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女子は理解して動く生き物

※サカイク転載記事(2014年6月23日掲載)※

なでしこジャパンのドイツ女子ワールドカップ優勝、ロンドンオリンピック銀メダル獲得をきっかけに、全国に多くの少女チームが生まれました。そこで初めて女子にサッカーを教えることの難しさを知った人もいるでしょう。ただ、その中から「どうも少年の指導とは違う」「今までと同じ方法ではうまくいかない...」と戸惑いの声が聞かれます。親にとっても息子と娘では育て方は随分と違いますし、そこで悩む人も多いようです。今回は、少女チームのアンジュヴィオレ広島で普及・育成を担当され、女子の指導に定評のある柴村和樹さんにお話を聞いてきました。柴村さんは男子と女子では指導の手法を変える必要があると言います。それはなぜなのでしょうか? 柴村さんの言葉には、親子間のコミュニケーションのヒントが詰まっています。(取材・文/上野直彦 写真/金子悟)

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■サッカーの指導でも家庭の教育でも感じる、女子と男子の違いとは!?

―柴村さんが女子を指導するきっかけはなんだったのですか。

「以前は同じ広島にある廿日市FCという育成クラブで、幅広い年代を全般的に指導していました。女子チームもありました。そこを離れる際にお誘いを受け、昨年からアンジュヴィオレ広島の指導に携わっています」

―当初、女子を育てることに戸惑いや行き詰まることはなかったですか。

「もともと僕のやり方は、目の前にいる選手をどうするか、という考え方なんです。例えば幼児と大人で同じトレーニングはしないですよね。それと同じで、女子はこういう感じだから、こういう教え方がいいと考えてから入るので、そこまでの戸惑いはなかったですね。また、以前のクラブでも中学生以上ですが女子のチームがあったので、指導現場は知っていました。そこで男女の違いを認識していましたから」

―男女の違いとはどういった部分でしょうか。

「それは理解です。女子は『頭で理解してから動く』という傾向が強いです。逆に男子は「とりあえずやってみよう!」じゃないですが、理解よりはまず行動ということが多いです」

―面白いですね。なぜそうなるとお考えですか。また、そのために指導のやり方も変わってくるのでしょうか。

「男子の場合は、引っぱればついてくるんです。コーチがいろいろな意味を込めて練習を与えているのですが、男子はそれを理解しなくても一生懸命頑張るんです。女子の場合は、『こういう練習をします』と事前に理由をちゃんと説明してあげたほうが、より頑張ってくれます。他のスポーツ指導者も同じことを言っているのですが、女子の場合は自然とセーブしてしまう傾向にある。それは、将来出産を控えているからと言われています。これは僕の考え方ですが、セーブというものが身体の上からかかるとすると、自分の気持ちというものは下から上がってくるもので、僕は後者を大事にする指導をしています」

■『自分がやっている』という感覚を持ってもらうこと

―そのあたりを詳しく教えていただけますか。

「教え方において男女で手法を少し変える場合があります。女子チームでは、"やらされている"チームをいっぱい見てきました。それは、指導者・コーチが自分のやり方を押し付けているという意味です。これは違うと感じました。僕の教え方は、選手が『自分がやっている』という感覚の状態になってもらうことを重点に置いています」

―「やらされている」、つまりコーチのやりたいサッカーを押し付けるのではなく、「自分がやっている」と思ってもらう教え方はどうやって実現していくのですか。

「分かりやすい例をあげたいので、あえて社会人チームで実際にあった話をします。コーチが自分の思い通りに選手を動かせなくて、『なんでアイツこうなんだよ!』『なんでこんなこと、できないんだよ!』と事あるごとに選手にあたるんです。当然、選手とコーチはうまくいかない。そういうのを見てきたのが大きいんです。そんなサッカー、楽しくないと思うんですよ。それだと選手もコーチも伸びないと感じました」

―それは大人だけでなく、少女や少年も同じことですよね。

「そうなんです。また、教え方で悩んでいたときに、当時サンフィレッチェ広島で監督をされていたペトロビッチさん(現・浦和レッズ監督)の言葉を伝え聞いたんです。『自分たちがサッカーを楽しめないと、楽しいサッカーを見せることはできない』と。まったくそうだと思いました。元日本代表の久保竜彦さんにも聞いたことがあります。ペトロビッチ監督時代に、彼は1シーズンでトータル数十分しか出場していないのですが、あの1年間が一番楽しかったと。監督として、ただ勝たせるだけでなく、そういった部分にも視点があったのだと思い知らされました。指導者としては、そこがベースなのだと」

