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AFC U-19選手権・ポイント分析 「スペースをつくる」(北朝鮮戦)

U-20W杯出場権を懸けた北朝鮮戦。堅守を誇る相手に日本がとった策は、「スペースをつくる」ことだった。(取材・文・写真/安藤隆人)

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世界が懸かった大一番・北朝鮮戦。鈴木政一監督は、試合のカギをFWが握ると考えた。これまでツートップは南野拓実を軸に、中国戦、ベトナム戦が越智大和、韓国戦が北川航也とコンビを組む相手を試合ごとに代えていた。この試合でもその考えに変わりはなかったが、今回はFWオナイウ阿道が先発リストにその名を連ねた。ここに、日本の指揮官の狙いが見られた。

日本は前日まで2日続けて8対8、フリーマン1人のミニゲームを行っていた。このときフリーマンになったのは南野で、彼は両チームのトップ下の選手としてプレー。この練習を通して鈴木監督は、「北朝鮮は守備のときは最終ラインを低くする。ペナルティーエリアに4人が並ぶこともある。そうなったとき、誰が相手のセンターバックを引っ張り出して、そこに生じたスペースに飛び込めるか」とその目的を選手たちに説いていた。

南野の位置を少し下げ、1トップとなったFWが相手のCBをうまく誘って引きずり出し、スペースをつくる。その空間へ南野に飛び込ませ、フィニッシュまで持ち込む。ボランチ、サイドハーフの役割も大きくなる。いかにこのスペースを意識して、縦パスやくさびのパスが出せるか。北朝鮮を崩すためのシミュレーションが徹底して行われた。いずれにしてもスペースをつくる1トップの動きがポイントとなり、その役目をオナイウが託されたのだ。同選手はスピードがあり、フィジカルの強さが魅力で、「オナイウにはセンターバックを引っ張ってスペースをつくること、くさびを受けてタメをつくることを期待している。そこからの南野の飛び出しにつなげたい」と鈴木監督は口にした。

前半はオナイウが効果的な動きを見せた。6分には右サイドのMF関根貴大からのくさびを収め、南野へ落とす。9分にはMF川辺駿の縦パスを受けると、そのまま飛び出してきた同選手に落として、川辺が裏に抜けて相手のファウルを誘った。さらには23分に味方のクリアボールを拾いDF2人を背負いながらキープをすると、MF井手口陽介に落とし、井手口のスルーパスから南野が飛び出す場面を演出した。

オナイウが起点となりつくった好機はこれだけではない。28分には井手口のくさびを受け、川辺に落とすと、川辺、南野、右DF石田崚真に展開し、石田からのクロスを関根がヘッドで合わせた。しかし、これは枠を捉えることができず。さらに30分にはくさびを受けて、右の関根に展開。関根のラストパスから南野が抜け出すが、シュートはGKに阻まれた。鈴木監督の狙いどおり、オナイウが起点となって決定機が数多く生まれた。同選手は戦術の意図をうまく汲み取り、2列目の飛び出しや南野の飛び出しを存分に引き出したが...。誤算だったのは形をつくるもネットを揺らせなかったこと。先制点を奪えなかったことが、結果として敗戦へとつながってしまった。

度重なる決定機の喪失。得点機会を生かしきれなかったことで、徐々に歯車が狂い始めた。30分以降は北朝鮮の反撃を受け始め、37分、ついにゴールを許してしまった。警戒していた一発のカウンター。欲しかった先制点を奪われたことで、プランが崩れ始めた。

後半、鈴木監督はオナイウに代えて北川航也を投入した。理由は「阿道は身体を張ってのキープは良かったが、最終ラインを破るには突破力のある北川を入れて、南野と突破できるようにした」(鈴木監督)。前線で起点となっていたオナイウだったが、自ら突破する場面があまり見られなかった。先制した北朝鮮がさらに守備を固めることが想定されただけに、同選手の『スペースをつくる』役割は意味をなくしてしまったというのが指揮官の判断だった。前半の北朝鮮が引いた場面でも、オナイウをワンクッションにして複数の選手が絡んでその陣形を崩すこともできていた。相手DFがオナイウの存在を嫌がっていただけに、後半も時間を見極め、ギリギリまでオナイウを引っ張ってもよかったようにも感じられた。

この選手交代にはもう一つの問題があった。北川のコンディションだ。先発出場をしたグループステージ第3戦の韓国戦。同選手はケガから復帰したものの、まだ足にはサポーターをしている状態で、大会前からコンディションが不暗視されていた。実際にプレーをしても、明らかに北川のパフォーマンスではなかった。不調の選手に後半45分を任すのはリスクがあるだけに、それを考慮するとオナイウを起用し続けるべきだったかもしれない。

鈴木監督は勝負に出たが、やはり北川の不調が大きく影響してか、日本は好機をつくることができず。83分にMF金子翔太の突破からPKを獲得し、これを南野が決めて1-1の同点にまで追いついたが、決定力がないチームで好機すらも減ってしまってはそれ以上を望むことはできなかった。

北川が北朝鮮守備陣の裏に抜ける動きでCBを引っ張ろうとしても、その動きによって生じたスペースはしっかりと相手ボランチがカバーし、日本の2列目の飛び出しをブロックしてきた。FWでダメならサイドに光明を見出したかったところだが、左サイドバックの宮原和也が攻撃参加を見せた一方で、右サイドの石田は相手のカウンターを警戒するあまりに思い切った押し上げができず。そのためサポートのない右サイドハーフの関根は常に数的不利の状態でボールを持たなければならず、効果的な崩しができなかった。

中がダメなら外、外を使ってからもう一度中。引いて守る相手を崩すセオリーだが、既述のとおりサイド攻撃も左一辺倒となり、それもできず。ゴールを焦るあまり「中へ、中へ」となってしまい、結果として相手の守備網に引っかかることとなった。頼みのエース南野も、守備を固められては突破も難しい。オナイウのように前線でボールを収められる選手がもう一人いれば、攻撃の選択肢が増え、北朝鮮の牙城を切り崩すチャンスがあったかもしれない。

このまま相手の守備を攻略できないまま、いたずらに時間だけが過ぎて1-1のままPK戦へ。このPK戦を4-5で落とし、日本の4強入りとはならなかった。

策がはまっても、それを得点に結実させる決定力がなければ意味がない。若き日本代表の選手たちは、そのことをこの敗戦で痛感した。