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決定力を決定づけるシュート技術

日本サッカーにとって積年の課題と言われ続けてきた"決定力不足"。1月のアジアカップでも、日本代表は度重なる決定機にシュートを決めることができず、決勝トーナメント1回戦で姿を消すことになった。A代表だけでなく全年代の選手たちに重く圧し掛かるこの問題。解決の糸口はどこにあるのか。(文・安藤隆人 写真・Itaru Chiba

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■これ以上"決定力不足"で片付けてはいけない

日本代表はアジアカップ決勝トーナメント1回戦で、UAE相手に35本のシュートを放ちながら1点しか奪えず、120分を戦って1-1の引き分け。PK戦の末に敗れ、大会を去ることになった。UAEの3本に対して10倍以上のシュート数を記録したが、枠内シュート率は22.9パーセント。ほとんどのシュートがゴールマウスを捉えることができなかった。

「課題は決定力不足」

敗戦の後に必ずメディアを賑わす、日本サッカーの慢性的な課題"決定力不足"。アジアカップの敗因もこの一言で片付けられてしまうようでは、これ以上の成長は望めないだろう。そもそも"決定力"という言葉が曖昧すぎる。それはシュートが下手だということを指しているのか、あるいはチャンスで冷静さを欠いてしまうことを言うのか。言葉の定義が曖昧であるがゆえに、問題解決のアプローチがいくつも論じられることになる。シュート練習をひたすらやる、ゴール前の崩しをひたすらやるなど――。だが結論から言うと「これをやれば絶対」という特効薬はない。確実に言えるのは、枠の中に飛ばせるようにシュート技術を向上させれば、ゴールの確率は間違いなく上がるということだ。では"シュート技術"とは何なのか。

シュート技術とは、正確なキックを蹴る技術、GK・DFの動きを見る目、判断力、高度なキープ力といった一連のスキルセットであり、それらを高いレベルで備えつつ、一番大事なのは"独自のスタイル"を持っていることであると考える。例えばロッベン(オランダ代表)。彼が右サイドから切れ込み、左足で巻いて逆サイドネットに突き刺すコントロールショットは、分かっていても止められない。リベリ(フランス代表)は直線的なドリブルから、強烈なシュートをゴールの四隅に蹴り込むことができる。メッシ(アルゼンチン代表)はドリブルでペナルティーエリアをゴールと平行に動き、そこからGKの逆を突く鋭角なシュートを決める。世界を見渡すと、"独自のスタイル"は枚挙にいとまがない。

もう一人、フランス代表のベンゼマもシュート技術が高い選手だ。彼は特段シュートエリアが広いわけではないし、アクロバティックなシュートやミドルシュートがあるわけでもない。彼がすごいのは、動きながら確実にゴールを決められるポイントに誰よりも早く入り込み、得点率の高いシュートを打てることだ。所属するレアル・マドリードでは、前線での絶妙なポストプレーやスペースメイクにより、C・ロナウド(ポルトガル代表)やベイル(ウェールズ代表)という世界屈指のアタッカー陣の攻撃力を引き出し、最後はゴール前で的確にポジションを取ってフィニッシャーとなる。この一連の流れが彼の"独自のスタイル"だと言える。

このように、世界各国にはシュート技術が高く、独自のスタイルを持ち、ずば抜けた決定力を発揮する選手がたくさんいる。では、決定力不足が問題視されている日本において、シュート技術の高い選手は誰だろうか。昨季のJリーグ得点王である大久保嘉人(川崎F)や佐藤寿人(広島)、加えて宇佐美貴史(G大阪)の名前を挙げられるだろう。

■決定力の切り札・宇佐美貴史のシュート技術

その中でも宇佐美のボールキープ力、パスセンス、多彩なアイディアとそれを実行する力は、日本人トップクラスだ。幼い頃から"天才"と呼ばれてきた彼は、もともとシュート技術が高かった。それがバイエルン・ミュンヘンに移籍し、ロッベンやリベリーらと一緒にトレーニングを積んだことで、「手応えを感じたし、ゴールへの意欲が強まった」(宇佐美)。帰国後の宇佐美は覚醒したかのように得点を取りはじめ、昨年はJ1リーグ26試合出場10得点、天皇杯4試合出場6得点、ナビスコカップは7試合出場5得点。年間21得点を挙げ、クラブの3冠に大きく貢献した。彼もまた独自のシュートスタイルを持った選手と言えるだろう。

現役時代に名古屋、川崎F、福岡などでプレーし、現在はサッカージャーナリスト・解説者、そして指導者として活躍する中西哲生氏は、以前に宇佐美のシュート技術についてこんなことを話していた。「彼はシュートを打つとき、DFの脇の下を狙うんです。パッとシュートコースを探したときに、対峙するDFの脇の下にゴールが見えて、かつGKがいなかったら、そこを狙えば必ず入ると言うんです」。

並の選手はDFと対峙したら、より確実にシュートを打つためにDFをかわしてからシュートを打とうとする。技術の高い選手ならフェイント、もしくは股下を狙うだろう。だが宇佐美はさらにその上を行き、脇の下を狙うという。脇の下を狙うためには、シュート前にボールコントロールをした上で、回転を加えたシュートを正確かつパワフルに打たないと、ミドルレンジであればゴールにすら届かないし、球速が遅ければGKに簡単に阻まれてしまう。より高度な技術が必要なシュートだと言えるだろう。

これについて中西氏はこう分析する。「GKにとって動きを読みやすいのは、相手のお腹が見えているときなのです。お腹が見えることで、GKは距離を測れるし、どちらに蹴るかも分かりやすくなる。逆に言えば、GKの目線を遮ることさえできれば、反応を遅らせることができる。宇佐美のシュートはDFを目隠しにすることで、完全にお腹を隠した状態で打たれているのです」。

さらに中西氏は、宇佐美がシュートを打つ際の「手」にも注目している。彼はシュートを打つ瞬間、両手の人差し指を指し伸ばす形をしているという。「手には神経が集中しています。指先の交感神経、副交感神経の分布を考えると、銃の引き金を引く直前の手の形(人差し指を伸ばして、他の指を曲げた状態)が、一番正確な動作をすることができるんです。こうすることで、パワーを外に伝えられるし、脇がしっかり締まって肩甲骨が寄り、正しい姿勢になりやすい」。

そして、軸足も大切な要素だ。中西氏は「シュートを打つ際、軸足の股関節が入っていないと、強いシュートを打つことができない。例えば、股関節をしっかりと入れて上半身を前に倒せば、GKから見ると頭が前に来てお腹が隠れる状態になり、蹴る方向やタイミングが読まれにくくなるのです」と続けた。つまり"支点"をしっかり置くことで、ボールにパワーを伝えるだけでなく、自然とフェイントにもなっているのである。

どんなプレーにおいても、動作を支える支点や姿勢のつくり方は非常に重要なポイントだ。間違った支点からなる姿勢では、パフォーマンスを最大限に発揮できない。それはサッカーに限ったことではない。高い技術を持ちながらこうした姿勢を自然と身に付けているからこそ、宇佐美のシュート技術は総合的に高いと言えるのだろう。

冒頭で述べたように、"決定力不足"の特効薬はない。選手個々が自身のシュートを客観的に分析し、それぞれのスタイルを確立すべく明確な意識を持ってアプローチしなければ、日本の慢性的な課題はいつまでも解消されないだろう。選手一人ひとりが、この課題に自分事として取り組むことを切に望んでいる。

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