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不振にあえぐ香川真司。アジア杯へ向け、復調なるか

12月5日、ブンデスリーガ第14節、対ホッフェンハイム戦。ドルトムントの香川真司は、ピッチに立つことなく試合終了のホイッスルをベンチで聞くこととなった。今夏の古巣復帰後、負傷を除いては初となる出場機会なし。大きな期待を背負って戻ってきたドルトムントだが、復帰初戦以降結果を出せずに苦しんでいる。日本が連覇を狙うアジアカップまで1か月あまり。日本代表のエースに復調はあるのか。その香川とチームの現状に迫る。(文/山口裕平 写真/Royal Sporting Club Anderlecht

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■「役割」の違いが不調を招く

11試合で1得点。かつてリーグ連覇の中心を担い、活躍を期待された選手としては物足りない結果だと言わざるを得ない。復帰戦こそ得点を挙げてカムバックを印象付けた香川だったが、それ以降は思うように結果を残せず。それでもクロップ監督は我慢して香川を起用し続けてきたが、国内リーグで不振にあえぐドルトムントにもはや余裕はなかった。
 
プレーポジションは以前と同じ[4-2-3-1]のトップ下だが、求められる役割は大きく変わった。背番号23だった頃の香川は、ゴール前の密集地にトップスピードで飛び込んでは高い技術を駆使してゴールを陥れる選手だったが、背番号7となった香川はやや下がり気味のポジションで試合の組み立てる役割を与えられた。その結果、82パーセントという高いパス成功率を記録しているものの、90分当たりのシュート数は1.7本に留まっている。もはや゛torgefarlich″(トアゲフェアリッヒ、ドイツ語で「得点の脅威になるような」の意味」な香川はいない。

もちろんそれには2年前とは変わったチーム事情も大きく関係してはいる。得点源で、前線でタメをつくれる絶対的なエース、レバンドフスキが移籍。イタリア代表インモービレとコロンビア代表ラモスを獲得したが、穴埋めはできていない。一人、前線でボールの収まりどころができないことは大きく影響している。前線にレバンドフスキというボールの収まりどころがあった昨季までは、まるでぶつけるかのような勢いでレバンドフスキにボールを入れて全体のラインを押し上げることができた。そこでボールが収まらなくとも、レバンドフスキがボールを失った位置がゲーゲンプレス(ボールをロストした際にリトリートせず、その位置から組織的なプレスを仕掛けボールを奪う守備)の開始位置になるため、相手はリスクを負えず簡単にボールを手放さざるをえない。必然的にボールを奪い返す位置は高くなるため、波状攻撃を仕掛けることができていた。一気にボールを前線へ送り、後方から次々と選手が飛び出していくことで攻撃のスピードは格段に上がる。ゴール前にはトップスピードで飛び込んでくる香川がそのテクニックを生かす最高のシチュエーションが用意されていた。

ところが今季はレバンドフスキ不在のため、後方から一気に前線へという形がつくれない。そのため香川が低い位置まで下がり、ボールを受け、攻撃を組み立てる役割を担うことに。同じトップ下でも、かつてのプレー内容と今季のプレー内容とでは、この点に大きなが違いがあると言える。

縦へのルートが遮断されると、アタッカー陣はボールを受けようと相手の最終ラインに張り付くように広がっていく。このタイミングでパスを奪われると、陣形が崩れているためにゲーゲンプレッシングを掛けることができず、手薄な最終ラインが相手のカウンターにさらされることになる。今季のドルトムントが、ボールを支配しながら不用意な形でボールを奪われてカウンターから失点する場面が目立っているのもこのためだ。勝利への欲求が募るあまり人数を掛けて崩しに行けばそれこそ相手の思うつぼ。結果の出せないドルトムントの選手たちは次第に自信を失っていった。

■クロップ監督、「香川外し」の決断

元ドイツ代表シュスター氏は現在のドルトムントついて「クロップは今や1つの薬しか持っていない。試合に勝ち、勝ち点3を取ることだ。それでようやくチームは自分たちのクオリティを信じられるようになるだろう」と述べている。試合に勝利することが問題解決への最善策となるが、逆を言えば試合に勝ちさえすればチームは自信を取り戻し、本来自分たちが持つポテンシャルを発揮できるようになる。

そしてこのような状況でもクロップ監督は自分を信じ続けている。最下位に転落したことでいよいよ進退問題が浮上することになったが、自ら「誰かが私のところに来て、"君より良い仕事ができる人物がいる"と言われない限り、ここを去ることはできない」と退任の可能性をきっぱりと否定。これは現在のドルトムントを築き上げてきた自分以上にドルトムントを立て直せる人物がいないという強い想いの表れであるとともに、自分を信じてほしいという強いメッセージでもある。クラブ上層部もクロップ監督を全面的に支持し、一丸となって戦っていく姿勢を示した。

そしてついにクロップ監督は「原点」に立ち戻ることを決断。ボールを保持するのではなく、早いタイミングで敵陣に蹴り込んでは高い位置からプレスを掛けていく戦いを徹底させた。まだチームは本調子ではなく、クオリティも満足のいくものではなかったが「らしさ」を発揮してホッフェンハイムに1-0で勝利した。チームにとっては喜ばしい結果となったが、ピッチ上には香川の姿はなかった。試合強度が高くなることを見越してのクロップ監督の判断と思われるが...。

実際に試合はよりフィジカル面が強調される展開だった。そのようなタフなゲームで決勝点を奪ったのは、香川に代わってトップ下に入ったドイツ代表ギュンドアン。勢いを維持したいクロップ監督が前半戦終了まで変更を加えない可能性もあるだけに、香川にとっては手放しに勝利を喜べない状況。このままチームが復調して再び「らしい」サッカーを展開するようになれば、トップスピードでゴール前へ飛び込んでいける香川が求められることも予想される。香川も自身のストロングポイントがどこにあるのかを再び見つめ直すときなのかもしれない。

ドルトムントのファンは、チーム、そして香川の復調を望んでいる。1月のアジアカップで連覇を狙う日本代表にとっても、同選手のパフォーマンスの出来は死活問題となる。リーグ前半戦終了まで残り4試合の中で、香川はどこまで調子を戻せるか。復調が待たれる。