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センターバックの安定感がもたらしたブラジルの"縦への推進力"

ブラジル2-1コロンビア

勝負を決めたのはセットプレーから生まれたブラジルの両CBによるゴールだった。しかし、試合の行方を左右したのはブラジルが見せた驚異的なまでの縦への推進力だった。

確かに比較的涼しい夕方の試合だったとはいえ、これまでのチームと同じとは思えないぐらい、ブラジルは序盤から積極的な動きでコロンビアを押し込んでいった。激しいプレスで相手の攻撃を遮断し、ボールを奪うと間髪入れずに攻撃に移行。ここまでの4試合で常に主導権を握る戦いをしてきたコロンビアだが、立ち上がりは全くボールを前に運べなかった。

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追加点となるFKを決めチアゴ・シウバと抱き合うダビド・ルイス

取材・文/中野 吉之伴 キャプチャー提供/Legends Stadium

■驚異的な縦への推進力

「前へ!」の意識は、まず守備に出ていた。ブラジルは高い攻撃力を誇るコロンビアに全く臆することなく、中盤から勇敢なボール奪取のチャレンジを仕掛け続けた。ボールを奪って攻め上がる時には守備ラインを素早く押上げて、陣形を常にコンパクトに保つ。

縦パスを受けた相手にボールをキープさせたり、振り向かせたりさせず、積極的に相手の前に飛び出してカットすることを狙い続けた。考えなしにインターセプトを狙うのではなく、戻りの早い前線の選手がボール保持者にプレスをかけることで、パスコースを限定。

また、前から取りに行くことを把握している後ろの選手がしっかりとカバーに入っていたのも大きい。選手はそれぞれ自分のポジションにだけとらわれるのではなく、例えば左サイドバックのマルセロは状況に応じて中に絞り、何度もカットやクリアを見せていた。

ボールを奪うとスピードに乗ったドリブルでボールを運び、相手が寄せてくるとサッとはたく。くさびのパスからダイレクトにスペースにパスを送り、サポートに入った選手がそのスペースに次々に走り込んでいった。チームとして"縦への推進力"があるということは、最初の段階でスピードに乗って駆け上がっていけるポジショニングを取れていたということになる。

深すぎると前に飛び出していくのは難しく、浅すぎると守備で相手にスペースを与えてしまう。といはいえ、盲目的にすべての選手が同時に飛び出すと、ちょっとしたミスで一気にピンチになるのは自明のことだ。スペースに抜け出せる選手が飛び出し、他の選手は前への距離を詰めながら自分がスタートできるタイミングを待つ。チームとしても「前へ!」という共通認識があるからスピードは常に高く保たれていた。

チームとして縦に素早く攻めるコンセプトを機能させるには、パスの出しどころが重要になる。そして、パスが向かう先にいるのがエースの"ネイマール"だ。 

■ネイマールがブラジルのリーサルウエポン

前線で攻撃の起点を作るのが、ネイマールが行う最初の仕事だ。ボールを持った彼を止めることは困難だし、素晴らしい才能の持ち主であることには疑いようのないこと。チームメイトを納得させるだけの突破力と得点力を誇る。

しかし、ドリブルを武器とする選手はチームにとって諸刃の剣になることもある。持たなければ勝負できないが、持ちすぎるとチームのリズムを崩す要因にもなる。攻撃をサポートしようと他の選手が上がってきても、パスが出てこなければそこで動きは停滞し、次に攻めあがるべき時に出足を鈍らせることがある。出てくるべき一歩が出てこなければ相手に反撃を許し、積極性は無謀になり、全てが裏目になりかねない。

だが、この日のネイマールは試合を通して運動量も多く、素早い動き出しでスペースに走り込んでパスを引き出していた。激しいマークに来ることを裏手に取るダイレクトパスで相手をいなしたり、サポートに来る味方にパスを渡してから縦に抜け出したりと、得意のドリブルを基調としながらも球離れの早いプレーでチームの縦への推進力を損なうことなく、自分のプレーを出していた。

先制ゴールも、ネイマールがドリブルで持ち込んで得たCKからだったし、ペナルティエリア付近から素晴らしいダイレクトパスでチャンスを作るなど、ブラジルの攻撃陣を牽引していた。時折、持ちすぎで相手に奪われるシーンも見られたが、すぐに立ち上がって守備に戻り、チームを助ける意識を常に見せていた。

ネイマールが前線で相手を引き付けて攻撃のポイントとなったことで、他の選手の押し上げ効果もアップした。こうして、高い「前へ!」の意識がブラジルに躍動感を最大限に高めたが、ここまで積極的なサッカーを見せることができたのは難攻不落の二人のCBの存在があるからだ。

■プレッシングサッカーを支える鉄壁のCB

激しいプレッシャーで相手の攻撃を許さないようにしようとしても、90分間抑え切れることはできない。コロンビアの得点源である司令塔のハメス・ロドリゲスはブラジルの徹底マークに合い、序盤はなかなかボールに触ることはできなかった。しかし、徐々にスペースを見つけ出す。広い視野で素早く味方選手を見つけると、柔らかなタッチでパスを通して攻撃のリズムを作ることに成功した。当然、プレスはかわされると、後ろに広大なスペースを与えてしまう。実際に、ブラジルは何度かそこをつかれてしまった場面もあった。だが、世界最高峰のCBコンビが最後のところでコロンビアの前に立ちふさがった。

センターバックのダビド・ルイスとチアゴ・シルバの2人は、単純に1対1が強いだけではなく、戦術理解が素晴らしい選手だ。数的不利な状況になっても最適な状況判断で相手の攻撃を遮断してみせた。例えば、相手が中央からドリブルで持ち込んで来たら互いの距離を詰めてセンターを固め、相手がサイドに出すだろう絶妙のタイミングで距離を広げて、パスの受け手とエリア内に走り込む選手をマークしてみせた。

この試合、2人は守備だけではなく、得点源としても勝利に大きく貢献した。先制点となったネイマールのCKからのチアゴ・シルバのゴールは練習通りのものだろう。ニアに複数の選手が飛び込んで相手を引き付け、ファーの選手が押し込む。チリ戦でも同じような形からダビド・ルイスが決めている。2点目のダビド・ルイスのFKは褒めることしかできない。ハメス・ロドリゲスにPKで1点を返されたが、最後まで集中力を切らさずに鉄壁のセンターバックを中心にコロンビアの攻めをしのぎ切ったブラジルが、見事にベスト4進出を決めた。