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元フットサル日本代表・市原誉昭氏「サッカーにつながるフットサルテクニック」(攻撃編/基礎編)

近年、サッカー選手育成の手段として、フットサルが日本でも注目を集めるようになってきました。サッカーのワールドカップで過去最多5度の優勝を誇るブラジルでは、選手のほとんどが幼少期にフットサルをプレーし、サッカーへ移行していきます。リベリーノやジーコの時代から、ロナウド、ロナウジーニョ、カカー、ロビーニョ、ネイマールといった選手たちも、例外なくフットサルで技術を高め、クラッキ(名手)と呼ばれるサッカー選手に大成していきました。

今回、講師を務めるのは、元フットサル日本代表キャプテンの市原誉昭氏。2013-2014シーズン限りで現役を引退した市原氏は、幼少期にフットサルをプレーすることが、サッカーにも大きく生きてくると感じている一人。今回は「フットサル」という言葉が一般に浸透していない頃から、海外トップレベルのプロ選手たちの映像を自分たちで入手し、そのプレーから逆算して練習メニューを考え、日々のトレーニングに取り入れていた同氏に、サッカーにも役立つ1対1における攻撃のためのトレーニングメニューを教えてもらいました。(取材・文/河合拓)

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■試合中に起こりうる1対1の局面とは

サッカー、フットサルでは、相手と1対1になる局面が非常に多いものです。この局面を優位に進めることで、ゲームの主導権を握ることができます。ただし、ボールを持った選手に「1対1で勝とう」と言うと、相手を抜き去らないといけないと考えがちです。また、1対1の練習も、その多くが「ヨーイ、ドン」で開始して、攻めている選手がシュートを打ったら終わりというものが少なくありません。もちろん、アタッキングサードで多く見られるこのような1対1に勝つことは大切です。しかし、実際の試合中に一人の選手がこうした場面を迎える回数は、かなり少ないのではないでしょうか。

市原コーチは、1対1のトレーニングメニューを開始する際、選手たちを4人1組のグループに分けました。そして、実際のゴールを使わずに、4人組のうち2人の選手をそれぞれ左右のタッチライン沿いに立たせて、彼らをゴールに見立てました。そして、残りの2人が中央で1対1を開始します。

(図1)
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| A     B●    C    D  |
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図1のように、Bがボールを持つ攻撃者、Cが守備者となります。そしてAとDがゴール役となります。Bは、まずCをかわしてDへパスを通すことを目指します。開始前、市原コーチはゴール役となるA選手とD選手に対し、「外の2人はパスを受ける役割です。その場から、あまり動かずに足の裏でパスを受けましょう」と声を掛けました。この足裏でボールを受けるというのが、実は大きなポイントです。サッカーよりもピッチの狭いフットサルでは、確実にボールをコントロールするため、また相手に詰め寄られてもいつでもボールを動かせるように、足裏でボールを受けます。周囲にスペースがあるときは、インサイドやアウトサイドなどで大きくボールを動かすことも有効ですが、相手に付かれているときは、足裏でボールを受けることで優位に立てるのです。

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この練習の最大の目的について、市原コーチは「ボールを持っている選手がドリブルをして、自分でパスコースをつくり出すこと」と説明します。「相手を抜き切ってパスコースをつくってもいいですし、相手を左右に揺さぶって、抜き切る前にパスコースをつくってパスを通してもいいです。目的地にしっかりとボールを出すようにしましょう」とポイントを続けました。

このトレーニングは、ボールを1本通したら終わりではありません。たとえば、BがDにパスを通したら、今度はゴール役Dからボールを受けて、逆サイドのAにパスを通します。Dに向かっているとき、Cにボールを奪われたら、今度はCが攻める選手となり、Aに攻めていきます。こうして連続性を持たせることで、攻守の切り替えの早さや状況判断を磨くことができ、またフィジカル面のトレーニングにもつながります。

■サッカーの1対1に生きるフットサルの『フェイク』

子どもたちの練習を見ていた市原コーチは、相手を抜き切る前にパスを通した後、パスを出した選手がボールを受けるときの動きに工夫が必要だと感じたようです。そして、子どもたちに『フェイク』の動きを教えました。サッカーで『フェイク』と言うと、相手をかわすための『フェイント』と捉えられますが、フットサルではボールを受ける前、相手のマークを外すときの予備動作を『フェイク』と呼びます。

BがCを抜き切る前にDへパスを通した場合、Dからパスを受ける際には、Cのマークを外さなければなりません。そこで『フェイク』の動きです。Cの背後で左に動いたとします。BとDの間にいるCは、Bの動きを見てからDがボールを出すタイミングも計らなければなりません。Cの位置で2つの動作を同一視野に捉えることは不可能です。そのため、Bが左に動いたとき、Cの視線がボールに向いた瞬間、方向転換をして逆に動けばパスコースを確保できます。ここでボールを受けたら、すぐに反転して今度はAにパスを通せば、2本目のパスを連続で通すことができるのです。

選手たちが何をできているか。何をできていないかを判断し、目的のプレーを成功させるために必要なトレーニングを上積みする市原コーチ。動画には、さらに選手たちに高度な判断を求めるトレーニングも紹介しているので、ぜひご覧ください。

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元フットサル日本代表・市原誉昭氏「サッカーにつながるフットサルテクニック」(攻撃編/応用編)>>

市原誉昭(いちはら・たかあき)
1975年8月28日生まれ。埼玉県出身。小学校卒業後、プロサッカー選手を目指して単身ブラジルへ渡る。キンゼ・デ・ジャウー、コリチーバなどを経て、帰国後の96年に横河電気サッカー部(現 JFL・横河武蔵野FC)に加入。98年にフットサルに転向すると、再度ブラジルへ渡り日本人プロ第1号となる。99年からはフットサル日本代表として活躍し、5度のAFCアジアフットサル選手権大会出場。2002年からおよそ5年間キャプテンを務め、2004年フットサルW杯の出場権獲得にも大きく貢献した日本フットサル界の第一人者。Fリーグ(日本フットサルリーグ)開幕後はバルドラール浦安に所属し、全日本フットサル選手権大会優勝。その後、ペスカドーラ町田、湘南ベルマーレでプレーし、2014年に現役を退いた。