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高校サッカー名門校の始動 市立船橋・後編

高校選手権の地域予選、そして本大会が落ち着く12月、1月は、各校にとっての新チーム始動の時期となる。文字どおりのゼロからのスタートを、強豪校はどのようなコンセプトで第一歩を踏み出すのか。ここで紹介する千葉の名門・市立船橋高校は、『エラーを認識させること』からチームづくりを始めるという。市船の新チーム始動をレポート。(文・写真/安藤隆人)

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■ エラーを認識させることの重要性

「間違いなく、今年は後ろを育てるということを考えないといけません」。新チームをつくる上でのポイントは『守備』になると、朝岡監督は言う。アタッカー陣は1、2年生にタレントがそろい、将来的にさらに伸びることが期待されている。この攻撃力を生かすためには、やはり安定した守備の構築が必要となる。

取材に訪れたこの日(12月24日)、[3-4-3]のフォーメーションを使った紅白戦を実施した。市船の紅白戦は4つのチームに分けて戦うが、それぞれ①、②、③、④チームと分かれ、①がレギュラーチーム、その後に②、③、④という序列になる。他の強豪校でもこの方法を取るところは多いが、こうすることで選手たちの競争意識をより煽る効果もあるという。その部分は後ほど深く触れるが、この紅白戦でさっそく今年のチームの課題が浮き彫りになっていた。

ダブルボランチの選手が3バックのフォローを考えすぎて、ディフェンスラインまで落ちてしまう。本来そうなった場合、ディフェンスラインを押し広げたり、CBの1枚がポジションを取り直して、両サイドの選手をより高い位置に押し出すことで、より攻撃に転じたときに威力を発揮するし、何よりボールを奪ってからの判断がしやすい。しかし、ボランチがディフェンスラインに落ちても、DF間の距離感が悪く、結果的に1枚守備が増えただけになってしまい、奪ってからのカウンターがスムーズにいかなくなった。そこはボランチの判断力、3バックの判断力が求められてくる。

「判断が足りないからそうなってしまう。意図を持ってやっていない証拠です。なので、さすがにそこは『何のための3バックか』と試合後に言いましたが、試合前はこちら側から3バックをやるコンセプトというのを伝えていないので、本当に選手たちが考えてプレーしているか、そうではないのかが顕著に出ます。おそらく落ちたボランチの選手は、楽なポジションでビルドアップをするためにそうしていたのでしょうが、相手からしてもそれは楽なんですよね。そこがまだ分かっていない」(朝岡監督)。

こうしたエラーはまさに指導者側の狙いどおり。エラーが出て、それを選手たちが『エラー』と認識したときに初めて、判断の質を上げるベースができる。ここで指導者が苛立ち、我慢し切れずに答えを言ったり、フォーメーションを修正してしまったら、選手たちの判断力の向上、ベースづくりの妨げとなり、『システムありき』のサッカーとなってしまう。

「今年は阿久津諒という選手が、最終的にセンターバックをやるかもしれません。ボランチかもしれませんし、去年はオフェンシブでも使っています。彼の適正を見極めている状況なんです。新チームの鍵を握る存在だと考えています。まずは阿久津がどのような特徴を持っているかを、しっかりと見極めていきたい」(朝岡監督)。

『エラー』を見守りつつ選手個々、チームとしての成長を促し、その中でキーマンとなる選手の特性を見極め、チームづくりに反映させる。たかが紅白戦だが、そこには大事な要素がいくつも転がっている。

「重要なのはどこに『安定するところ』をつくるか。最初からやりやすい環境をつくってしまうと、そこからミスにつながってしまう可能性があるのでそれではダメ。例えば、10段階のレベル10を目指すとすれば、1、2のレベルのものを10にするのは無理なので、何としてでもこれを5、6のレベルにしていこうとすれば、十分に戦えるということです。あとは良さの出る配置にしてあげれば、7、8あるような選手を、配置次第で10にしてあげればいいと思うので、そこを意識してやっています」。

■ 現在ではなく、将来を見据える

新チームをつくっていく上で重要となってくるのが、新1年生と2年生の存在だ。当然3年生と比べると、発育の面から体格差がある場合がほとんど。新入生に関しては低いカテゴリーから上のカテゴリーへと来たばかりなので難しい面は多々ある。しかし、その中でも朝岡監督は積極的に下級生を起用する。

「まずどこを考えるかと言うと、1年後、2年後にこの子は間違いなく核になるという選手に関してはちょっと物足りなくても1年生からメンバーに入れますし、試合で使っていきます。例えば3年生がそこまでチームに影響力を持っていないのであれば、少しくらい力が劣っていても、下級生を使います。下級生に求めるのは、とにかく一生懸命頑張ること。阿久津も1年生のときから頑張っていましたし、新2年生の高宇洋は、間違いなく最初から高い意識でやっていたので、すぐに試合で使いました。杉岡大暉という選手も真面目さを持ってやっていました。1年生からチャンスを掴む選手というのは、パーソナリティーが大きいんです。能力ある選手でも少し斜に構えている選手や、びくびくしている選手はピッチに入っても何もできません」。

そして先ほど少し話に触れたが、大所帯の組織を束ねチームづくりを進めていく上では、大きなものをいくつかのグループに細分化する必要がある。ただ、複数のチームに分けるにしても、共通意識を持たせることが重要だと言う。

「①~④のすべてのチームのコンセプトは一緒です。考え方、戦術などはみんなが同じ方向を向いてやっているので、チームによってバラバラになることはまずありません。トップチームの方向性で変わることもありますが、結局トップチームに上がったときに、そのコンセプトにマッチしなければ意味はありません。最低でも1年は同じコンセプトで戦います」。

決められたコンセプトに選手たちをあてはめていくのではなく、現状をしっかりと把握しながらその先のビジョンを明確にし、判断力などの選手に必要なベースをつくる。そして徐々にコンセプトを具現化し、そこからチームをつくっていく。これが朝岡監督のやり方である。限られた時間の中で、細かいところまで意識をして、プランニングをするからこそ、毎年のように安定した力を持つチームをつくり上げることができるのだろう。