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細貝萌のボランチ論・後編『距離感が大事』

前橋育英高在学時、山田耕介監督によって攻撃的MFからボランチへとコンバートされた細貝萌。今では世界の一流選手が集い、激闘を繰り広げるドイツ・ブンデスリーガにおいて、各国の代表級の選手と対等にわたり合える選手へと成長した。日本が誇るボランチが、同ポジションの奥深さを説く。(取材・文/一色伸裕 写真/Ryota Harada)

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■ 相手との距離感、『間』が重要

母校・前橋育英高校の山田耕介監督によって、ボランチとしての才能を見出された細貝萌。世界最高峰と呼ばれるドイツ・ブンデスリーガで、屈強な相手と対等にわたり合うその守備力には本場のファンも舌を巻き、チームを率いる指揮官も称賛を惜しまないほど。

「ハジメはサッカーを理解している。どのタイミングでボールを奪うか、そしてその先の攻撃の組み立てまで考えている。戦術眼に秀でたプロフェッショナルな選手だ」(ヘルタ・ベルリン ヨス・ルフカイ監督)。監督の言うように、試合中の同選手は周囲に気を配り続け、ゲームの流れを一歩先、二歩先と、常に数歩先を見据えている。例えば、味方の攻撃時。細貝はこのようなことを考えている。

「攻撃のときこそ守備を気にしています。奪われてカウンターを受けたときのポジショニングのこととか。『セカンドボールがここにくるかな』と、スペースを埋めにいったりします。そこはチームが攻撃しているときに一番気にしていることですね」。

このセカンドボールへの嗅覚は、「素晴らしいものがあった」(山田監督)と恩師も称え、この点もボランチへのコンバートの一因となっているようだ。さらには、相手の攻撃の芽を摘む『ボール奪取力』は、ゲームの流れを読む力と同様にボランチにとって不可欠な要素。細貝のそれは特筆すべきもので、外国人選手との体格差を感じさせないクレバーなプレーもまた、同選手の代名詞となっている。どのようにして身体的なハンディをカバーするのか。細貝は『間』が大事だと言う。

「ボールを奪うためには、相手との距離感、『間』が重要だと思います。僕が相手からうまくボールを奪っているときというのは、相手との距離がいいときなんです。相手がボールを持っているけど、自分の間合いになっている。相手が仕掛けてくる間合いじゃなく、守っているけど自分の間合いになっているときなんです。うまくいかないときは間合いを詰めようとしてかわされてしまう。いいときは相手との距離感がいいから、かわされても体をうまく入れてボールを奪ったり、ボールを弾いてカットすることができる。距離感は個人によって違うけど、ベストな距離感を意識できれば、体格差というのはある程度カバーできると思います。10センチ以上大きい相手、10キロ以上の体格差のある選手と当たったとき、全体のバランスもあるので厳しいところもありますけど、実際に僕の身長(177センチ)だとドイツでも小さい方だし、チームでも体重も軽い方。試合で使ってもらっているのは、そういうところがうまくいっているからだと思います」

距離感をうまく図ることで、自分の『間』に相手を引き寄せていく。そこからタイミングを見てボールを奪い取るのだが、相手に当たる瞬間にも心掛けていることがあるという。

「フィジカルコンタクトを避けて通れるポジションではないので、相手に強くいくことは意識しています。激しくぶつかっていきます。相手に対して距離を詰められるときは間合いを考えながらできる限り詰めることは意識しています」

■ 責任をより自覚できるポジション

華やかな攻撃的なプレースタイルから、汗かき役へのコンバート。当初は困惑していたポジションだが、いまではやりがいを見出しているようだ。

「チームの、そしてピッチの中央に位置するポジションなのでやりがいはありますね。自分のプレーの出来次第で、試合の流れ、内容が変わってくるポジションだと思います。それだけ責任感を持ってやらなければいけない。うまくいかなかったりしたときは、『自分の責任は大きい』と言い聞かせて、常にボランチの重要性を自覚するようにしています」

司令塔がいなくても攻撃は成り立つ。だが、ボランチを欠いてはゲームが成り立たなくなる。それだけカギとなるポジションと言えるだろう。そのような重要なポジションでプレーを重ねることで、自身の課された責任を自己啓発し、プレー面だけでなく、精神面でも成長を遂げてきた。その成長は自信へとつながり、いまでは世界の強豪選手と対戦することをこの上ない楽しみとしている。

「昔テレビで見ていた選手が、今では対戦相手としてプレーしている。バイエルンのシュバインシュタイガー(ドイツ代表)、シャビアロンソ(スペイン代表)といった選手は本当にうまい。自信に満ちた雰囲気、技術などを含めてとんでもない選手だと思いました。ただ、チーム力では劣っていても、(マッチアップでは)譲るつもりはないですね」と、そう語る細貝自身も自信に満ちた表情を見せていた。

ボランチとして大成した細貝だが、その要因を聞くと「サッカーが好きだから」と語り、彼のような選手になることを夢見る子供たちにアドバイスくれた。

「サッカーが好きなことが一番だと思います。僕もサッカーが好きで昔からやってきているので、とにかくサッカーが好きなことが一番だと思います。好きだからプロ選手になれるという訳ではないけど、好きな気持ちが大きければ大きいほどプロにも近づくし、成長していくものだと思います。その中でライバルに負けない気持ち、憧れの選手みたいになりたいといった気持ちがあれば、サッカーはうまくなると思います」。


細貝萌(ほそがい・はじめ)
1986年6月10日群馬県生まれ。前橋育英高卒業後の05年に浦和へ加入。11年1月にドイツ・ブンデスリーガのレバークーゼンへ完全移籍。その後、アウクスブルクへの期限付き移籍を経て、13年に現在のヘルタ・ベルリンへと移籍する。U-15、16、17、18、21、22と各年代の代表としてプレー。日本代表では、国際Aマッチ18試合出場1得点。