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家庭で実践したい! 女子に多いけが予防

※サカイク転載記事(2014年6月16日掲載)※

女子選手は前十字靭帯断裂などのケガが男子に比べて多い――。指導の現場ではよく耳にする言葉です。これは育成年代だけではなく、なでしこリーグのなどのトップレベルにおいても同様です。なぜなのでしょうか?今回、この疑問に答えて下さるのはフィジカルトレーナーの荻原孝俊さん。荻原さんはアメリカンフットボールやジャパンサッカーカレッジなどで長年指導を努めてきた方です。また、昨年のインターハイでは、女子サッカーで優勝した日ノ本学園のコンディショニングコーチを努め、タイトル獲得に大きく貢献されています。理論と現場の両方に精通している荻原さんだから言える答えが返ってきました。サッカーだけでなく、家庭でのケガの防止のためにも、親は一読の価値あるインタビューです。(取材・文/上野直彦 写真/Andy Eick Soccer Peeps Green and Ham3to3)

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■そもそもX脚が多い女子。横たわる深い理由

――女子に前十字靭帯に関するケガが多いのは、そもそもⅩ脚が多いからと言われますが、本当なのでしょうか。

「実際に多いと思いますし、前十字のケガの原因の一つでもあると思います。理由として、女子は男子より骨盤が大きく、股関節が男性よりも外側に付いているんです。そのために膝が内側に入ってしまいます。男子は骨盤が狭いので真っ直ぐ下に足がある。女子は広いので内側にいく。それは女子が将来出産を控えているからだと言われています」

――そうなってくると先天的なものですね。他に理由はありますか。

「もうひとつは思春期を過ぎると第二次成長で女性ホルモンが出ますよね。女性ホルモンは身体を柔らかくする機能があるそうです。それで男子より関節が緩くなって、膝などがケガしやすいともいわれています」

――女性ホルモンの影響が大きいということは、小学生年代だとあまり関係ないのでしょうか。

「小学生くらいで膝のケガが多いというのはあまり聞かないんです。女性の身体になるにつれてⅩ脚が多くなるのは、関節が緩んで膝が内側に入って(ニー・イン)、つま先は外へ向くんです(トー・アウト)。前十字をケガすることが多いのは、まさにこのニー・インとトー・アウトのポジションなんです。例えば、切り返したときに踏ん張ったり、ジャンプして着地したときに膝が内側に入るので、体重が一気にかかって断裂してしまう場合が多い。これは中学生以上に多く見られますが、小学生年代にも関係ないことではありません」

■家庭の中など、オフ・ザ・ピッチでの対応も大事

――小学生年代にも関係ある? それはどういった部分でしょうか。

「『女の子座り』って、あるじゃないですか。正座して膝から下を外側に出して座る座り方です。男子なら体育座りなんですが。女の子らしく股間を開かない座り方をするんです。ああいう座り方も膝が内側になり、よりⅩ脚になりやすいのではないでしょうか。そこは下の年代からケアしていってほしいです」

――具体的にはどうやってⅩ脚をケアすることができますか。

「ひとつは、つま先と膝頭の向きをそろえて屈伸運動をすることです。スクワッドやジャンプで着地したときに膝が内側に入るじゃないですか。そういうときも必ずつま先と膝を同じ方向にむける『癖』をつけさせることです。これも下の年代からやってほしいですね」

――成長前の小学生年代での準備が本当に重要なのですね。他にはどういったものがありますか。

「股関節の柔らかさです。股関節が硬いとそのまま真っ直ぐにしゃがみこめない。いまは身体が硬い子が多くて。例えばバレーボールでも猫背でやる子がいるんです。ジャンプして着地すると、膝とつま先の方向が違う、しかも猫背だから一気に負担がかかってケガをしてしまう。バレーとバスケットをやっている女子で前十字をケガするときは、圧倒的に着地した瞬間なんです。股関節が硬い子ほど膝が内側に入っています。サッカーだとジャンピングヘッドしたときです。股関節を柔らかくするよう準備運動やストレッチに努めてほしいですね」

――逆に、このあたりの筋力を鍛えたほうがいいというものは。

「股関節まわりの筋肉を使えるようにすることです。これで柔軟性も上がるんですよ」

――大事な筋力のようですね。ここを鍛えるにはどうやったらいいのですか。

「ブラジル体操ってあるじゃないですか。リズムを取るだけの運動にしてはもったいない。前進しながら足を大きく回し、後進しながら足を内側から外に回すときも、多くの人は上半身をひねりながらやる。あれでは股関節を動かしていない。上半身は進む方向に向けたままで固定し、それで足を上げると、股関節を大きく回すことになる。このやり方が大事です。これも下の年代から習慣にしてほしいです」

■意外と知られていない練習法――お尻の横の筋肉"中殿筋"を鍛えよう

――あと、荻原さんならではの練習法とかはないのでしょうか。

「一番いいのは、お尻の横の筋肉―中殿筋を鍛えるのがいいと思います。練習法としては、完全に横向きに寝て上側の足を上げる。これを繰り返すのです。そうすると中殿筋を使わざるを得ない。ここを鍛えておくと片足で立ったときに骨盤が安定してきます。これが中殿筋を鍛える一番簡単な方法。ここを鍛えておくと、膝への負担を軽減できます」

――これは簡単だし便利ですね。これらの練習法は小学生年代でもやるべきなのでしょうか。

「やったほうがいいです。むしろ、思春期前にこれらの動作をやっておけば、かなり変わってくると思います。あと小学生年代では、ジャンプした後に足裏全体で着地してほしいんです。つま先だけで着地するのは、それだけで膝が内側に入る確率が高い。正しい基本動作を身につけてほしいですね」

荻原さんの説明は一つひとつが理にかなっていて、納得のいくものばかりでした。タニラダーの講座において、子供たちに大好評なのが頷けました。小学生年代こそ、将来の準備として、正しい動きを身につけてほしい。コーチや保護者にはサッカーの技術だけでなく、そういった部分にも注意してほしいと荻原さんは希望します。

女子選手がケガもなく、長くプレーするためには周囲の大人のサポートが大切です。また、家庭内においても十分対応できるので、親のケアがなにより大事なものとなってくるのです。

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