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「課題の半分以上はピッチ外かもしれません」田嶋幸三(JFA副会長)×幸野健一

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幸野 JFAは2005年に「JFA2005年宣言」を発表しました。その中に「2015年にサッカーを愛する仲間=サッカーファミリーが500万人になる。日本代表チームが世界でトップ10のチームになる」というものがあります。

私は日本代表が世界のトップ10に入ることよりも、サッカーファミリーを増やすことのほうが大切だと思っていて、日本代表などのトップを引き上げることと同時に、日頃からサッカーを楽しむ人たちを増やすこと、つまりボトムアップもやっていかないといけない。私は50歳を迎えたいまでも年間50試合ほどサッカーを楽しんでいますが、グラウンドの少なさなどから、サッカーを楽しむ仲間、サッカーファミリーの増加という部分では、それほど実感がありません。

田嶋さんを始め、JFAのみなさんにお願いしたいのが、サッカーを楽しめる環境づくりです。折しも東京オリンピックの開催が決まりましたし、インフラ整備を進めて、誰もがスポーツを楽しめる環境を作っていってほしいと思っています。

田嶋 私がJFAの専務理事になってからは、サッカーファミリーを増やすことに力を入れてきました。試算すると、目標の500万人近くにはなってきていますし、それを600、700万人と増やしていくことが大切だと思います。

グラウンドに関しては、JFAが47都道府県に20億円近くをかけてフットボールセンターを作ろうとしています。また、学校の校庭やスポーツ施設を芝生にする『グリーンプロジェクト』も推進しています。ただ、それでもまだグラウンドの数は十分ではないんですよね。公共のグラウンドも抽選などで、なかなか使うことができません。みなさんが自由に使えるグラウンドを増やさなければいけないし、それぞれのクラブがホームグラウンドを持つ時代になることが理想だと思っています。

幸野 グラウンドに関していうと、次々に増やしていくことは難しいですよね。私がアーセナルサッカースクール市川に携わることを決めたのも、グラウンドを作るPFIという手法(編注 プライベート・ファイナンス・イニシアチブ。公共施設の建設、管理、運営を民間の資金、経営能力を活用して行う手法)が、サッカー界に貢献できると思ったからです。また、JFAがリーグ戦化を推し進めていますが、グラウンドが増えれば一発勝負のトーナメント戦ばかりではなく、一定の試合数を確保したリーグ戦も恒常的にできるようになりますよね。

田嶋 仰るとおり、環境を整えることはとても重要です。幸野さんのように情熱と行動力を持った方が増えてくれれば、 我々の取り組みと合わせて、サッカーを楽しめる人がもっと増えていくと思っています。

幸野 私は「生涯スポーツ立国論」を提唱しているのですが、誰もが身近にスポーツを楽しむことのできる社会を実現することが、一番の強化方法だと思います。スポーツをやっていない人に聞くと、月に1万円も払ってスポーツクラブに通えないとか、どこでやっていいかわからないとか、それぞれにハードルがあります。そのハードルを少しずつでも下げていき、日本の半分以上の人が日常的にスポーツをする社会を実現することが、健康面や医療費の低減と子供への教育面、ひいてはサッカーの強化という意味でも近道なのではないかと思います。

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幸野 デュソーさんは常に『トーナメント形式の大会を全部やめて、リーグ戦に変えることが最大の強化策だ』と言っていました。

日本の育成年代でも少しずつリーグ戦形式が増えてきましたが、日本のアンダー世代の代表チームが外国のチームと試合をすると、最初の数試合は相手のハイインテンシティに面食らって、自分たちのサッカーができなくなることがしょっちゅうでした。

その後、試合を重ねるごとに慣れてきて、ようやくいい勝負ができるようになった頃には大会が終わってしまう。私はそれを現地で何度も見てきました。その原因は、日頃のプレーインテンシティの低さ。これに尽きると思っています。

田嶋 日頃の練習から、高い意識を持ってトレーニングをすることが大事ですよね。たとえば練習でボール回しをするときも、ボールを奪いに行く選手が厳しく寄せないと、パスを回している側がうまくなることはありえません。

