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勝負と育成の並行が指導者を磨く/高校サッカーの現在的意義を考える(1)

現在、新潟医療福祉大学サッカー部監督を務める佐熊裕和氏。3年前までは桐光学園サッカー部で指導にあたり、神奈川県の無名校を全国屈指の名門校に育て上げた。選手の個性を見抜いて伸ばす指導力に定評があり、横浜F・マリノスユースに昇格できなかった中村俊輔の視野の広さとパスセンスを見抜くと、高3時には全国トップクラスのタレントに成長させた。以降も藤本淳吾(横浜FM)、本田拓也(清水)、田中裕介(C大阪)、瀬沼優司(愛媛)など数多くのJリーガーを輩出。2年前に就任した新潟医療福祉大でもその手腕を発揮し、今年は北信越大学サッカーリーグで1年生主体のチーム編成ながら4位と、来年以降のさらなる飛躍が期待されている。今回のCOACH UNITED ACADEMYでは、そんな指導経験豊富な佐熊氏とともに「高校サッカーの現在的意義」について考える。前編では桐光学園時代のエピソードを通じて高校年代の育成についてお話しいただいた。(取材・文/安藤隆人)

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■「高校サッカーからプロを育てる」という使命感

佐熊氏が桐光学園に就任したのは1986年のこと。当時の理事長から「サッカー推薦枠を作るから5年以内に全国大会に出てほしい」と言われ、血気盛んだった佐熊氏は厳しい指導でチームを強くしようとする。ところが当初30~40人ほどいたサッカー部員は日を追うごとに少なくなっていき、1年後にはたった2人という危機的状況に陥ったという。

熱意を持って桐光学園にやってきたものの、サッカーに対する選手との意識の差は歴然だった。当然、佐熊氏も初めての指導現場で右も左もわからない状況。サッカー部の存続も危惧されるような状況で、佐熊氏はどういう行動に出たのか。

「とにかく自分の足で選手を観に行って、熱心に声を掛けました。選手が入って来るようになってからは、今度は名門校の指導者に胸を借りました。本当にまわりが助けてくれたという思いで、高校サッカーの良さを感じましたね」

"5年以内の全国出場"に向けて下を向くことなくチーム作りを推し進めていった結果、チームはちょうど5年目にインターハイ初出場を果たした。この結果に満足することなく、佐熊氏は変わらぬ情熱でチーム強化に努め、その過程で育成に対する独自の観点を養っていく。

「高校サッカーでプロを育てるということ。ただ単にチームを強くして全国大会に出る、そこで勝ち進むことばかり目指していては、いつまで経っても進歩はありません。Jユースだけでなく、高校サッカーの現場から多くのプロを出すことこそ、自分がやるべきことだと思いました」

■「勝ちながら育成することは可能」という気づき

目先の勝利よりも育成にウエイトを置く指導にシフトしていった佐熊氏。そのために組織改革も敢行した。サッカー部員を少数精鋭にしたのだ。

「1学年13人、全部員50人前後でやる環境を整えました。部員が多くなるチームもありますが、ウチは細部まで目を届かせるために、サッカー部以外にクラブチームの『FC川崎栗の木』を立ち上げ、2チームに分けて活動することでサッカー部の人数を制限しました。スタッフもしっかりと全員に目が届くように、コーチ、GKコーチ、トレーナーと配置しました。選手だけでなく、スタッフも適材適所にして組織作りをしたのです」

その成果もあってますます成長を続けていったチームは、全国でも上位を狙える力をつけていく。中村俊輔を擁して準優勝を果たした第75回全国高校サッカー選手権大会、決勝の市立船橋戦でも彼の哲学は揺るがなかった。

「勝負よりも良いサッカーをしようと。ところが『ボールポゼッションして、クリアを蹴らずにつないで戦うんだ!』と言って臨んだら1-2で負けました。それでも良いと考えを貫いた結果、その後10年間も選手権に出られなかったわけです」

勝利よりも内容重視――。その結果として大舞台の選手権から遠ざかったが、中村をはじめとする数多くのJリーガーを輩出し続けることはできた。しかしあるとき、その佐熊氏の考えに変化が訪れる。

「ある名将と話をしたときに、『なぜお前のところは勝ちを目指さないんだ?』と問われ、『強化育成と勝ち負けは並行できる』『勝ちながら育成することは可能だ』と説かれたんです。そこで目が覚めた部分がありました。なぜサッカーをしているのかといえば、それは相手に勝つため。なのに勝ち負けを無視していたらいけないと思ったんです。ただポゼッションしていれば良いのではなく、勝ちを目指した指導をすべきだと。ボールを丁寧に扱うことがすべてじゃない。試合に勝利するための判断をともなった技術を鍛えないといけない。そう考えるようになりました」

ただキレイなサッカーや個の技術ばかりにフォーカスしてしまっていたら、大事な試合に勝つことを忘れ、勝利のために何をすべきかを判断できない選手になってしまう――。そうした気づきによって、佐熊氏のアプローチはさらに進化をしていったという。その詳しい内容については、ぜひセミナー本編をご覧いただきたい。

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佐熊裕和(さくま・ひろかず)
1963年12月1日生まれ。東京都出身。1986年に桐光学園サッカー部監督に就任。2013年3月まで27年間チームを指揮し、高校選手権準優勝1回、ベスト4を1回、インターハイ準優勝1回を誇る全国屈指の強豪校に押し上げた一方、中村俊輔、藤本淳吾(ともに横浜FM)をはじめとするJリーガーも多く輩出している。2013年には日本サッカー協会S級ライセンスを取得。同年に中国リーグ3部の梅県客家(バイケン)で監督を務め、昨年から新潟医療福祉大サッカー部の監督に就任した。

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