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高校サッカー名門校の始動 市立船橋・前編

高校選手権の地域予選、そして本大会が落ち着く12月、1月は、各校にとっての新チーム始動の時期となる。文字通りゼロからのスタートを、強豪校はどのようなコンセプトで第一歩を踏み出すのか。全国屈指の強豪・市立船橋高校の始動をレポートする。(文・写真/安藤隆人)

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■グレーゾーンで個人戦術を磨く

第93回全国高校サッカー選手権大会は、1月12日、星稜高校(石川)の初優勝をもって幕を閉じた。高校生憧れのこの舞台が開幕を迎える昨年12月、千葉の名門・市立船橋が、新チームを始動させた。本来であれば、自分たちが千葉県代表として同大会に出場したかったところだが、県大会決勝でライバル・流通経済大柏に敗れ、それも叶わず。雪辱を誓ってのスタートとなった。

「まず、まっさらな状態にします。これまでのデータとか、認識を一回切って、固定観念を捨ててまっさらな状態で選手たちを見直し、選手の組み合わせとかパワーバランスとかを図りながら、チームコンセプトを見ていきます」。チーム始動となった12月24日、グラウンドで汗を流す選手たちを見つめ、朝岡隆蔵監督はこう語った。

「今は選手を見ながら、その上でチームコンセプトを見ていく時期。今年に関しては、まず[3-4-3]の布陣で、個人戦術を上げていきたいと考えています」(朝岡監督)。一昨年は変則ツーバックシステムの[2-4-3-1]を採用し、昨年は[3-5-2]、[4-1-4-1]などを採用していたが、今年は[3-4-3]でスタートすると語る。その意図は、「こうした方が、個人の戦術理解度が上がるからです。単純に3枚のディフェンダーというのは、センターバックとしての要素も必要ですし、サイドバックの要素も必要になります。ボランチはある程度役割がはっきりしてしまいますが、攻撃的にいかせながらも、センターバックに近いところでのプレーや、カバーリングの部分も求めます。前の3人もトップやアタッカーの要素、ビルドアップに関わる要素も出てきます」と、[4-4-2]の用に役割分担が明確になる布陣よりも、いわゆる役割分担の『グレーゾーン』ができやすい[3-4-3]にすることで、状況判断力やポジショニングなど、個人戦術を磨くことができるということだ。

「このフォーメーションは、『誰が誰を見るか』というマークの部分が不明確になります。要するに後ろの3枚で守り切れる訳ではないので、アタッカーが戻って守備をする運動量も求められます。あとは最終ラインに入ってカバーをするか、バイタルエリアのカバーをするかという判断も、アタッカーには求められます。ボランチも前にプレシングを掛けるか、センターバックとの距離を近づけるかという判断が出てくる。[4-4-2]というところからチームコンセプトに入ってしまうと、役割がはっきりしてしまいます。『このポジションがこうだからコンセプトを当てはめていく』というのではなく、自分たちがどのようにつくっていくかを考えます。究極的な試合を想定したときに、行くか行かないかとか、どこに戻るのかといったところは、チーム戦術ではなく、個人戦術になります。ここに来たら危険だという究極的な状況を最初につくっておかないとダメですし、4バックで最初から枠組みをつくってしまうと、バランスが整ってしまいます。ボランチも同じです。2枚にすると、ある程度バイタルエリアのケアがはっきりするのですが、これを縦関係にすると経験値が少ない配置になるのでバランスを取るのが難しくなります」。

■複数のポジションをやらせ、特性を確認

では、選手個別で見たとき、その特性を見出すために、複数のポジションをテストしてみることも重要になる。朝岡監督もその重要性をこう説く。

「立ち上がりはいろんなポジションをやらせます。右も左も前も後ろも関係なくやらせます。最終的にアタッカーだったのがサイドバックになることもありますし、基本的には役割に当てはめることはありません」。

チームコンセプトを最初に植え付けるよりも、まずは個人戦術の構築を優先。そうすることで、その後、方向性が見えたときに、選手の特性を生かした戦い方を選んでいく。例えば、サイドバックで非常に適正の高い選手がいたとしたら、後ろを4バックにする選択肢が生まれてくる。一人で広範囲をカバーできる選手がいれば、ボランチ1枚という選択肢が生まれてくる。

「個人がどのように伸びてきているのかというのを、シーズンが始まるときに見通しを立てて、夏のところでジャッジをし直す。判断するところは2回あると思っています」。

取材日の練習で、さっそく新チームのポイントが浮き彫りになった。紅白戦の際、CBとボランチの連係がうまくいかず、ボランチが最終ラインに落ちても、CBは横に広がらず、サイドを高い位置に押し出せない。ボールを奪ってもダブルボランチがフラットだったり、CBの進路をつくれなかったりと、様々なエラーが出ていた。[3-4-3]のフォーメーションで紅白戦をやる際、朝岡監督は3バックにおけるチームコンセプトをわざと伝えていないのだから、当然の成り行きと言えるのかもしれない。

「この紅白戦で重要なのは選手の判断力。例えば、ボランチが最終ラインの間まで落ちるということは、サイドを高い位置に出したいというコンセプトなのです。ですが、今の彼らはそれを意図があってやっているかと言われればそうではない。楽なポジションでビルドアップをするためにそうしていたのでしょうが、相手からしてもそれは楽なんですよね」。

紅白戦の後、グラウンド脇の一室で朝岡監督の話を聞くと、より具体的な方向性を語ってくれた。

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