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バイエルンの惨敗は"朗報"? ドイツ代表のW杯を展望する

 COACH UNITED編集部です。今回は、「徹マガ」に掲載された記事より、おなじみ鈴木達朗さんのコラムを転載させていただきます。

 ご承知の通り、今季のUEFA CLにおいて優勝候補筆頭と目されたバイエルン・ミュンヘンは、レアル・マドリーに衝撃的な大敗を喫しました。この大敗は、もちろんドイツ国内に大きな衝撃を与えた一方で、ワールドカップに臨むドイツ代表においてはむしろプラスに働く側面もあるようです。その側面とは、どういったものなのでしょうか? ドイツ在住の鈴木さんが詳しく解説してくださいました。

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(c)Tete_Utsunomiya

 4月29日にバイエルン・ミュンヘンがホームでレアル・マドリーに0-4という惨敗を喫するまで、ドイツ国内のメディアでは(とりわけドイツ代表のワールドカップでのパフォーマンスにおいて)ポジティブな論調は見られなかった。

 理由は、この10数年の間、ワールドカップや欧州選手権の直前に必ず問題になる、準備期間の短さだ。今年のチャンピオンリーグの決勝は5月24日、ドイツのワールドカップの初戦は6月16日だから、もし、バイエルンが決勝進出していれば、準備の期間はわずか3週間しかないことになる。

 そうなっていれば、レーヴ監督にとっては痛手だったはずだ。というのも、現在のドイツ代表はバイエルンの選手を中心に組み立てられていると言っても良い。ラーム、シュバインシュタイガー、ミュラー、クロース、ボアテング、ノイアー、そしてゲッツェという7選手がドイツ代表として確実にブラジル行くだろう、と目されている。

 ドイツのメディアは、2012年の欧州選手権での不甲斐ないパフォーマンスを未だに忘れられずにいる。結果自体は、準決勝進出というものであったが、メディアはもちろん、ドイツ国内の一般的なファンも静的な試合内容に満足してはいなかった。

 全国紙『ディ・ヴェルト』は「バイエルンの赤っ恥によって、レーヴだけが得をする」という挑発的なタイトルをつけながら、記事の内容は極めて冷静(あるいは常識的)といういつものスタイルで、今回の敗戦によって2012年の二の舞いになることを避けられる、という論旨を書いている。

 大まかな意訳をすれば、以下のようになる。

(2012年)はFCバイエルンの選手はサルデーニャでの回復のためにキャンプには合流できず、フランスでの第二次キャンプの終盤に、チェルシーとの試合でのショックを引きずったまま合流しなければならなかった。

 レーヴは彼らのメンタル面でのケアによって、再びトーナメントで戦える状態にするため、大きな労力を割かなければならず、準決勝で、1"2というスコアでイタリアに敗れたとき、レーヴは『戦術のチョイスを間違えた』と自ら認めるはめになってしまった。4月29日の試合後にペップ・グアルディオラがそうしたように。

 だが、最終的にピッチに立つのは監督ではなく、選手たちだ。今回のバイエルンは、これまでの2006年以降のドイツ代表と同様に、肝心の試合で存在感を発揮できなかった。シュバインシュタイガーやラーム、クロースといった選手は試合から消えてしまっていた。ブラジルではそのようにならないよう祈るばかりだ。

(略)現在のドイツ代表は純粋にサッカーをプレーをすることに関しては、かつてないほどのクオリティを兼ね備えている。だが、勝負に勝つか負けるかは別の問題であり、そこで必要なのは意志の力なのだ。レーヴは、幸運にも、今回はチームの土台となる重要な選手たちをキャンプに連れて行くことが出来るのだ。

 全国紙の『フランクフルター・アルゲマイネ』の記者であるペーター・ケルテも「バイエルンの惨敗とドイツ代表」という記事のなかで『ヴェルト』紙と似たような見解を示しながら、このように記している。

(2012年に対して)チャンピオンズリーグ決勝に進出した2010年はインテル・ミラノに完敗を喫したものの、ドイツ・カップ決勝で4―0とヴェルダー・ブレーメンに余裕で勝利し、ワールドカップではサプライズとも呼べるほどのパフォーマンスを見せた。

