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スペインのチームが『大人』に育つワケ/セルタU-10監督 フアン・レコンド氏インタビュー【2/3】

日本からも多くの指導者が視察に訪れる育成大国スペイン。彼の地でガリシア州を拠点にサッカー留学のコーディネート、エージェント業務を行うJ-ESP伊藤大輔氏の協力のもと、セルタのフアン・レコンドU-10監督に行ったインタビューの第2回は、育成年代に精通するフアン氏の「新チームの始め方」や「トラブル解決法」など、プロクラブならではの指導スタイルを余すところなくお伝えする。(コーディネート・取材/伊藤大輔 構成/COACH UNITED編集部)

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<<スペイン育成年代のチームビルディング

CU:スペインでは育成年代から選手の移籍がありますよね。チームビルディングの観点で、選手の獲得はどのように行うのですか?

フアン:フベニール(U-19~U-17)、カデテ(U-16、U-15)では選手の移籍が多いけど、アレビン(U-12、U-11)やベンハミン(U-10、U-9)ではそれほど多くないよ。私がセルタに子どもをスカウトするときは、その子がトップチームにたどり着けると見越してのことだ。もちろん最初から完璧ではないから、常に成長するための"糊しろ"を与える。ベンハミンB(U-9)にある子どもが加入したら、成長期間として最低でも3~4年の期間を設定して、その間に少しでも成長が見られれば成功と考える。私たちにはまずクラブのコンセプトがあり、契約するのはチームのプレースタイルに合った特長を持っている選手、加入してからの練習、指導、教育によってトップレベルに成長し、プリメーラディビションでデビューできる選手だ。

CU:そこが大きな違いじゃないでしょうか。日本ではJクラブの下部組織にでも入らない限り、同じチームでカテゴリを上がることがあまりありません。ジュニア年代が終わればまったく違うチームか、学校で部活に入るのが大半です。一方、スペインではセルタやバルサ、レアルはもちろんそれ以外のチームでも、子どもが上に上がるステップがある。根本には確たるコンセプトがあるので、チームビルディングが日本より容易なのではないでしょうか?

フアン:確かに、そういう意味ではやりやすいね。私がかつて指導した「とあるチーム」では、もとのチームへシーズン前に12人もの子どもが加入するようなこともあったが、一定の強豪チームならまず子どもたちを選び、彼らのことを知ってからチームビルディングに移るのがセオリーだろう。セルタには明確なプレースタイルがあるので、ウチではチームプランに入るが他チームのプレースタイルには合わない、という適性もハッキリする。そういう意味では簡単だね。ひとつのハッキリとしたプレースタイルを持つことにより、誰と契約すればいいかがわかる。セルタなら「プリメーラディビションにたどり着ける選手」であり、セレクションの基準はすべて組織化されている。スペインサッカーは1990年代、2000年代に信じられないくらいの成長を遂げたと思うが、それはクラブのアイデア・コンセプト・プレースタイルが明確にされ、どんな監督と契約するのか、どんな選手を連れてくるのか、どんな練習をすべきかなどの選択が容易になったからだと思う。

CU:ではもしまったく別のチーム、例えば選手がすでに決まっていて、新しく契約もできないチームで新シーズンを始めるとしたら、どのようにアプローチしますか?

フアン:最初は子どもたち一人ひとりを知ることから始めるね。グアルディオラが「同じ選手はいないと認識することが重要」と語ったように、選手の"最高"を引き出すためにはその選手を知らなければならない。新しいチーム、新しいグループに入ったときでも、選手たちを理解できれば物事は早く進む。「誰にどの程度厳しくしていいか」「誰にどのような注意が必要か」など、まず子どもたちのタイプを知ることが一番大事だね。そのために最初の練習では遊びの要素がたくさん詰まった練習をして、リラックスした状態でみんなを知るように努める。緊張感があり、集中力が必要な状態だと、相手を知ることは難しいからね。リラックスした雰囲気で、子どもたち同士も知り合えるようにするのがいいだろう。その中で、誰がリーダーなのか、誰が勤勉に練習に来るのかなど、グループの全体像を把握してからプレーコンセプトを決めていく。一番大事なのはやはり子ども一人ひとりを知るということだ。

CU:打ち解けるまでは子どもたちの間でケンカや言い争いもあると思いますが、それはどのようにして解決していきますか?

フアン:チームに良い環境・空気を作り出すのは、子どもたちと仕事をする上でとても重要だ。指導者と子どもたちだけでなく、子ども同士で良い環境・空気がないと、安定した組織を作ることは難しい。育成年代の子どもたちは学習期間にあるわけだから、その間は『間違い』から学ぶのが一番いい。指導者が安易に介入することなく、子どもたちに考えさせるべきだと思う。もし子どもたちの間でケンカがあれば、当事者を集めて事情を聞き、自分たちで良いことか悪いことか考えさせる。そうやって当事者で問題を解決できるのが理想だ。なぜなら、大きくなったときに全員がサッカープレーヤーにはならないかもしれないが、全員必ず『大人』にはなる。問題が起こったときに自分自身で立ち向かい解決できるようになれば、それは誰にとっても役に立つことだからだ。そもそも子どもたちは心拍数200の状況でボールを奪い合うのだから、ぶつかり合ってケンカになるのは当然。だが今までの経験では、練習中のケンカはグラウンド内で治まることがほとんどだ。スペインの子どもたちはグラウンド内外の違いを良く理解しているし、練習中に行き過ぎたタックルがあっても、その場でチームメイトに謝罪し手を差し伸べて終わりだ。彼らはそれがサッカーの一部だと知っているし、当然のこととして受け入れている。

CU:闘争あるいは競争が、チームに良い環境・空気を作り出すということでしょうか?

フアン:そうだね。子どもたちは試合で全力を出すことを要求されるから、日々のプレーで自分の200%を出す必要がある。もし全力でやらなかったら、200%を出さなかったら、さらに上手くなることもできないし、相手を超えることもできない。チームは全員がひとつの目標に向かって進むものであり、ひとりが上手くなればチームメイトも追いつこうとする。そこにポジティブな競争が生まれ、チーム全体がレベルアップする。チーム内の競争はそうやってチームに良い影響を与えるんだ。「ジュニア年代での競争は子どもたちに悪い影響を与える」という意見もあるが、私は賛成しないね。「教育」と「競争」をしっかり区別しなければならない。子どもたちにまず必要なのは教育だ。しかし競争も知らなければならない。グラウンドに出て全力を尽くし、その結果として『勝ち』だけでなく『負け』も学ぶ。人生はすべての面において競争であることを、小さい頃から学習すべきだ。競争をする中で、チームメイトのために20メートル余計に走る必要があれば、自ずと走るようになる。『競争』がチームを団結させるために非常に大切なことだと考えているよ。

サッカー選手を育てるのは「誰」なのか?>>

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