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育成のベテランがかける声 1つ成功するには100回の失敗が必要

前回の記事では、横浜F・マリノスプライマリーの西谷冬樹監督に、8人制サッカーについての話を伺いました。

 今回は西谷さんが実践するジュニア世代の指導方針について、インタビューの前編をお送りします。中村俊輔、齋藤学、藤本淳吾をはじめとする、たくさんの選手や社会人の育成に携わった西谷さん。子どものチャレンジを促す環境づくりに、ポイントがありそうです。

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■どのようにして子どもとコミュニケーションを取るべきか?

――子どもに対する声のかけ方など、西谷さんの指導はどのようなポイントがありますか?

僕の場合は声かけというか、観察をしていますね。子どもがどういうことを考えながらプレーしているのかなと。そのうえで、もしも僕の描く絵と、子どもの描く絵のイメージが違っていたらイヤだから、「何を考えてたの?」「何を想像していたの?」と子どもに聞きます。「結果はこうだったけど、どうだったの?」とか。声かけはそういう感じですね。

もちろん、本当はやれるのに、やってない子がいたら、「何やってるの」とは言いますよ。うちにもそういう子はいます。ただ、それはいろいろな因果関係というか、家庭で何かあったとか、学校で何かあったとか、友達同士で何かあったとか、そういうことが起こるんですね。そこで「何やってるんだ!」って一方的に言うだけじゃなくて、「今日何かあったの?」とか、そういう声はかけていますね。

――マリノスの子どもたちは優秀というイメージを持つ方も多いのではと思いますが、その辺りはどのように感じますか?

すごく大人っぽいですね、物事をハッキリ言えますね、と、取材して頂いたライターさんにもよく言われるんですけど、それは僕らがずっと子どもたちに求めていること。物事を言えるということは、考えている証拠ですし。ただ、そこに至るまでのプロセスはすごく時間がかかります。

ヨーロッパや南米では、彼らは生存競争というくらい、がんばるじゃないですか。上手い子が入ってきたら、すぐに誰かが落ちる。1年間やって、ふるいにかけられて、ダメだったら半分くらい落とされるとか。なかなか今の日本の社会ではできない環境ですよね。

そんな中でも、うちの子どもたちはバチバチやっています。いつもチャレンジをしているので、失敗はつきもの。子どもには、「1つ成功するには100回失敗しなきゃダメなんだぞ」と言うんです。どんどん後押ししてあげた結果、今のようになったわけで、全然エリートじゃないですよ。彼らは日頃からすごく努力しています。コミュニケーション取って、「ああじゃないか」「こうじゃないか」と。子ども同士でもやっているし、僕ともやっています。

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――その議論がぶつかって、平行線になりかけたときはどうするんですか?

そういうときは本質が大事になると思うんですよ。「どういう目的でそのプレーをやってたんだ?」と話しかければ、子どもたちはただの言い合いじゃなくて、目的を見て話し合えるので、あまりぶつからないですね。「お前が悪い」とかじゃなくて、ゴールを奪うために俺はこう思ってたんだ、いや、俺はこう思ってたんだ、じゃあどうしようかと。目的を見ながら話し合えば、わかります。

足の引っ張り合いとか、責任転嫁をし始めると、まとまるものもまとまらない。だから、それはお互い何のためにプレーしたんだと。そういうところから話し合うようにしています。目的と本質は、大事です。ボールを奪うためとか、ゴールを守るためとか、ゴールを奪うためとか、そういう原則論を伝えてあげると、議論はくっきりとクリアーになったりしますよ。

――これは大人の社会にも通じる話ですね

そうですね。会社でも部署同士で足を引っ張ったりとか、結局、何のためにやっているのか、目的が見えてなくて、お互いに取り合いをしたりとか、起こっていることは一緒です。そういうのを指導者がわかっていれば、ゆとりが出来るんですよ。たとえば、まずは子ども同士でやりあわせて、言い尽くさせる。あとから指導者が入って行って、「こうじゃない?」って話をして目的をクリアーにする。その過程で「こういうアイデアがあった」って話し合いをしておけば、後からつながっていくんですよ。それが選択肢になるじゃないですか。選択肢が多いほうが自分にとっては得だし、対戦相手にとってはイヤですよね。そうやって育った子はたくましいですよ。

※この記事は、2014年2月18日にサカイクへ掲載された記事を転載したものです。

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西谷冬樹(にしたに・ふゆき)//
・1969年12月18日生まれ、神奈川県出身
・横浜F・マリノス プライマリー(U-12)監督
・日本サッカー協会公認A級コーチ。
第37回全日本少年サッカー大会決勝大会ではベスト16、昨年9月にイギリスで行われたダノンネーションズカップ2013では世界大会の舞台で見事3位という功績を残した。これまでの20年間で多くの選手を育成し、中村俊輔、齋藤学、藤本淳吾をはじめとするプロ選手を輩出している。