 だが、この大会では、2012年や2014年の今回ほど、期待値が高くなかったぶん、そう見えたのかもしれない。とはいえ、代表の最近の試合(チリ戦)を観る限りでは、優勝の望みを持つのは少数派であり、その数も徐々に減りつつあるような印象を受けるのだが。

 この大会前の回復と準備というテーマに関して否定できない問題があるとするなら、今回のバイエルンの惨敗はポジティブな要素があるとも言えるだろう。チャンピオンズリーグ決勝でトリプルを再現するようなことになっていれば、赤いユニフォームに身を包んだ7選手は、再びワールドカップというタイトルを賭けた狂騒のなかで使い物にならなくなるほどに消耗してしまっていたことだろう。

 これは負け惜しみなのだろうか? 筆者の予想としては、特にバイエルンのファンでもないドイツのサッカーファンは、同様の見解を示すだろう。バイエルンがチャンピオンズリーグで優勝しても、ドイツ代表で精魂尽きて活躍できないようなら、しょうがないということだ。
 
 一方で、バイエルンに本拠を置く全国紙の『ジュートドイチェ・ツァイトゥンク』のトーマス・フンメル記者は「バイエルンのチャンピオンズリーグ敗退、笑い事じゃない」という見出しをつけて、バイエルン・ミュンヘンを応援する新聞として、主観的な立場から素直な心境を書いている。

 誰もが予想していなかった一夜。レアル・マドリーとの対戦での惨敗によって、バイエルンは、この数カ月の間続いていた支配が当たり前のものではないことを認識しなければならなくなった。チャンピオンズリーグ準決勝での敗退はある種のショックであり、多くの疑問を抱かせるものとなった。

 こう書いて、記事はグアルディオラの采配の批判に移っていく。この「誰もが予想していなかった」というのは的を射た表現だ。というのも、この敗戦の前の4月半ばまでは、まるでバイエルンがチャンピオンズリーグの決勝に進むことを前提とするかのように、専門誌『キッカー』をはじめとするメディアは代表選手の怪我や不調とワールドカップ前の準備不足を懸念する記事ばかりだったからだ。

 5月13日に予定されているポーランド戦では、カップ戦決勝を控えるバイエルンとドルトムントの選手に加え、FAカップの決勝を戦うアーセナルのエジルとメルテザッカー、シーズンが続くセリエAでプレーするクローゼ、ゴメスの両フォワードを含めた、ブラジルに行くであろう15名の選手が、招集できなかった。

 前述の『フランクフルター・アルゲマイネ』や週刊誌『シュピーゲル』は、この事実に加えて直近のチリ戦では、スタジアムに駆けつけた要求の高いシュトゥットガルトのファンからブーイングを受けたパフォーマンスを振り返りながら、不安要素を数え上げるような記事ばかりを書いている。

 バイエルンの敗退を境に、メディアの論調の潮目が変わりつつある。怪我の功名、塞翁が馬という言葉があるように、このバイエルンのミュンヘンでの惨敗が、ワールドカップで好成績を残すターニングポイントとなるかもしれない。

 決勝まで勝ち残ったレアル・マドリーで怪我を押して出場し、CL新記録を叩きだしたクリスティアーノ・ロナウド、センターバックのぺぺ、そしてサイドバックのコエントラン擁するポルトガルとの6月16日のグループリーグ初戦ではっきりすることだろう。

徹マガより転載

鈴木達朗(すずき・たつろう)
宮城県出身、ベルリン在住のサッカーコーチ(男女U6~U18)。主にベルリン周辺の女子サッカー界で活動中。ベルリン自由大学院ドイツ文学修士課程卒。中学生からクラブチームで本格的にサッカーを始めるも、レベルの違いに早々に気づき、指導者の目線でプレーを続ける。

学者になるつもりで渡ったドイツで、一緒にプレーしていたチームメイトに頼まれ、再び指導者としてサッカーの道に。特に実績は無いものの「子どもが楽しそうにプレーしている」ということで他クラブの保護者からも声をかけられ、足掛けで数チームを同時に教える。Web:http://www.tatsurosuzuki.com/


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