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世界的指導者集団サッカーサービスが分析する アギーレ体制の船出

日本代表の監督にアギーレが就任し、ロシアW杯へ向けて新たな航海が始まった。就任後、初試合となるウルグアイ戦とベネズエラ戦を終え、1分1敗の結果が残った。果たして、日本代表は今後どのような航路をとるのか。スペイン・バルセロナを拠点に世界中で活躍する指導者集団、サッカーサービスのポールコーチに分析してもらった。(取材・文 鈴木智之)

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■アギーレ指揮下で見えた 守備組織の安定

日本代表のウルグアイ戦とベネズエラ戦を分析しましたが、アギーレ色が濃く出ていたのが守備面です。2試合とも4-3-3でスタートし、アンカーに守備に特徴を持った森重選手を起用しました。彼は、DFラインを安定させる能力は高いものがあります。ボランチの位置から最終ラインに入るタイミングが良く、マークの受け渡しもうまくやっていました。ウルグアイ戦で、アギーレ監督が森重選手を褒めていた場面があります。それは味方がボールを失った瞬間に、守備組織を構築すべく素早くポジションに入った場面です。アギーレ監督は2試合を通じて、4人のDFと1人のアンカーの関係性をとても気にしていました。両ウイングとインサイドハーフがボールを失った瞬間に守備ブロックを作り、相手選手に突破させないこと。それこそが、アギーレ監督がこの2試合で選手に求める、最優先事項だと見受けられました。

アギーレ監督が就任してわずか2試合ですが、守備については改善の兆しが見え始めています。ウルグアイ戦、ベネズエラ戦ともに2失点を喫してしまいましたが、3点は選手個人のミス、1点はPKです。ベネズエラ戦の前半は相手に攻め込まれる場面もありましたが、新たな選手で守備ラインを形成している状況下としては、まずまずの出来だったといえるでしょう。ただし、判断ミスが悔やまれる場面がありました。それが、ベネズエラ戦で水本選手がPKを与えたシーンです。快速を活かして相手に追いついたのはいいのですが、ボールを奪おうと、倒れてスライディングをしてしまいました。

あの場面で優先すべきことは、ファーサイドのシュートコースを塞ぐことです。ニアサイドはGKの川島選手がいたので、水本選手はファーサイドのコースへシュートを打たせないように、上半身をぶつけるか腕を使って相手をブロックすれば、なんてことのない場面でした。これは日本のDF全般に言えることですが、ボールを守ろう、ボールに先に触ろうという意識があまりにも強すぎて、常にボールに対してスライディングタックルをしてしまうのです。水本選手がPKを与えた場面は、タックルをして倒れなくても、十分に守ることのできる距離でしたが「ボールに先に触らなければ」という意識が強かったのでしょう。結果として倒れるスライディングタックルを選択し、PKを取られてしまいました。もしタックルをするのであれば、ボールにではなく"ボールが進むであろうスペース"を予測して足を出せば、ブロックすることができます。ボールだけを見て、ボールだけに触ろうとした結果、誤った判断をしてしまった場面でした。

■本田をウイングに置くことで 守備の負担を軽減

攻撃に関しても、ポジティブな材料が見えました。なかでも武藤選手、柴崎選手のプレーは日本代表の未来を感じさせるものでした。武藤選手は両足でボールを扱うことができ、前方に優位なスペースがあると、すばやく侵入して決定的な仕事ができる選手です。柴崎選手のプレーは、私にとって驚きではありません。なぜなら、彼はブラジルW杯でプレーしていてもおかしくはないクオリティを持った選手だからです。柴崎選手は試合の状況を読む力があり、味方に対する良いサポートができる選手です。そしてボールを扱う能力も高いものがあります。ゴールに近い位置でプレーをすることで、相手の脅威になることのできる選手なので、アギーレ監督は今後もインサイドハーフで起用するのではないでしょうか。

本田選手を右のウイングに置いたことは、アギーレ監督から彼に対するメッセージでしょう。左右のウイングは中央のポジションと違い、守備に関する負担が少なくなります。アギーレ監督のやり方を見ると、アンカーは守備的、インサイドハーフのうち1人が守備的、1人が攻撃的です。ベネズエラ戦を例に上げると、森重、細貝、柴崎の3選手のうち、前者2人が守備的、1人が攻撃的です。4人のDF+アンカー1人+インサイドハーフで守備を構築し、左右のウイングは守備にそれほど関わらなくても良い戦術を採用しています。このシステムにより、本田選手の守備に対する負担が軽減されます。彼が持つ攻撃性が十分に発揮されるでしょう。

香川選手が復帰した場合、どのポジションに入るか。おそらく左のウイングだと思います。本田選手同様、香川選手もサイドに置き、守備の負担を減らすとともに攻撃に才能を発揮してもらうのではないかと推測します。ただ、そうなった場合の懸念材料がひとつあります。本田選手も香川選手も中央に入ってプレーをする傾向があるので、攻撃時の幅が失われるおそれがあります。サイドバックの長友選手はサイドの幅を作れる選手なので大丈夫だとは思いますが、攻撃が中央に集中しすぎると、守備側からすると守りやすくなります。攻撃時の幅をいかに作るかが、今後のテーマになるのではないでしょうか。

この2試合を通じて、守備面では個人の判断ミス、技術的なミスが見られましたが、守備組織が安定した兆しを見せたという意味で、新監督の船出としてはまずまずだと思います。今後、センターバックの人選を見極めて守備を安定させた後、攻撃面に着手していくものと思います。アギーレ監督はスペインで指揮を執っていたときも、まずは守備組織を作り、攻撃は後から手を付けていました。10月のジャマイカ戦、ブラジル戦ではどんな選手が選ばれるのか。そこも見どころのひとつになるでしょう。

ポール・デウロンデル
UEFA監督ライセンスA級所持。サッカーサービス社において、試合分析部門の責任者を務める。また選手個人に対するコンサルティングや、世界各地で行われるクリニックでの指導を担当している。日本で展開されているサッカーサービススクールのメインコーチ。
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