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adidas CUP U-18決勝レポート

8月2日、第38回日本クラブユースサッカー選手権大会 adidas CUP U-18 2014決勝がニッパツ三ツ沢球技場で行われ、三菱養和SCユースがFC東京U-18を1対0で下し、31年ぶりの優勝を果たした。(文・写真 鈴木智之)

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三菱養和 1対0 FC東京U-18
得点:前半24分 伊東駿(三菱養和)

■優勝は、街クラブの雄

全国のJクラブ、街クラブの強豪が集い、クラブチーム日本一を決めるadidas CUP。最後に歓喜の雄叫びをあげたのは街クラブの雄、三菱養和SCユースだった。グループリーグではジュビロ磐田、ファジアーノ岡山、決勝トーナメントに入ってからは、清水エスパルス、京都サンガ、コンサドーレ札幌といったJの強豪を撃破。攻撃のキーマン(10)下田悠哉は「次々と強豪チームと戦うので、精神的にも大変だった」と決勝までの道のりを語る。

ファイナルでは、同じ東京を本拠とするFC東京U-18との対戦。「Jクラブに勝つことは目標にしているし、全国の街クラブを代表してという気持ちもあります」と話す山本信夫監督の指揮もと、一戦一戦勝ち上がってきた。

対するFC東京U-18は、決勝トーナメント初戦のベガルタ仙台ユース、準々決勝ではジェフユナイテッド千葉U-18ともにPK戦で退け、準決勝では雷雨による中断を経て、時間切れによる抽選(スコアは1対1)でファイナルの切符を手に入れた。薄氷を踏む戦いを続けながら、勝負強さを発揮して競り勝ってきた。

三菱養和SCユース、FC東京U-18ともに、システムは(1)-3-4-2-1。FC東京U-18はボランチの(6)高橋宏季、(15)安部柊斗を中心にていねいにパスをつなぎ、馬力のあるアタッカー(9)蓮川雄大、高い技術と豊富なアイデアで攻撃に変化をつける⑩佐々木渉を起点に、三菱養和ゴールに襲いかかる。

一方の三菱養和は、キャプテンのCB(5)池田樹雷人を中心に、1年生ながら対人プレーに無類の強さを発揮するCB(26)杉山耕二、堅実なプレーが持ち味のCB(4)関野太聖を中心とした3バックと、両ワイドの(3)椿健太郎、(7)相馬勇紀が最終ラインに吸収され、強固な5バックの砦を築き上げた。

先制ゴールは24分、三菱養和に生まれる。攻撃のキーマン(10)下田が対峙するDFをドリブルで揺さぶりながら、ペナルティエリアに進入。GKと1対1の場面でシュートを打つ。一旦はGKにストップされるが、こぼれ球を(8)伊東駿が蹴りこみ、スタンドに詰めかけた大応援団の後押しを受けた三菱養和が先制する。

先制ゴールの起点となった(10)下田は「(FC東京U-18とは)新人戦で当たったときに、1対1でドリブルをすると、相手がついてこられない場面が多かった。積極的に仕掛けていこうと思っていた」とイメージ通りのプレー。攻撃のキーマンが大一番で決定的な仕事をやってのけた。

1点ビハインドを負ったことで、FC東京U-18の攻撃が勢いを増す。しかし、その前に立ちはだかったのは三菱養和の赤い砦。5バック2ボランチで守備ブロックを形成し、FC東京U-18のストライカー、得点ランキングトップタイの(9)蓮川には、(26)杉山がマンマーク気味につき、仕事をさせず。チーム全体で守備意識が高く、シュートを打たれる場面では体を張ってボールにくらいついた。

「シュートブロックの場面や球際の争いでは負けてほしくない。それは普段から言っていること。大事なところで体を張る部分は、選手たちが実践してくれた」とは、三菱養和・山本監督。

三菱養和も防戦一方ではなく、奪ったボールをすばやく前線に展開。体を張ったボールキープと鋭いドリブルで前線の起点になる(9)ディサロ燦シルヴァーノ、ドリブル突破とシュート意識の高い(10)下田、縦への推進力が持ち味の(7)相馬を中心にカウンターを仕掛ける。

最後まで一進一退の攻防が続く、決勝戦にふさわしい好ゲームはそのままタイムアップ。街クラブの雄・三菱養和がFC東京U-18を1対0で退け、31年ぶりの優勝に輝いた。

■明暗を分けた守備の精度

「決勝戦は毎年スタンドから見ていたので、まさかここでプレーすることになるとは思いませんでした。小学生、中学生の段階でJクラブに入れなくても、がんばっていればチャンスがあると見せられたと思います。養和に限らず、街クラブの子たちの励みになればと思います」(三菱養和・山本監督)

「相手の "堅守速攻"はわかっていました。前線の選手の爆発力やクオリティでこじ開けようとしましたが、なかなかうまくいきませんでした。惜しいチャンスはあったので、そこを決め切ることができれば。あの手、この手で左右に揺さぶってみたり、ミドルシュートを打ってみたりしたんですけど......。選手たちは悔しい思いをした。その気持ちをこれからのリーグ戦やカップ戦につなげたい」(FC東京U-18・佐藤監督)

どちらが勝ってもおかしくない、僅差のゲームだったファイナル。明暗を分けたのは守備の精度だろう。最終ラインの要であり、キャプテンの(5)池田は言う。

「W杯でも、勝ち上がったチームは相手によって戦い方を変えることができていました。自分たちも、パスを回して攻めるところと、引いて守るところの使い分けができるようになってきました。パスを回されたらブロックを作るし、行ける時は攻守の切り替えを速くして、ボールを取りに行く。そのあたりの判断がチーム全体で共有できています」

大会を勝ち抜くためには、守備の完成度が不可欠。魅力的な攻撃陣を擁していても、簡単に失点を許してしまっては頂点まではたどりつかない。ブラジルW杯を見ても、それは明らかだ。三菱養和は守備の時には5バック気味になって相手の攻撃を吸収し、奪ったボールを、破壊力のある前線に素早く運ぶ。「ディサロや相馬など、スピードのある選手がいるので、信じて走れば一人ははがしてくれる。それでカウンターがうまくいっている」とは大会MVPに選ばれた(10)下田。優勝するにふさわしい、攻撃と守備が高いバランスで融合した、三菱養和の戴冠だった。