―まずサッカーを楽しいと思ってもらうことが大事だと。そのためにも「自分でやっている」感覚を持ってもらうことが入り口になるんですね。

「はい。それで楽しいって何かと考えたんです。人からやらされてるって面白くないじゃないですか、子どもも同じです。自分から楽しいなと思ってやることが大事なんです。指導にあたって、そこは決して外してはいけません」

■一番大事なのは、声がけのタイミング

―とても興味深い話です。子どもたちに「自分からやっていこう」と思ってもらうため、具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか。

「そこは自分自身でも一番大事な部分だと思っています。『何を声がけするか』『声がけのタイミング』で子どもは変わると思います。どこを注意するか、何をアドバイスしてあげるかで子どもたちは確実に変わっていくんです。そのために、子どもの様子を本当によく見ていないといけない。メンタル的な部分も重視しているので、その子に一番合った声がけをします。あるいは声をかけなかったりとか」

―声をかけない?

「声をかけることで、考えていたことが止まることがあるんです。だから、あえて声をかけない。実は、かけないことの方が多いんですよ。一般的に『そうしろ』あるいは『それをするな』とか言うじゃないですか。そういったことは、ほとんど言わないです。これをやったらケガするとか、友達に迷惑をかける場合があること以外は注意しない。もうひとつ大事なのは、声がけのタイミングです」

―それはどうやって見極めていますか。

「普段からその子のことをよく見ていないとベストなタイミングが見つかりません。現在、小学1年生から6年生まで35人の選手を2人のコーチで見ています。一人ひとりタイミングは違いますが、普段から子どもたちをよく見ていると分かるときがあります」

■女子に多い質問「なぜ、その練習をやるんですか?」

―女子は頭で考えてから行動する。それもあってか、まず「なんでこの練習をやるんですか?」と理由を聞いてくる場合が多いそうです。そのあたりはどうケアされていますか。

「そういった部分もあると思いますが、理由を聞いてくるのはいいことです。面倒くさがらず、ちゃんと説明してあげればいいんです。さらに大事なのは、疑問に思っていても聞けない子どもがいるということを認識すること。その子が『コーチには気軽には話しかけてはいけない』と思っていたら難しい。なんでもかんでも話せる間柄だったら、気軽に質問できる。僕は自然にそういう質問が出てくる関係を作るよう心掛けています。そのほうが、子どもたちのやる気も引き出せるんです」

―なでしこジャパンの取材をしているから思うのですが、柴村さんはノリさん(佐々木則夫監督)の"横から目線"に近いものを感じます。

「僕は(佐々木監督を)直接知らないのですが、近いかもしれませんね。基本は信頼関係なんです。『この人の言うことなら、やってもいい』と思ってもらう信頼関係が大事。特に女子はそれが強いですね。日頃の練習から築かれていくと思います」

まだ指導期間は短いながら、女子の指導で評価を得ている柴村さんは、子どもの周囲にいる大人の存在をこう位置づけています。

「コーチも親も子どもを変化させることのできる存在です。変な方向に変化させる存在にもなるし、ちゃんと導いていける存在にもなり得る。だからこそ適当な関わりはできない、責任があります。どこへ導くかという明確なヴィジョンをもっていないと、その場しのぎになります」

子どもは絶対に変わる――という考えのもと、「どこへ導いていけるか」をテーマに、柴村さんは今日も指導を続けています。それは親も実践すべき教育です。柴村さんのアドバイスは、家庭の中での子どもとの関わり方においても、大きなヒントとなるでしょう。

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柴村和樹(しばむら かずき)
1980年8月27日生まれ。広島県広島市出身。阪南大学を卒業後、スペインのラコルーニャへサッカー留学。その後広島県の廿日市FCで指導者の活動をスタート、幅広い年代の普及、育成、強化の指導を務める。様々な経験から独自の指導法を持ち、現在は女子チームのアンジュヴィオレ広島で普及・育成に所属。弟はFKブハラ(ウズベキスタン)所属の柴村直弥。