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サッカーの質を向上させるための「3つのスピード」。トラウムトレーニングの指導方法に迫る

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取材・文/鈴木康浩

 川崎フロンターレ監督の風間八宏氏が筑波大学蹴球部監督時代に立ち上げたサッカースクール『トラウムトレーニング』。前回と前々回の記事では、年齢の垣根を取り払った指導方法と、個の技術についてそれぞれ紹介させていただきました。

 今回は、トラウムトレーニングでは、どのようにサッカーを考えるのか、についてスクールの立ち上げから指導する総監督、内藤清志氏に伺います。なお、内藤監督が出演するオンラインセミナーはこちらからご覧いただけます。

 日本代表がワールドカップで華々しい活躍をし、日本のサッカーが世界中に認められる――。日本人であれば誰もが望んでいることでしょう。では、世界で日本代表が勝つためにはどうすればよいのか。それは日本人の特性を最大限に生かすことではないでしょうか。

 勤勉性、緻密さ、俊敏性、持久性、集団性――これらは日本人が本来備えている特性と言っていいでしょう。集団のなかで規律を守れる勤勉性を持ち、緻密な技術を備え、かつ俊敏に、持久的に動き回ることができる性質。これらは個のプレーに走りがちな外国人にはない日本人の強みと言えます。

 トラウムトレーニングを指揮する内藤監督はこういいます。

「だからこそ、トラウムトレーニングでは、日本人がより強調すべき個の技術にフォーカスしてアプローチしたいと考えています。本来持っている特徴を生かすためのサッカーとは、ボールを大切にするサッカー、ボールを保持するサッカー、だと考えます。子どもたちには『サッカーを、手でボールを扱うスポーツと同じように考えていこう』と説明しています」

『ボールを7割支配できれば、8割の試合に勝てる』

 これはヨハン・クライフの格言ですが、サッカーの試合において、ボール保持と勝敗の正の相関関係はデータで証明されています。「2012年-2013年シーズンの欧州3大リーグ、リーガエスパニョーラ、プレミアリーグ、ブンデスリーグの1066試合を分析したところ、高いボール保持率と勝率の間には高い正の相互関係がみられました」(内藤監督)

 一昔前、世界のサッカーは"スーパースターをいかに食い止めるか"をテーマにした守備的なスタイルが流行しました。しかし、いまは「ボールを保持するチームが好成績を収めていて、世界のサッカーのトレンドは、日本人の特徴を出しやすいスタイルになってきている」(内藤監督)といえるのです。

 では、ボールを保持するサッカーの質を向上させるためにはどう考えればいいのか。内藤監督はトラウムトレーニングでの考え方をこう説明します。

「それはスピードが上がるということです。ではスピードとは何か。3つのスピードがあります。身体のスピード、二つ目が技術のスピード、三つ目が頭のスピードです」

 身体のスピードは想像がしやすいので説明する必要はないでしょう。二つ目の『技術のスピード』から説明します。キーワードは、技術を駆使することで『走る競争をしないサッカー』を目指すことです。

 たとえば、ボールホルダーの右前方に味方と敵が1対1の状況にあるとします。このとき、ボールホルダーがスペース目がけてボールを供給すれば、味方は敵と身体のスピードで勝負しなければなりません。つまり、ボールをスペースに蹴り、ボールの移動時間が長くなればなるほど、身体のスピードで競争する要素が非常に大きくなることが想像できると思います。ボールの移動時間が長くなれば、その間のボールは、味方でも、敵でも、誰の意思でもないものとなってしまう、だから、誰の意思でもない時間をできるだけ減らしたい、ボールの移動時間を短くしたい――それがトラウムトレーニング流の考え方です。

 では、ボールの移動時間を短くするにどうすればよいのか。

「パスの距離を短くすれば、ボールの移動時間も短くなります。長い距離のパスのときは、パスのスピードを上げればボールの移動時間は短くなります。ただし、このときにスペースへ向かってボールを蹴ってしまうとパスのスピードは調整しないといけなくなります。味方がパスに追いつけずにパスミスになってしまう可能性が高くなるからです。ですから、パスをする目的物が定まっていることが重要なのです。つまり、味方の足下に向かってパスを出す。そこに強くて正確なパスを出せれば、自ずとボールの移動時間は短くなるということです」(内藤監督)

