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東京国際大・前田秀樹監督インタビュー(後編)「オフザボールの動き」

サッカーは「オフザボールの動きで勝負が決まる」。こう言っても過言ではないほど、ボールホルダー以外の動きが大切なスポーツと言えます。どのような状況でどのような動きが必要なのか、東京国際大の前田秀樹監督がオフザボールの動きを解説。(取材・文/杜乃伍真 Photo by James Boyes

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■ボールに参加しなさい

サッカーは大人であれば90分、子どもであれば20分ハーフの40分ほど。そのうち一人の選手がボールを触る時間は1分、多くて2分ほどと言われています。つまりサッカーは『オフザボール』、ボールを触っていない時間帯の動きやポジショニングが大事ということは言うまでもありません。前回、サッカーのシステムについて語ってもらった東京国際大学サッカー部の前田秀樹監督に、今回は「オフザボールの動き」の重要さについて言及してもらいました。

「サッカーというのはボールの動き方だったり、相手の身体の向きが変わったりした瞬間に10メートルや15メートルという距離をあっという間にスライドするなど、状況が目まぐるしく変わるものです。ですから、休んでいる暇などはありません。その際の動きがすべて『オフザボールの動き』ということになります。攻守においてそれが徹底できているチームと、できていないチームでは展開するサッカーの質がまったく異なります。そういうことを幼少期の育成年代からしっかりと指導しておくことはとても重要だと思います」

「なぜオフザボールの動きが大事かというと、自分が動くことで相手の対応を見ることができるからです。こちらが先に動くことで相手を惑わすことができる。つまり、攻守において常に先手をとってオフザボールの動きを繰り返すことがとても重要なのです。だから私は選手たちに常に『ボールに参加しなさい』という声がけをしています」

たとえば、逆サイドにボールがあるときはついついボールウォッチャーになってしまい、オフザボールの動きを怠りがちになるもの。そこで常に頭を働かせながら、ボールに参加し、オフザボールの動きを意識することで戦況を有利に進めることも可能でしょう。前田監督が例に挙げたのが、サンフレッチェ広島のストライカー佐藤寿人選手。周知のとおり、佐藤選手は常にディフェンスラインと駆け引きをし、マークをしてくる相手の視野から外れたり、再び現れたりしながら、オフザボールの動きで先手をとり、そしてボールを引き出してゴール量産を実現しています。常に「ボールに参加しようする」意識が高い選手の一例といえるでしょう。

■動かないことも、オフザボールの動き

また、「ボールに参加する」というのは動き回ることだけではありません。

「これもサンフレッチェ広島の場合ですが、逆サイドにボールがあるときに、ワイドミッドフィルダーの選手がサイドラインのギリギリの位置にポジションをとって動かずにボールを待っているケースがあります。一見ボールに参加していないようにも映りますが、このときは対面する相手ディフェンダーがどうしても中央に絞らざるを得ないので、それを逆手にとってポジションを動かないことが逆に有効になると考えられるのです。つまりそれがオフザボールの動きになります。次のプレーのための駆け引きから生まれたポジション取りですので、これもボールに参加したプレーと言えます」

選手たちの「ボールに参加する意識」を徹底できた、その次の段階として大事なのが、オフザボールを「どのタイミングで、どう動くのか」ということですが、前田監督は「それについての決まった答えはありません」と指摘します。

「サッカーは競泳のように決められたレーンを動いて進むわけではないから、ある意味で、どこに行ってもいい。だからこそ、まず指導者は選手に動いてみてもらうことが大事なのです。そこで選手たちがどういう動きをするのか。私は指導者としてそこにすごく興味があるし、それがサッカーの面白いところだと思っています。なぜなら、選手たちの判断力を養うのはそのようなシーンの繰り返しがあるから。まず選手に動いてもらい、そのときに初めて指導者として『なぜそこに動いたの?』『だったらそのタイミングではボールは出てこないよね?』、そのような声がけも大切になるでしょう」

ジュニア世代の試合風景では、よく指導者から一方的に見える指示が飛んでいることがあります。

「お前はこっちのサイドのギリギリの位置にはっておけ!」

子どもの判断を奪うという意味も含めてこれはナンセンス。ジュニア世代の子どもたちは、学年が低くなるほどオフザボールの動き方や、そのタイミングが分からないので、そこで頭ごなしに怒鳴ってしまっては意味がありません。

「小学生は低学年になるほどボールが好きだから、ボールを触りたいという意識が働くもの。それはサッカーを積極的にプレーしようとしているのだから良い傾向と言えるのです。まずはボールに集まってくれた。その次の段階として、ボールを持っていない選手の動き方や、動くタイミングを教えてあげればいいのです」

指導者が普段のトレーニングを創意工夫することでその意識付けは十分にできると前田監督はこう続けます。

「たとえば、子どもがボールに集まり過ぎるのであれば、3対3や4対4など人数を少なくすることで自然とボールだけに集まるような状況はなくなります。また、人数だけでなく、グリッドの大きさ、ボールタッチ数、ゴールのある・なし、を変えることでトレーニングから得られる成果は必ず変わります。逆に言えば、雑誌などに掲載されているメニューをそのままチームで使っても、それぞれの子どもの能力に合ったメニューでなければ効果を得ることは難しい。子どもに『オフザボールの動きの大切さを伝えたい』ということであれば、指導者がそのトレーニングの目的達成のために、オフザボールの動きを意識させる状況の設定だったり、工夫を凝らしたりすることで、子どもの成長を促すことが可能になるはずです」

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前田秀樹(まえだ・ひでき)
1954年5月13日生まれ。京都商業高、法政大出身。大学在学時に日本代表に選出され、国際Aマッチ65試合11得点を記録。卒業後は古河電工でプレーし、引退後はジェフ市原、川崎フロンターレの育成に従事。2003年より5年間J2水戸ホーリーホックの監督を務めた後、08年に東京国際大の監督に就任。