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野洲高に見る、上達に必要なメンタリティ

高校サッカー界屈指の強豪校・滋賀県立野洲高校。技巧派チームとして名高い同校は、日本代表FW乾貴士など、さらに上の舞台で活躍する選手を多く輩出している。『負けず嫌い』を刺激する環境がその要因のようだ。野洲高をレポートする。(取材・文/内藤秀明 写真/Ryota Harada)

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■ 薄れつつある、真のサッカー好き気質

美しく華麗な『セクシーフットボール』で高校サッカーファンを魅了する滋賀県立・野洲高校は、日本代表MF乾貴士(フランクフルト)をはじめ多くの選手をJリーグに輩出していることでも有名だ。

彼らの技術が優れているからこそ、プロとして成功しているのは間違いない。しかしだ。はたして、それだけなのだろうか。テクニックのある選手はたくさんいる。このことについて、乾と同期でともに全国優勝を果たし、Jに旅立っていった者たちをよく知る長谷川敬亮(現・野洲高校コーチ、セゾンFCコーチ)は、「メンタリティが一つの『鍵』ではないか」と語る。では、成功に必要なメンタリティとは何なのか。多くのプロ選手を輩出した乾世代について尋ねてみると、「あの世代、特に乾は誰よりも本当にサッカーが好き。だからこそ、『上手くなりたい』って未だに練習しているんですよ」と明かす。

そうは言っても、みんな野洲にくる選手たち。在校の選手たち、そしてOBと、全員がサッカー好きなのは当然のことではないだろうか。この疑問を率直に質問すると、長谷川コーチはこう語った。

「今の子たちはサッカーが好きとはいっても、サッカーできたらいいって感覚なんだと思います。なかには野洲のAチームでプレーするのがステータスだと思っている選手とかもいる。だから、Bにいる頃は頑張って自主練とかもしていたのに、Aに上がって数日たつと止めるような選手もいる。そのくせ口ではプロになりたいとか言うわけです。そのプロになっても努力し続ける先輩の姿を見て、『お前の練習量はどうやねん』とか思うんですよ。今のこのなかで上手かったらいいってレベルなのかなって感じます」

「あと、今の選手たちは仲間のことを平気で上手いって言いすぎます。僕らのときとかは、『この先輩うまい』って思っていて、憧れとかあっても、『自分よりうまい』とは認めてはなかったし言わなかった。認めたら終わりなんですよ。でも、そういう負けずぎらいなところが重要なのかなと思います。嘘だとしても、そういうところで強がっている奴って練習するんですよね。口だけじゃない。練習するとうまくなる。するとそういう姿を見ている周りの連中も連鎖的に「上手い奴が練習しているのに、下手な自分が練習してなかったらやばい」みたいな感じになって練習に励む。そういう姿っていうのが今の野洲にはなくなりつつある。それが僕らの世代と今との違いかもしれません」

では、直近でプロになった望月嶺臣(名古屋グランパス所属)もそういう「負けず嫌い」な部分はあったのだろうか。

「そうですね。あいつはボールをなくすのが本当に嫌いなんですよ。でも体が小さいから難しい部分もある。『ならどうするべきか』って小さい頃から自分でよく考えていたんでしょうね。結果、単純に人に当たられないところにポジションとれる賢い選手になった。こういう風に、うまい選手は人に育てられるんじゃなくて、勝手にうまくなると思うんですよ。あとはそれにいい仲間と出会えるか、いい指導者と出会えるかって問題だと思います」

■ 乾も持つ、『負けず嫌い』メンタリティ

ここまで話を聞いていると、『負けず嫌い』が成功する上で重要であることが分かる。同時に、彼らのそういう部分を刺激するような存在の有無も大切となってくる。

「乾も『一個上の先輩(セレッソ大阪所属・楠上順平など)がいなかったらプロになっていなかった』って言っていますね。俺らの年代から多くのプロ選手が出ているのは、上手い先輩方のおかげだと思います」

野洲は望月らOBを積極手に呼んで練習参加してもらったりしている。これは在校の選手たちに刺激となっているようだ。

「そうですね。1月になったらプロもたくさん来てくれます。そこで紅白戦とかして刺激を与えています。プロは本気ではやらないんですけど、要所でめっちゃいいプレーをするんですよ。逆取ったり、分かっているのに取れないパス出したり。そういう技術面での差を見せつけられたときに、今の選手たちが何かを感じたら、それはモチベーションにもつながるのだと思います」

野洲の選手たちが技術的に優れているのは間違いない。しかし、それだけではその先の成長を望むのは難しい。選手によっては淡々とプレーする者もいるが、そのような選手でも『負けず嫌い』の精神は心のどこかに持っているもの。指導者は戦術や技術を教えるだけではなく、選手たちのそういう部分をうまく刺激することでそれぞれのモチベーションを高め、技術、ひいては心身の向上につなげることが必要とされているのかもしれない。