 では、ボールの移動時間さえ短くなれば、『技術のスピード』はあがったと言えるのでしょうか。内藤監督は「それだけでは不十分」といいます。

 トラウムトレーニングでは、繰り返しになりますが、ボールに意思のない状態を短くしたい、つまり、ボールの移動時間を短くしたい、と考えています。それは逆にいえば、ボールに意思がある時間を増やしたい、ということです。

 たとえば、パスを受けたときに、瞬時に、利き足である右足の蹴りやすい位置にボールを置けている状態があるとします。これをトラウムトレーニングでは「ボールに意思がある状態」と呼び、「家」と定義しています。シャビやイニエスタ、遠藤といった一流選手たちは、パスを受けたときのボールの置き位置がまったくぶれず、常に「家」にボールがある状態を保つことができます。それぞれによって「家」の位置は異なりますが、瞬時にパスもドリブルもできる状態にボールを置けている。そういう選手たちこそが『技術のスピード』がある選手といえます。
 
 次に3つ目のスピードである『頭のスピード』を説明します。

 トラウムトレーニングでは「サッカーを手で扱うスポーツと考えようのように考えてみよう」と子どもたちに伝えていますが、実は、足を使う競技ならではの特性があります。それはダイレクトプレーが可能だということです。ダイレクトプレーを使い、そこに技術が伴えば、20メートル、30メートル先の味方に、ボールを足下で止めることなく、速くて正確なボールを出すことも可能になります。

 ただし、20メートル、30メートル先の味方にボールを出すためには、パスをもらう前にそれらの状況を把握しておかなければパスは通せません。その状況が見えていなければ、一度ボールを足下で止めないといけないからです。

 周りをよくみて、次のプレーの状況判断をして、素早く実行する。これが頭のスピードによって左右されることになります。

「ボールをもらう前に、どこに立ち、何を見ているかが重要になります。たとえば、味方のボールホルダーよりも少し後ろに立つだけでも、ボールと目的(ゴール)を同時に観ることができます。

 僕が子どもたちによく言うのは『(ボールホルダーの後ろに立って、目的も視野にいれながら)いつ、ボールホルダーを越えていくの?』ということです。このときに、おへその位置も重要になります。ボールホルダーだけにおへそを向けていれば、目的(ゴール)を見られなくなってしまいます。だから、ボールホルダーと目的(ゴール)を同時に見られるように体を開いて立つことが重要です。そうやって視野を確保すれば、次のプレーが自ずとはっきりしてくるのではないでしょうか。「選ぶ」のは選手です。指導者はいかに「選べる状態」になることを習慣化できるかだと考えます。

 そうやってダイレクトプレーでボールを正確に運べるだけの技術や、状況判断の質が備わってくると、その選手がより遠くいる敵にも影響を与えることができます」

 ボールを受ける前に、どこに立ち、何が見えているのか。技術のスピードに加えて、頭のスピードが速くなればサッカーはより広がりを見せることになります。

 次回は、これらの『技術のスピード』や『頭のスピード』が速くなったときにどのようなサッカーが展開されるのかに迫っていきます。

 内藤監督が出演するオンラインセミナーの閲覧はこちら(https://v.coachunited.jp/から。未入会の方は、こちら(http://coachunited.jp/academy/)から登録をお願いします。

鈴木康浩(すずき・やすひろ)
1978年、栃木県宇都宮市出身。法政大学卒業後、作家事務所を経て独立。地元である栃木SCの取材は今季で10年目に突入。その他現在は日本のあらゆるサッカーシーンの心奪われる事象を何でも書くスタンス。「サッカー批評」「フットボールサミット」「月刊J2マガジン」「ジュニアサッカーを応援しよう!」などに寄稿している。元日本代表の小島伸幸氏の著書『GKの優劣は、ボールに触れない「89分間」で決まる』の構成を担当。その他構成した書籍多数。

取材協力/トラウムトレーニング
現・川崎フロンターレ監督の風間八宏氏が代表を務めるサッカースクール。同氏が提唱する世界に通じる"本物の技術"を習得することを目的とし、内藤清志総監督のもと5歳~18歳までの選手を育成している。また、トラウムとはドイツ語で"夢"を意味し、自らに期待し自分で"夢"を生み出すトレーニングのことを指している。

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