07.26.2016
なぜ、日本のサッカーチームは「攻守の切り替えが遅い」と言われるのか?
スペイン・バルセロナを拠点に、世界中でクラブのコンサルティング、選手の指導を行うサッカーサービス。日本での活動も長く、先日「日本サッカーにおける守備の課題」を改善するためのトレーニングを収録した、DVD「知のサッカー第3巻」をリリースしました。
このDVDを監修したのが、サッカーサービスのフランコーチです。彼は過去にJFAアカデミー福島U13のコーチを務めた経験を持ち、日本の育成年代の選手の長所、短所を良く知る人物でもあります。
はたして彼は、日本サッカーの『守備(ディフェンス)』について、どのような考えを持っているのでしょうか。
■日本の選手が身に付けるべき「プレスに行くべきタイミング」
――今回は日本サッカーの守備(ディフェンス)について話を伺いたいと思います。
なんでも聞いてください。我々サッカーサービスはJリーグや日本代表、育成年代の試合を様々な角度から分析し、中には直接指導をしたケースもあります。そこで感じたことをお話ししたいと思います。
――単刀直入に聞きますが、日本サッカーの守備(ディフェンス)について、どんな印象を持っていますか?
多くの試合を分析した結果、「日本の選手は、プレスをかけるべきタイミングを知らないのではないか?」という印象を受けました。
もちろん、すべての選手が知らないわけではなく、理解している選手もいますが、チームとして「いつ、プレスをかけに行くべきか」というコンセプトが浸透していないように見受けられました。
――具体的に、いつ、プレスをかけに行くのが望ましいのでしょうか?
我々が考える「プレスに行くべきタイミング」は、「ボール保持者が後ろ(攻撃方向とは反対側)を向いたとき」です。
この瞬間、100%の力でボール保持者の元へ近寄り、ボールを奪います。ただし、闇雲にボール保持者に近寄ればいいのかというと、そうではありません。プレスをかける前に認識すべき、重要なコンセプトが3つあります。
- 自分の背後のスペースにドリブルで進入されない、あるいはパスを通させないようにするために、背後を見て、ピッチ中央部へのパスコースを消す
- ピッチ中央部へのパスコースを消すポジションを取り、相手がドリブルを仕掛けてきたところで奪いに行く
- ボール保持者が後ろ(攻撃方向とは反対側)を向いたときは、ボールを奪うチャンス。100%の力で寄せに行く
守備(ディフェンス)の局面においても、認知(状況把握)→決断→プレーの実行というサイクルがあります。
これを絶えず行い、守備時にもっとも相手に使われてはいけない「自分の背後のスペース」に注意を向けながら、ボールを取れそうな瞬間に100%の力で寄せる。これが、プレスにおける、守備の個人戦術です。
■守備戦術を選手に理解させるために監督がやるべきこと
――これらのコンセプトは、何歳から指導をしますか?
我々の考えでは、U13の年代で身につけておくべきことだと思います。守備の個人戦術はサッカーのベーシックな部分であり、それは大人になってから習得するのでは遅いですし、時間がかかります。
U13年代で個人戦術を身に付けた上で、よりグループ、チームとしてのプレーが求められる、U15、U18のカテゴリーでのプレーにつなげていきます。
――守備戦術を選手個人に理解させた上で、「チームとしてどうやってプレスをかけるか」という指示を出すのが、監督の仕事になると?
その通りです。守備(ディフェンス)のチームコンセプトを決めるのは、監督の仕事です。そこを選手任せにするのは、基本的にはないと我々は考えています。
コンセプトを決める際に、大事なことが2つあります。1つ目は「FW、MF、DFラインの、どこを守備のスタート地点にするか」。そして2つ目は「ボールを失った瞬間、どのような対応をするのか」です。
相手の最終ラインがボールを持った時点で、FWが積極的にプレスをかけに行くのか。それとも、自陣に引いて守備(ディフェンス)のブロックを作り、相手に進入させないようにするのか。
ある選手は前に出てボールを奪おうとし、ある選手は後方に下がって守備(ディフェンス)をしようとすると、相手に中盤のスペースを明け渡すことになります。
チームとして前に出て守るのか、後ろに下がって守るのか。いつ、どのような状況で前に出て、後ろに下がるのかを選手たちが知らないといけません。
――どうやって、守備(ディフェンス)のコンセプトを選手たちに浸透させていけばいいのでしょうか?
