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日本人ストライカーに足りない「予測するプレー」の精度

※サカイク転載記事(2014年7月24日掲載)※

年代別の日本代表で活躍し、パラグアイ、メキシコ、スペイン、ギリシャ、香港のリーグでプレー経験を持つ、国際派ストライカー・福田健二選手。スペイン・バルセロナに拠点を置き、日本を始め世界中のサッカー選手・指導者のコンサルティングを行うサッカーサービス。今回は特別企画として『スペインサッカー』という共通項を持つ福田健二選手とサッカーサービスのポールコーチの対談が実現!「少年時代に身につけておくべきこと」「FWの動き方」など、プロフェッショナルの極意に迫ります!(取材・文/鈴木智之 写真/COACH UNITED編集部・田川秀之)

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■周囲の大人と一緒に試合を観る文化が、子どもを育てる

――前回の対談で、ポールから「日本の選手は戦術的な理解度を高めることが重要」という話がありましたが、福田さんはスペインでプレーしていたとき、周りの選手を見ていて、戦術的な引き出しの多さを感じることはありましたか?

福田:それはありましたね。まず、子どもたちとサッカーの話をしていても「大人と話しているんじゃないか」と感じることがよくありました。なぜ子どもなのにサッカーについてよく知っているかというと、普段からおじいちゃんやお父さんと一緒にラジオを聞いたり、テレビを見ながら、サッカーについてああだこうだ言っている環境があるからだと思います。

ポール:スペインでは、24時間サッカーとともに生きている人がたくさんいます。

福田:自分の応援しているチームの対戦相手を見て、「この試合はこの選手を使ったほうがいい」など、新聞を見ながら話をしているんですよね。試合の日は、キックオフの2時間前にバルに行って、飲みながらサッカーの話をして、スタジアムに応援に行く。試合の後はなぜ勝ったのか、負けたのかを分析して意見を言い合う。それを子どもの頃から、周りの大人や指導者と一緒になって、毎週のように行っています。それが文化だと思います。

ポール:本当かどうかはわかりませんが、スペインには「サッカーを知っている」と言われている人たちが多くいます。サッカーに対する知識、経験の平均値が高いので、指導者が選手に練習メニューを伝えるときも、きっちりと分析をして、だからこういう練習が必要なんだと伝えないと納得しないんですね。それを繰り返すことで、指導者も選手も知識が向上していきますし、多くの人がサッカーについてより理解していきます。

■ジュニア年代でおこなうべきトレーニング

――福田さんにうかがいます。サッカーサービスは日本の育成年代を中心に指導をしているのですが、いま振り返って、ジュニア時代にこれをやっておけばよかったなと思うことはありますか?

福田:いくつかありますね。たとえば、パスが来た方向とは反対側の足でコントロールすること。「オープンにボールを置く」という言い方をするのですが、それをジュニア時代に身につけていたら、オートマチックにできるようになっていたと思います。大人になって言われても、身に付けるのには時間がかかりますよね。いまでは当たり前に言われていることなんですけど、子供の頃に理論を教えてもらって、身につけられていたらよかったです。あとはステップワークですね。ラダーを使ったコーディネーションはやっておけばよかったと思います。

ポール:我々サッカーサービスは『判断スピードの速い選手を作る』というテーマのもとに、日々指導をしています。そのためには、小さい頃から積み重ねて教えていくことが大切だと感じています。福田さんが言ったように、どの足でコントロールするかなどは、小さい時に教えるとすぐに身につきます。すると次に、いつ・どこへ・どう動くかを教える段階へとスムーズに進むことができます。

福田:やはりそうですよね。

ポール:コーディネーショントレーニングは、どの年代でも必要です。サッカー選手が身につけるべき身体の動かし方は、年代によって違います。我々サッカーサービスが日本で行うキャンプでは、コーディネーションの部分にも力を入れています。1対1の場面で止まること、方向を変えることなど、どのように動けばいいか、どの動きが必要なのかを分析してトレーニングをしています。コーディネーションやフィジカル的な要素を高めるトレーニングに加えて、ボールを使ったメニューを行い、テクニックとフィジカル、インテリジェンスを同時にレベルアップしていきます。

■日本人ストライカーに足りないもの

――サッカーサービスはポジションごとのプレー分析やプロ選手のコンサルティングもしていますが、福田さんは長くFWとして活躍する中で、どのような考えを持ってプレーしているのでしょうか?

