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「できない子が、人間的に劣っているわけではありません」。トラウムトレーニングの指導方法に迫る

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取材・文/鈴木康浩

 川崎フロンターレ監督の風間八宏氏が筑波大学蹴球部監督時代に立ち上げた、個のスキルを高めながらサッカーを楽しむサッカースクール『トラウムトレーニング』。今回は、日頃熱心に子どもたちを見ている指導者の方々からトラウムトレーニングについて質問を頂きましたので、スクールの総監督である内藤清志氏にぶつけて回答を伺ってきました。
 
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Q1.トラウムトレーニングでは、反復トレーニングはしているのでしょうか。それとも、子どもにヒントや刺激を与えて技術の獲得を目指すのでしょうか。

「反復トレーニングをしているのか? と聞かれれば、イエスとノーの両方です。反復トレーニングも大切だと考えますが、最初はこの形を習得して、その次がこの形、その次がこの形、といった教え方はしていません。

トラウムトレーニングで重視しているのは、そのトレーニングをする目的は何なのか? ということです。たとえば、前を向いたままボールだけを後ろに置こうとする技術を身につけるときには『後ろを向かないのだからボールが見えないところにくるけど、そのかわり周りはよく見ることができるよね?』というディテールを子どもに伝えてトレーニングする目的を考えさせながらプレーするように促します」

Q2.トラウムトレーニングで指導している技術の、止める・蹴る・運ぶ・外す、はどのような順序で指導されていますか?

「まず『外す』は、集団で小学生をみるときは指導しません。難易度が高いからです。この4つの技術で一番大事なのは『止める』だと感じています。『蹴る』も大事ですが、『蹴る』は練習が始まる前の時間に子どもたちが遊んでいる様子をみると自然とやっているので、『蹴る』よりもまずは『止める』なんです。その次に『運ぶ』に力を入れています。

ただし、これはいま目の前にいるスクールの子どもたちを見た上でそう言えることでもあると思います。一般的にいえば、『止める』『蹴る』『運ぶ』はレベル1としてとても大事なスキルで、『外す』は少し上のレベルになるのかなと思います。その前段階としてレベル1を習得し、理解できている子どもや中学生をみるときに『外す』を伝えるときは、『こう動けば敵からは見えないけど、自分は敵が見えているよね?』『それだと敵の支配下に置かれているよね?』というように、言葉だけでなくて具体的にフレーズで伝えて、その感覚を教えてあげることが重要だと思います」

Q3.トラウムトレーニングで重視している基礎的な技術は、キッズ年代から取り入れたほうがより効果的なのでしょうか。

「そうですね。ボールをたくさん触るという意味では、キッズ年代から取り組むのが重要だと思います。ただし、トラウムトレーニングではキッズ年代も上の年代の選手たちと一緒にプレーすることで、うまいプレーを肌で感じて目標にしたり、自分にもできるんじゃないかな? と思える瞬間があったり、そういう刺激もすごく大事になると思っています。キッズはキッズとわけて考えるよりも年代に幅を持たせてプレーすることに意義があると思って日々トレーニングをしています」

Q4.フットサルにもこのトレーニングは効果的ですか?

「ボールを扱う同じ球技なので、足で扱うという意味ではトレーニングは有効だと思います。ただし、グラウンドやボールが違うし、ボールの弾みも違います。それに僕はフットサルという競技を100%理解しているわけではないので何とも言えません。(フットサルをトレーニングに取り入れているチームもありますが?)狭いエリアで一人、二人、と敵がアプローチしてきたときに敵の矢印を感じてこう動くという、スペースの考え方としてはすごく有効だと思います。その狭いエリアで数的優位か、数的不利かをどう見るのか、という視点を養う意味でも効果は得られると思います」

Q5.低学年の子どもが上の学年と一緒にゲームをプレーしたときにパスは回ってきますか? あるいは、技術が低い子どもが混ざったときに成功体験は得られますか?