幸野 そこは表裏一体ですよね。日本の育成年代の試合を見ていると、守備が弱いから、攻撃の強度も緩い印象があります。ヨーロッパの選手たちは、指導者がなにも言わなくても、勢い良くボールを奪いに行きますよね。ディレイなんかせず、ボールを狩るという感覚でプレーしています。高いプレーインテンシティでトレーニングする環境を指導者が作らないと、試合で使える技術はつかないと感じます。

田嶋 環境を作るのが、我々JFAの仕事だと思っています。そのためにも定期的なリーグ戦は重要で、ご存知だとは思いますが、育成年代のリーグ戦化については、ここ数年、大きく変わってきました。高円宮杯プレミアリーグを筆頭にプリンスリーグがあり、東京であればTリーグが1部から4部まであります。これは現場で指導や運営に携わる方々の協力があって実現しました。

幸野 そうですね。

田嶋 ただ、セルジオ越後さんに会うたびに言われるのは、補欠をなくせと。ひとつのチームに何十人も補欠がいる。それでいいの? と。選手をたくさん抱えるチームの中には、コーチを数人確保して、試合出場の機会を作っているところもありますが。

幸野 補欠をなくすためには、選手登録の形を変えるのが一番だと思います。1クラブあたりの複数登録を認めることと、選手がスムーズに動ける仕組みを作るべきだと思います。JFAアカデミーにしても、Jクラブのアカデミーにしても、一度入ったら、3年ないしは6年はいることができる。

多くのクラブ関係者の意見を総合すると、言葉は悪いですが、途中で選手を馘(クビ)にするシステムを導入できないのは、行く場所がなくなってしまうからです。選手の流動性が起きる仕組みを作れば、レベルに合ったクラブに移ることができますし、それが最終的にプレイヤーズファーストにつながると思っています。

田嶋 ヨーロッパのようにクラブチームでプレーしていると、選手は流動的に移動することができるのですが、日本サッカーの成り立ちは学校スポーツだったこともあって、大半の選手が学校の部活動でプレーしています。そのため難しい部分はありますが、中学年代はクラブが増えてきたので、チーム間の移籍がしやすくなりつつありますよね。

幸野 私が選手や保護者に相談されるのが、高校のサッカー部に入ったんだけど、チームや指導者と合わなくてやめたいと。でも特待生などで入ると、サッカー部をやめることイコール、学校をやめることになります。そうなったときの救済策がないんです。本当は学校とサッカーを切り離してできるのが一番いいのでしょうけど、田嶋さんがおっしゃるように、学校でサッカーをする選手が多い以上、それは難しいことです。それに、学校法によって、教員でなければ外部の大会や試合に出場するときの引率ができないという問題もあります。

田嶋 教員以外が引率をして、何かが起きた時に責任はどうするのかという問題があるからでしょうね。

幸野 これは個人的なアイデアなのですが、親の承諾をもらって、選手からも署名をもらえばできるといったように変えていくべきですよね。S級ライセンスを持っている指導者は多いのに、指導をする場を持っていない人たちもたくさんいるわけじゃないですか。

田嶋 その意味では、サッカーのピッチ以外の部分を変えていかなくてはいけない。もしかしたら、課題の半分以上がピッチ外の部分かもしれません。

幸野 そうですね。学校をやめたらサッカーをするところがない、というのはナンセンスです。日本は学校単位でスポーツをする人がほとんどなので、卒業と同時にスポーツが終わってしまいます。大学の体育会系サッカー部でプレーしている選手は、いわばエリートですよね。だれでも、大学までは好きなスポーツができるようにならないと。継続してサッカーができるシステムが必要だと思います。そのためにはグラウンドを含めて、環境面の充実が不可欠です。現状では、グラウンドの数があまりにも少なすぎます。

田嶋 なぜスポーツの中心が学校なのかというと、スポーツインフラの大半を学校が保有しているからです。日本はドイツのように、社会体育の中にクラブを作って、そこでスポーツをする形にはなっていません。我々としても、環境を作ることの重要性は理解していますし、実際にフットボールセンターを作ろうとしています。

幸野 環境整備も含めて、日本サッカーのために、田嶋さんにやっていただきたいことがたくさんあります。本日はありがとうございました。

田嶋 ありがとうございました。幸野さんのご活躍と、アーセナルサッカースクールの今後を楽しみにしています。
 
<了>
 
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