表取締役。静岡県清水市生まれ。東海大学第一中学校(現・東海大学付属翔洋高等学校中等部)サッカー部時代に、元日本代表の高原直泰氏とともに全国優勝を経験。東海大一高ではサッカー部主将として鈴木啓太氏(浦和レッズ)とプレーした。東海大学進学後、高妻容一研究室にて応用スポーツ心理学(メンタルトレーニング)を学び、現在はスポーツだけでなく、教育、受験対策、ビジネス、社員研修など、様々な分野でメンタルトレーニングを指導している。

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