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『守から攻』を極めるとこうなる/大学サッカーからの提言

COACH UNITED ACADEMYの5月テーマは「大学サッカーから逆算で考える育成指導」。後半の講師は、昨年まで関東大学サッカーリーグの順天堂大学蹴球部で監督を務め、チームとして数多くのタイトルを獲得しながら、プロとして活躍できる人材を多数送り出してきた吉村雅文氏。大学サッカーの特性を知り尽くした指導者が、チーム強化のコンセプトについて語った後編の内容から、見どころを抜粋してご紹介する。(取材・文/COACH UNITED編集部 写真/Reiko Iijima)

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■指導者が追求すべき「速さ」の意味

前回から続く吉村氏による『守から攻』の戦術指導の後半は、コンパクトに"なる"ことでボールを奪ってから、「攻」に転じるときの「速さを追求するサッカー」だ。

「チーム力を強化するときにもうひとつ、つねに念頭においてやってきたのが『速さを追求すること』です。技術レベルがそれほど高くない選手・チームに対して、ひたすら速さを要求するのはどうなのかと指摘をいただく指導者の方も多々おられました。しかし私は、もちろん前提となるスキルを身に付けることも非常に重要だと思いますが、一方でスキルに関わりなく、つねに速くプレーすることを要求してきました」

その理由について、吉村氏はある状況における「問い」を立て、その答えを考えることで説明を試みる。ここで皆さんにも"ある状況"を示す絵(下図)をご覧いただき、次の問いについてお考えいただきたい。

「目の前にある大きな荷物を50メートル先になるべく速く運んでください。ただし方法はあなたにお任せします」

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「この状況で荷物を速く運ぼうとしたら、この人はきっと仲間を連れてくると思います。ひとりで重い物を運ぶより、仲間を連れてきて2人、3人、もしくは4人、できることなら10人集めた方が、この荷物はきっと速く、しかも正確に運べるでしょう。私の考える『速さを追求する』というのは、実はこういうことです」

つまり、物事を速くやろうとすると仲間の協力が必要である、逆に言えば、仲間の協力を得ることで、物事は速くできるということ。それは、サッカーに置き換えても同じことが言えるのではないか。吉村氏が考え抜いた末にたどり着いた答えだ。

「サッカーの場合はボールを奪った瞬間、速くパスコースを作らないといけません。ボールを奪った選手に速く自分のポジションを伝えたり、速く周りの選手が声をかけてやる...そういった速さを追求することで、それまでボール保持者に対してひとりしか関係できなかったサッカーが、2人、3人...もっと多くの人数がボールに対して速く関与してくる。そうするとチーム全体が加速度的に速く攻撃に移っていけるし、より多くの選手が攻撃に参加できるサッカーになっていくのではないかと考えてきました。ですから、つねに速く攻める。チーム全員がこの(図の)ような状況をイメージし、ボールを奪ったら一気に加勢して得点まで目指そうと思えることが、チーム力を最大化するのではないかと思っています」

■「相手陣内でパス3本以内」驚異の得点率

吉村氏の説く「守から攻のチーム作り」をまとめると、ピッチ上のすべての選手が温度差なしにタイミングを知ることができる『守備』を起点に、ボールを奪い取った後は仲間と協力していいポジショニング・いい動き出しを作り、『速く攻める』ことで得点を奪おうとする積極的なサッカーだ。前回の記事では「守備重視」の側面が強調され、氏が懸念するようにネガティブな印象を抱いた読者もあったかもしれないが、その本質はあくまで「守から攻」である。実際、ボールを奪ってから速く攻めるという感覚を選手が会得し、相手の守備陣形が整わないうちに決定的な攻撃につなげている事実を裏付けるデータがある。

「私が昨年まで指導していた順天堂大学で、リーグ戦の得点の傾向をすべて調べたことがあります。決してリーグで一番得点を取ったわけではありませんが、際立った特徴として、自陣から何らかの形で得点まで至ったというケースが1点もありませんでした。逆に、相手陣内でボールを奪ってパス1本、もしくはパス2本、多くともパス3本で得点を奪ったケースが9割でした。これは要するに、『コンパクトに守る』そして『速く攻める』という、人間関係が不可欠なキーワードで共有する『守から攻』のコンセプトにもとづき、ピッチ上にいる11人全員が機能するサッカーをプレーした結果が、そのような形で多くの得点を取れた要因ではないかと分析しています」

選手の限られた側面にとらわれず、人間関係を強みにチームで成果を出そうとする指導スタイルは、さまざまなレベルの子どもたちを抱えるジュニア年代のクラブにとっても有効な指針になり得るだろう。十人十色の選手を集めて世界の強国と渡り合い、堅守からの攻撃的なサッカーで銅メダルを獲得した2013年のユニバーシアード大会は、その意味で吉村サッカーの象徴であり集大成だったと言える。「ただ上手ければいい」「ただ強ければいい」ではなく、指導者一人ひとりがもっと違う側面でサッカーを捉え、チームとしてどうやって機能させるかを考えることで、選手一人ひとりの成長の仕方も変わっていくに違いない。

セミナー本編の最後に吉村氏は、すべての育成指導者に向けた総括のメッセージを語っている。氏が全編を通じて伝えたかったことが凝縮された2分半には、人それぞれの気づきがあることだろう。ぜひこの機会にご視聴いただきたい。

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吉村雅文(よしむら・まさふみ)
1960年6月29日生まれ。大阪府出身。順天堂大学体育学部卒業後、同大学院へ進学。同志社大学、東京電機大学での教職を経て、現在は順天堂大学スポーツ健康科学研究科教授。その間、順天堂大学蹴球部の指導者・監督としても2014年まで指揮をとり、多数の大学タイトルを獲得。近年では田中順也(スポルティング)、小宮山尊信(川崎フロンターレ)をはじめ多くの有力選手を育て上げたほか、2013年のユニバーシアード競技大会では日本代表監督としてチームを率い、堅守かつ攻撃的なサッカーを展開して銅メダルを獲得した。全日本大学サッカー連盟技術委員長、関東大学サッカー連盟技術委員長などを歴任。