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東京国際大・前田秀樹監督インタビュー(前編)「システムを使い分け、長所を武器に!」

システムは、現代サッカーにおいて重要視されている。チームの志向するサッカーよってそれを使い分けることもできるが、選手の個性、持ち味を最大限に発揮するためにシステム選ぶことも可能。東京国際大の前田秀樹監督は、システムによって個の力を高め、チーム力を上げることができると説く。(取材・文/杜乃伍真)

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■日本代表も最適のシステムで「個」を生かす

 サッカーを戦ううえで重要なシステム。現代サッカーには実に様々なシステムがありますが、では、このシステムとはいったい何のために存在するのでしょうか。

 攻撃的に戦うため? 守備的に戦うため?

 もちろん、そういった説明も間違いではないでしょう。

 かつて日本代表として活躍し、現在は、関東大学サッカーリーグ1部所属の東京国際大学サッカー部の前田秀樹監督はこう考えます。

「サッカーにおけるシステムは、『選手たちの良さをいかに引き出すか』という観点から考えるべきだと思います。サッカーには様々なシステムがあり、Jリーグでも様々な監督たちがシステムを使い分けています。では、なぜシステムの使い分けが重要視されるのか。それは、選手たちそれぞれが持っている特徴を踏まえながら、そのストロングポイントを最大限に引き出すためではないでしょうか」

 たとえば、ブラジルワールドカップを戦った日本代表の基本的なシステムは4-2-3-1でした。長友選手、香川選手、本田選手、遠藤選手らが絡んだ左サイドからの攻撃は機能したときに相当な破壊力を秘めていました。長友選手は身長が低く、自陣での競り合いを強いられれば高さで分が悪いと自覚していたはず。そこで左サイドハーフにいる香川選手がなかへ動き、その空いたスペースに長友選手がその運動量やスプリント能力を存分に生かして何度もサイドを駆け上がる、さらに左サイドからなかへ絞ったときの香川選手のトップ下としての能力も生きる、そういったストロングポイントを押し出すことでウィークポイントを消す。そんな駆け引きが戦いのなかでは生まれていたはずです。そしてそれぞれのストロングポイントを生かすのに4-2-3-1は理にかなったシステムだったのです。

「選手たちが持っている特徴を最大限に生かしながら11人で勝利を目指す。特に育成年代の指導者の方には、システムありきで選手を当てはめるのではなく、まず選手が持っている特徴を最大限に生かすことを考えて、様々なシステムを使い分けてほしいと思います」

 ところが、実際にはそうは考えてない指導者も少なからずいることは確かです。

 たとえば、それはジュニア世代の練習風景を見ても一目瞭然です。チームにどんな子どもたちが集まってきても、常に同じように、子どもを自陣ゴール前に何人も並べて、前線に足が速い選手を一人だけ配置し、カウンター一辺倒のサッカーで勝利を目指す指導者がいます。そのサッカーは確かに短期的に結果は得やすいのかもしれません。

「そうやって勝利を目指すことも大事なことですが、育成年代で子どもたちに何を学ばせるのかをよく考えるべきだと思います。自陣のゴール前にディフェンスの選手たちをずらりと並べるのは、守備時に相手よりも数的優位の状況を保つためです。しかし、それは1対1のような状況では守りきれないと恐れて、常に数的優位の状態をつくることで選手たちの弱点を覆い隠しているだけに過ぎません。自分たちのウィークポイント、つまり、弱点を子どもたちにしっかりと把握させて、ではどう対応すればいいのか考える力を身につけさせること。それがその先のステップへと繋がっていくと指導者は考えるべきではないでしょうか」

■弱点を知ることで、多くが身につく

 日本サッカー協会がジュニア世代の8人制サッカーで推奨しているシステムは2-3-2。これはディフェンスの選手たちが1対1の数的同数の状況になりやすいシステムであり、その状況をジュニア世代でたくさん経験することで「個」を伸ばしてほしいというメッセージが込められたものです。

 しかし、現状はといえば、少なくないチームが3-3-1のシステムで戦っているのが8人制移行後のジュニアの現場で起きていることです。

「ディフェンスラインを数的同数にすれば、突破されて失点を許す可能性も高まるでしょう。しかし、子どもは失敗を重ねて、自分自身の弱点を把握することで、どうすれば1対1の状況で勝てるようになるのかを自然と考えるようになります。子どもはそのような危機的な状況に放り出されたときに初めて、その状況に必要な筋力や体力、メンタル、間合い、駆け引きといったものを感じながら身につけていくものです」

 もちろん、前田監督は守備に人数をかけるサッカー自体を否定するわけではありません。事実、前田監督が着任した当時の東京国際大学は、部員数が一桁の人数しかおらず、やむなく自陣に引きながらカウンターを狙うサッカーで上位を狙う戦い方しかできませんでした。

「しかし、そのサッカーでは選手たちの守備能力の低さをシステムで覆い隠しているに過ぎず、選手たちに個々の成長を多く望むことはできないと理解していました。だから、部員の数をある程度確保できたいまは、リスクを負いながら前から奪うサッカーに切り替えて戦っています。そうすることで選手たちには、たとえば、守備時において数的同数の状況なども増えるため、自ずと失点や失敗を犯すリスクも増えます。しかし、その分、選手たちはその状況に対応するための経験や駆け引き、体力、メンタル面などが養われることになるのです。

 守備に人数をかけた戦い方自体が否定されるものではありませんが、その戦い方をすることで一体選手たちにどんな弊害があるのかをしっかりと理解している必要はあります。やみくもにリトリートした戦い方だけを繰り返して勝利だけを求めているならば問題でしょう。要は、指導者がシステムを使い分けるだけのたくさんの引き出しを持っていることが重要なのです」


前田秀樹(まえだ・ひでき)
1954年5月13日生まれ。京都商業高、法政大出身。大学在学時に日本代表に選出され、国際Aマッチ65試合11得点を記録。卒業後は古河電工でプレーし、引退後はジェフ市原、川崎フロンターレの育成に従事。2003年より5年間J2水戸ホーリーホックの監督を務めた後、08年に東京国際大の監督に就任。