「僕たちはまず、その集団の中で最もレベルが高い、最も本気だと感じる選手をさらに1レベル高いところにもっていくことを考えます。その一方で、まだ技術レベルの低い選手もいます。でも、彼らがサッカーを楽しいと感じれば、できるようになりたいと思うでしょうし、上の年代の環境のなかに入ったとしてもきっと楽しむでしょう。トレーニングの「空気」がサッカーの上達には大切だと考えています。上のレベルの選手をさらに引き上げることで、他の選手達も離されまいと練習に臨む、それが大切なポイントだと僕は思います。

できない子どもはサッカーができていないだけで、人間的に劣っているわけでもなんでもありません。どうしてもできない、さらに本人の意志もサッカーに向いていないのであれば、その子どもにもっと向いている種目を探してあげることのほうが良い場合もあります。成功体験という観点でいえば、うまくできない子どもであっても、本当にサッカーをやりたい子どもであれば、うまくできないことが、自分がどうすればうまくいくのかを考える良いきっかけになります。

それに、飛び級として上の年代に混ぜたときにうまくできない状態が続いたとしても、ずっとそのままにしておくこともありません。その子どもに他に帰る場所があるのであれば、そこで成功しなくてもいいんです。上の年代と一緒にプレーして苦労して、同年代と一緒にプレーするときに成功すればいい。それを繰り返していく中で、上の年代での成功が増えていく。そういう環境であればいいのだと思います」

Q6.トラウムトレーニングで行っているトレーニング内容を教えてください。

「第一回の記事でも紹介しましたが、鬼ごっこはいつも必ずやるようにしています。そこで子どもたちのレベルや状態を見ながら、その日のトレーニングでどこにフォーカスすればいいのかを考えます。一例として鬼ごっこを挙げましたが、トラウムトレーニングで特別に行っている練習はなく、たとえば、5メートルの対面パスがもっとも大事にしている基礎練習といえるかもしれません。

この対面パスで『止める』を強調したいときの段階はいくつかあります。一つは、お互いが止まっている状態で行う対面パス、一つは、パスを出す人は止まったままで、止める人だけが動いてその足元に出す対面パス、一つは、出し手が動きながらパスを正確に蹴り、受け手も動きながら受ける対面パス。この3つの段階があり、さらにグラウンダーに加えて浮き球があるので、全部で6段階のレベルがあることになります。

ちなみに、出し手と受け手が動きながら浮き球で対面パスをする、というレベルは小学生ではやりません。(それぞれのポイントは?)子どもによってそれぞれ異なるのでしっかりと個別に見てあげる必要がありますが、いつも同じ(足元の)場所にボールが止まっているかどうか、同じ場所でしっかりとボールを蹴られているか。いつも同じ場所にボールを止めることができて、なおかつ、生きたボール、つまり、地面を滑るようなボールが蹴られている、ことが一つのポイントだと思います。これらを、止まったままではなく、動きながらの状態でも、もしくは、ボールが動いている状態でも適切なポイントを叩くことができているか。それが次の段階の話になります」

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<この項、了>
 
鈴木康浩(すずき・やすひろ)
1978年、栃木県宇都宮市出身。法政大学卒業後、作家事務所を経て独立。地元である栃木SCの取材は今季で10年目に突入。その他現在は日本のあらゆるサッカーシーンの心奪われる事象を何でも書くスタンス。「サッカー批評」「フットボールサミット」「月刊J2マガジン」「ジュニアサッカーを応援しよう!」などに寄稿している。元日本代表の小島伸幸氏の著書『GKの優劣は、ボールに触れない「89分間」で決まる』の構成を担当。その他構成した書籍多数。
 
取材協力/トラウムトレーニング
現・川崎フロンターレ監督の風間八宏氏が代表を務めるサッカースクール。同氏が提唱する世界に通じる"本物の技術"を習得することを目的とし、内藤清志総監督のもと5歳~18歳までの選手を育成している。また、トラウムとはドイツ語で"夢"を意味し、自らに期待し自分で"夢"を生み出すトレーニングのことを指している。