福田:まずはボールがどこにあって、相手DFがどこにいて、自分の体の向きがどうなっているかを常に考えています。自分の中で『ボールを受けたら、この位置に置きたい』というイメージがあり、ゴールを見て、距離的にシュートが打てるのであれば狙います。ただし、やみくもにシュートを狙うのではなく、自分がシュートを打つことが一番のチャンスなのか、それとも他の選手にパスをしたほうが、ゴールの確率が高いのかを判断します。味方にパスをしたほうが良い場面では、一度ボールを預けて、シュートを打つことができる位置へと動きます。これは僕の考えですが、パスを受けた時に2つ、3つと選択肢を持っていることが大切だと思います。僕はFWなので、相手や味方の状況を見て、ゴールに繋がるための一番良い選択をします。

ポール:すばらしいと思います。

福田:相手DFの状況を見て、寄せてこないときやスペースがあるときは当然前を向きますし、それができなければ、味方を使ってもう一度パスを受けられるように、3人目の動きを意識しています。サイドにボールがあって、味方がゴール前にクロスを上げるときは、DFの背中をとる動きや、相手の視野から消えて、シュートの瞬間に現れることを意識しています。わざとゴール前にスペースを空けておいて、そこにボールを呼び込んでシュートを打つこともあります。

ポール:多くのDFはボールばかりを見ているので、その瞬間に相手の背中をとることができれば、シュートを打つことができます。ですが、世界トップレベルのDFは、常に相手FWに手で触ることのできるポジションをとっているので、FWはDFと駆け引きをして、相手の視野から消える動きが重要になります。それとともに、ボールの動きを予測するプレーも大切です。日本のFWの選手は『予測するプレー』の精度を高めたら、もっとたくさんゴールを決めることができると思います。具体的には、味方がシュートを打つ前に、どのコースにボールが来るかを予測して動き出すプレーです。かつてレアル・マドリーで活躍した、ラウールは予測の動きがすばらしく上手でした。ラウールは身体が大きいわけでも、スピードがあるわけでもありませんが、スペイン代表とレアル・マドリーのエースとして、多くのゴールを決めてきました。彼は常に、味方がシュートを打つ前に予測して動き出していたのです。予測が速い選手は、ゴールを決めることができます。

――そろそろ時間が迫ってきました。最後の質問になりますが、日本のサッカーがよりよくなるために、どうすればいいと感じていますか?

福田:これから大切になるのが、ぼくたち日本人には、どういうサッカーが合うのかを確立していくことだと思います。そうすることで、子どもたちから大人まで、同じ哲学のもとにサッカーができるようになります。それに加えて、選手だけでなく、サッカーに関わる多くの人がたくさんの経験をしていくこと。いま、ヨーロッパでプレーしている日本の選手はたくさんいます。その経験をみんなで共有して、「あの選手がこう言っていたよな」と受け継いでいくことが、歴史をつくることにもなりますし、そうしてきたのがヨーロッパや南米の国々だと思います。経験の共有を繰り返していくことで、日本のサッカー文化も厚みを帯びていくと思います。

ポール:日本サッカーはまだ歴史が浅いので、これから多くの経験を積み重ねて、日本のスタイルが出来上がっていくのだと思います。私自身、いまは日本に住んで、日々、子どもたちがサッカーを理解するための手助けをしています。これからも、日本サッカーの役に立つことができればと思っています。今日はありがとうございました。

福田:こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました。

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福田 健二(写真:左)
愛媛県新居浜市出身。ポジションはフォワード。年代別の日本代表で活躍し、アーセン・ベンゲル監督の下、名古屋グランパスエイトでプロデビュー。Jリーグ、パラグアイ、メキシコ、スペイン、ギリシャ、香港のリーグでプレー経験を持つ、国際派ストライカー。現在は、香港ファーストディビジョンリーグ・横浜FC香港に所属する。

ポール・デウロンデル(写真:右)
UEFA監督ライセンスA級を所持。サッカーサービス社において試合分析の責任者を務める。現在は、サッカーサービススクール常駐コーチとして来日中。サッカーサービス社は、スペイン、バルセロナに本拠を構えるプロの指導者集団。欧州名門クラブの育成監督などで構成され、リーガ・エスパニョーラトップチームの選手をはじめとした世界一流選手のパーソナルコンサルティングを行う。

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