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筑波大の10番と中学生を同じピッチに立たせる理由――トラウムトレーニング(つくば)の場合

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 「自分を入れろ!」「動きすぎるな、隠れるぞ」「ディフェンス、水が漏れてるぞー」「立ち止まるな、受けてから考えるな、技術のスピードを落とすな」「ボールを暴れさせるな、出したいところに出せないぞ」......内藤清志(ないとう・きよし)監督の、独特なフレーズが飛び交う。川崎フロンターレ監督・風間八宏氏の哲学を反映した、「トラウムトレーニング」(つくば校)におけるある日の練習風景だ。
 
 http://www.kazamayahiro8.jp/tratre/index.html
 
 新鮮なのは、言葉遣いだけではない。この日行なわれたのは、通常クラス(5歳~18歳までの男女)と中高部クラス(中学・高校生の男女)のトレーニング。そのざっくりした分け方のとおり、年齢構成はバラバラ。この日の通常クラスは年中(5歳)から小学6年生(12歳)まで最大7歳差。中高部クラスに至っては、中学1年(13歳)から筑波大サッカー部の4年(22歳)と実に最大9歳差の選手たちが同じピッチでプレーしている。そして、内藤監督はその全員に「同じように」指示をだすのだ。
 
 中学生と同じピッチに立つ大学生の中には、筑波大学蹴球部で10番を背負う中野嘉大(なかの・よしひろ)もいた。ボランチのポジションに入り、圧倒的なスキルで場を支配、来季のJリーグ入りが有力視される逸材だ。内藤監督によると、中野選手だけでなく、日にちによっては川崎フロンターレ入りが内定した車屋紳太郎(くるまや・しんたろう)らレギュラーメンバーも顔を出すことがあるという。

 筑波大サッカー部では、下手をすると4年間一度も彼らと同じピッチにたてない選手もいるという。中野選手や車屋選手ら大学サッカー部のエース級と、先日まで小学生だった子どもたちを同じピッチに立たせる......普通の発想ではあり得ないことだ。
 
 もちろん、これは単に奇をてらったものではない。中学生でも大学生でもやるべきことは同じ、年齢が高まれば同じ哲学の中でより要求水準が高くなる、ということを徹底されているからのことだろう。約束事がない状態で単純に大学生と中学生を同じピッチに放り込んでしまえば、いかにスキルの高い中学生であろうと、大学生のフィジカルに圧倒されてしまうのは目に見えている。
 
 そうならないよう、内藤監督は「幹と枝」という表現を用いる。

「『幹』(中のポジション)は、360度という世界があり、あらゆることを考える必要があります。そのため、まだ若い選手には外で『枝』になってもらうのです。外のポジションというのは視野が限定されますから、360度ある中の世界よりは、「見る」「考える」という作業が楽になります。

 幹のポジションが難しいのは、その360度の世界を自分自身でどう「選んで」「限定して」いくか...どんなに優れた選手でも、背中に眼のついた選手はいません。つまり、いつ・何をするのか、逆に何を見なくていいと判断できるかが、幹のポジションでは重要になってきます。もちろん、幹に向いていない選手もいますが、向いている選手であっても最初は枝としてプレーしてもらい、幹の選手にどのような要素が必要か学んでもらうのです」

 実際、ジュニアユースの選手が担当したのはインサイド(幹)ではなくアウトサイド(枝)。マッチアップするのも、同じジュニアユースの選手だ。しかし、アウトサイドだからといって、また相手が同年代だからといってラクなわけではまったくない。ピッチの中でインサイド・アウトサイドが交じり合うことは、もちろんある。15分のミニゲーム中、内藤監督はまったくプレ―を止めず、止めないまま短い言葉で次々と声掛けを行なう。

 選手は「動きを止めないまま」矢継ぎ早に流れる展開の中で最適な技術、最適な判断、最適なプレーを要求され続ける。大量のボールを用いてマルチボールシステムを採用し、ボールデッドした瞬間に次々と新しいボールが補給され、ゲームには切れ目がない。こうしてトータル2時間の練習時間はあっという間に過ぎ、選手たちのシャツはぐっしょり濡れ、疲労困憊の様子が見て取れた。
 
 アウトサイドを担当した中学生は、内藤監督の「背中を取れ」「隠れるな」「技術を遅くするな」という指示を受けながら、めまぐるしく変わる展開に精一杯ついていく。そして、対面の相手こそ同年代だが、中央から斜めに走ってくるのは大学生の選手たち。大学生とのコンタクトが比較的少ないアウトサイドに置かれているとはいえ、同じピッチに立っている。自分のポジショニングミスでカバーが間に合わなければ、容赦なくそこを突かれ、失点の原因となり、落ち込んでいるヒマもなく次の展開が始まる。
 
 また、このやり方では、ゲーム中にジュニアユースの選手たちがボールタッチする回数は相対的に減る。まさに「大人と子ども」の体格差がある中では、なかなかボールも奪えない。中学生にとっては肉体的にも精神的にも、極めて負荷の高いトレーニングだ。こうしたやり方に、批判の声はないのだろうか。
 
「確かに、若い子を『枝』として使うことで、彼らがボールタッチする回数は減ります。そのことを指摘されることもあります。しかし、練習では多くのボールを用いていますし(編集部注:通常クラスのトレーニングでは、用意したボール以外に選手が各自持参したボールも使う)、別のトレーニングでもボールに触れる部分は補っています。このゲームでは、ボールタッチ数が減ること自体よりも、外から『幹』がどのように振る舞うかを観てほしいのです」

 育成年代においては「試合を観ること」の重要性が叫ばれているが、「実際に同じピッチでプレーする」そして「そのプレーをアウトサイドから観る」ことは、単に観ること以上の絶大な効果があるはずだ。

 次回は、内藤監督の「声掛け」の見事さに迫る。


取材協力/トラウムトレーニング
現・川崎フロンターレ監督の風間八宏氏が代表を務めるサッカースクール。同氏が提唱する世界に通じる"本物の技術"を習得することを目的とし、内藤清志総監督のもと5歳~18歳までの選手を育成している。また、トラウムとはドイツ語で"夢"を意味し、自らに期待し自分で"夢"を生み出すトレーニングのことを指している。

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