私は以前、JFAアカデミー福島U-13の指導をしていましたが、コーチ就任直後の2ヶ月間は守備(ディフェンス)のコンセプトを徹底してトレーニングし、Jクラブの下部組織に連勝しました。
そこでは、プレスに行くときのコンセプトを整理して、選手たちに伝えました。それが、次の3つです。
- ボールホルダーにプレッシャーがかかっていれば、前に出て取りに行く
- ボールホルダーがフリーであれば、背後のスペースを守ることを優先する
- ボールを奪われた直後こそ、ハードワークして守備(ディフェンス)のバランスを構築し、すぐにボールを奪い返す
日本の選手は、攻守の切り替えにおいて、ボールを奪われた瞬間に止まっている、あるいは動き出していない選手が多くいます。
ボールを奪われた直後の2秒間は「どう動けばいいかわからない」といった様子で、戸惑っているように見受けられるのです。その後にボールを奪い返すために動き出すのですが、2秒の遅れは、取り返しのつかない遅れです。
ボールを奪われた瞬間、素早く攻撃から守備へと切り替えないと、後に10秒、20秒と長い時間、ハードワークをするはめになってしまいます。
JFAアカデミーでは、ボールを奪い返す時のコンセプトを統一し「ボールを奪われた瞬間こそダッシュしよう」と伝えました。
そうしないと相手ボールになり、長い時間、走らされることになるからです。
選手には「どうせ走るのであれば、先に走ろう。そうすれば短い時間で終わるから」と言いました。攻撃と守備は表裏一体です。いいチームは攻撃をしながら、守備の準備をしています。
FCバルセロナはそれが非常に上手いチームです。現代サッカーにおいて、攻撃の時は攻撃だけ、守備の時は守備だけに集中するというのはありえません。そこは、指導者が意識づけをする部分だと思います。
※DVD「知のサッカー3巻」より
■日本サッカーがレベルアップするために必要な「守備時の認知」
――欧州選手権や南米選手権を見ていても、攻守の切り替えがとにかく速いですね。
そう思います。
少し厳しい言い方になるかもしれませんが、一般的なJリーグの選手達の『攻守の切り替え』のスピードは、世界のトップレベルに比べると明らかに遅いです。
その理由のひとつに『守備時の認知の欠如』があります。
日本の多くの選手が、「いつプレスに行くべきか」という理論を理解していない、あるいはチームとして共有していないので、選手個々がバラバラにプレスに行き、その結果かわされてしまう。
あるいはボールを奪うことができたとしても、周りの選手が連動していないので、素早く攻撃に移行することができないという現象が起きています。
それを改善するためには、まずは守備の個人戦術を身につけ、その後にグループ、チームとして守備の戦術を構築していくことが必要です。
繰り返しになりますが、それは指導者が選手に対して提示する部分であり、指導者が選手に教えることができなければ「選手が自分で判断し、チーム戦術として機能する」ことはありえません。
言い換えれば、守備のオーガナイズは指導者がすべき、重要な仕事のひとつなのです。日本の指導者、選手の守備に対する意識が高まれば、日本サッカーは一段レベルアップすることができると思います。
我々は講習会やDVD「知のサッカー第3巻」を通じて、そのお手伝いをしたい。そう思い、日本に拠点を構えて取り組んでいます。
フランセスク・ルビオ
カタルーニャサッカー協会認可監督。サッカーサービス社分析エリア主任。
サッカーサービス社の分析、コンサルティング部門責任者として、選手やクラブ育成コンサルティング業務を担当。C.Fカン・ビダレットの下部組織(U-18)の監督、コーディネーターと、カタルーニャサッカー協会技術委員を兼任。2014年までJFAアカデミー福島U13の監督も務めた。
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取材・文 鈴木智之