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【CUA講義録】ひとつになるための『2つの視点』/チームビルディング~機能するチームのつくり方~THEME1「リチーミングとチームづくりのプロセス」後編

これまでCOACH UNITED ACADEMY(以下CUA)が提供してきたセミナー動画の一部を、テキスト形式のコラム記事で体験いただく【CUA講義録】。「チームビルディング~機能するチームのつくり方~」では、リチーミングコーチを養成する国内唯一の認定機関であるランスタッド株式会社EAP総研の川西由美子所長による、「リチーミング」のノウハウを公開しています。後半はコミュニケーションのメカニズムとチームづくりのプロセスについて。明日からの指導の参考にぜひ"ご試読"ください。(講義/川西由美子 構成・文/COACH UNITED編集部)

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■意思疎通力低下の特性を知る

前編ではストレスのメカニズムについて説明しました。それと同じように重要なのがコミュニケーションのメカニズムです。コミュニケーションというのは、自分が5つの話をしているつもりであっても、ストレスによってうまく伝えられずに3つぐらいになってしまうもの。さらにコミュニケーションの相手が100パーセントの状態で理解してくれれば3つ伝わりますが、受信者側にもストレスがあって受け止める能力が下がるので、5つ話して1つ伝わるぐらいが普通と考えていいと思います。

ですからチームをつくるときに「いま抱えている問題は何か」「何に困っているのか」という話をする際も、伝える側はうまく伝えられていない、聞いている側もうまく聞き取れてないことを見越して、コーチが「それってどういう意味?」「詳しく言うとどうなるの?」と質問して掘り下げることが重要になります。ただしそのときしてはいけないこと――責めちゃダメです。「どうしてそうなんだ」「じゃあこうすればいいじゃないか」と、いまは問題について話しているときなのに、コーチは答えを出そうとするんですね。これがとても危険で、まずは話す時間を確保してあげることが大切です。

ここで、話慣れしている子はすぐにいまの問題について話ができますが、なかなか口に出して話せない子には1日前に宿題を出して、「明日はみんなでチームの問題を考える日にするから、いま抱えているストレスとかやりづらさとか、何でもいいから考えてきて」と考える時間を与えることも重要です。そのときにただ考えるだけではなく、考えたポイントをノートに箇条書きでいいので書かせてください。チームでサッカーノートをつけているのであれば、それを事前準備で使うのもいいですね。

■意志疎通力向上のための認知心理学

選手同士のコミュニケーションで絶対にルールにしてもらいたいのは、チームメイトの意見が違ったとしても否定したり自分の意見を主張したりするのではなく、まずは聞いてみようということです。その上で相手が言っている内容がよくわからないときは、「それってこういう意味なの?」と質問をしてもらう。あるいは、自分の言ったことが相手に伝わったか不安なときは『確認質問』をさせましょう。確認質問では自分が言ったことをただ「わかった?」と尋ねるのはNG。それだとみんなわかってないのに場の雰囲気で「わかったわかった」と言ってしまう場合があるからです。その代わりに、「僕が言ってることの意図を、君が捉えた言葉でいいから話してみて」と確認し、その答えに対して「そういう意図じゃなくてこうなんだよ」とコミュニケーションすることで修正を促すわけです。

そのときに注意したいのは、聞いた相手にも結論を出させたり意見を言わせないこと。あくまでも自分の意見が相手に正しく伝わったかどうかの確認質問ですから、もし答えの中に相手の意見が入っていたら、「僕はそこまで言ってないよ、君の意見が入りすぎだよ」ということを言わせてもいいでしょう。そのプロセスを通じて、一人ひとりのサッカーに向き合う心構えや思いがわかります。単に語ってストレスを発散するだけではなくて、お互いのサッカーへの向き合い方を知ることにつながり、その相互理解がチームワークの第一歩になるのです。

■チームづくりのプロセス

チームづくりは『問題の意識化』『目標の意識化』『意味の意識化』というプロセスで進みます。問題の意識化とはこれまで説明してきたとおり、自分が何を考えているのか、チームメイトは何を考えているのか、正確に伝える、正確に聞き取るということですね。そこから、もともとはバラバラだった意見をまとめて「自分たちの問題はこういうことだね」という共通の問題意識をまとめることがゴールになります。

そして次に、自分たちが向き合う目標を決めていきますが、問題から目標に変えていくにはそれなりのテクニックが必要です。みんなで話し合って思いを目標に変える、目標の意味をわかった上で行動をとらせていく――このプロセスがチームづくりの中心になっていきます。ここで注意が必要なのは、「自分たちのチームはいまこれが問題だ」「だから次はここを目指していこう」となったときに、お互いがイメージを一体化させないとまったく動きがとれないということです。みんながイメージを共有するには2つの視点が必要で、ひとつは自分自身が感じている目線、もうひとつはチーム全体がどのように動いているのかを上から眺めるような目線ですね。そうやっていまの問題が自分だけでなくチームにどのような影響を与えるか、みんなが上から見るような目線でイメージを共有することで、個々が何をすべきかわかります。それで初めて行動できるということです。

こうしてチームの意見がまとまったら、選手全員に自分の意見がちゃんと含まれているかを確認してください。ひとりでも含まれてないという子がいれば、その子の意見も入れながらもう一度チームの意見をつくらせてみましょう。そうやってでき上がったチームの意見が結果として個々の意見とかけ離れていると、今度は『チームの意見』が人格化して自分には関係ないという空気になるので、チームの意見ができたあとには必ず個人の理解を促してください。選手一人ひとりに、「チームが目指そうと決めたものは君にとってどういう意味があるのか」を問い、自分の意見をしっかりと言わせる。これだけでもチームはすごく強くなります。

さらに、チームの意見について個人が理解したら、選手一人ひとりの思いをみんなが共有し、お互いに理解し合いながらチーム全体の理解につなげていきます。そうやって「個の意見→チームの意見→個の理解→チームの理解」というプロセスを進めていくと、最後は全員で目指すものを決めて、その一歩として自分がやることを決めていきますが、それがやらされ仕事になりません。個人の意見を結集してチームの意見を決める、チームで決めたものを個人として理解する――。しっかりと腹落ちしているので、一人ひとりがすべてのプロセスを追えるということですね。チーム全体としてどんな動きになるのかをイメージしつつ、その中で自分の動きがどうあるべきかを考えられること、それが強いチームをつくるための力となるのです。

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川西由美子(かわにし・ゆみこ)
リチーミングコーチ、キッズスキルアンバサダー。リチーミングコーチを養成する日本で唯一のトレーニング機関であるランスタッド株式会社EAP総研の所長を務める。多くのリチーミングコーチを育成し、日本での普及に努める。自身も数多くのアスリート、企業所属のスポーツチームをサポートした経験を持つ。