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クリエイティブなプレーを引き出すために、正解は伝えず失敗を経験させる/ドルトムント式トレーニング&コーチング

COACH UNITED ACADEMYでは、ボルシア・ドルトムント・アカデミーのベンジャミン・サヘルコーチが、日本のU12年代の選手たちに向けたトレーニングセッションを公開中。前回の記事では「ドルトムントが考える、年代別トレーニング」の様子をお届けしたが、後編では「相手のマークを外してパスを受ける」というテーマに対する指導実践をレポート。ドルトムント・アカデミーではどのような指導メソッド、トレーニングメニューのもとに行うのだろうか? テーマに対する練習メニューの組み立て、指導のポイントを紹介する。 (取材・文 鈴木智之)

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選手の理解度を見ながらコーチングの要素をつけ足していく

トレーニングに参加したのは、日本のU12年代の選手9名。ウォーミングアップとして3人ずつ3チームに分け、フットサルコート半面をさらに半分にしたグリッドの中で「同じチーム同士」というルールのもと、各チームがボール1個持ち、パスを回す。サヘルコーチは「今回のテーマでもあるパスのウォーミングアップとして、身体を温める目的で行います」と語り、コーチングでは「パスを出した後に、スペースへ走る」というベーシックな部分に働きかけていく。
次の練習では「パスを受けるときに足元にボールを止めるのではなく、スペースへコントロールして運ぶこと」「パスを受けるときに立って待つのではなく、動いてマークを外し、ボールを受ける」という2点を強調。練習では「パスを受けるときは、最初にいたグリッドとは別のグリッドに入る。パスを受けたら、コントロールして別のグリッドへ進入する」というルールを設ける。それにより、動いてパスを受ける、パスを受けたらボールを運ぶという2つを意識せざるを得ないように仕向けていく。
トレーニングのルール設定、選手への意識づけに対して、サヘルコーチは次のように語る。
「最初はひとつのことを言い、選手のプレーを見ます。選手たちの理解の度合いに応じて、多くの要素を足していきます。ここでは『動いてパスを受ける』『パスを受けた選手は、ファーストタッチでボールを動かす』という2点を強調しました。トレーニングを止めて話をするときには、こちらがすぐにこうしなさいと言うのではなく、質問をする形で『なぜこうした方が良いのか?』と選手に考えさせることが大切だと考えています」

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コーチングの度合いとともにトレーニングも徐々に実践に近づけていく

続いてはピンク、黄色、黒に色分けしたチームで、『ピンクは黒、黒は黄色、黄色はピンクにパスを出す』というルールを設定。パスを出す選手は、ボールを受ける前に周りを見て、自分がパスを出す色の選手はどこにいるかを確認する動きが加わる。サヘルコーチは「パスを受ける選手は、パスを出す選手の名前を呼び、アイコンタクトをしてボールをもらおう」と声をかける。

さらに「パスを受けた選手は、次にパスを出す前にシザースなど、フェイントを入れてみよう」とアドバイス。プレーが徐々に実際の試合へと近づいていく。サヘルコーチが説明する。
「この練習はU8では難しいですが、U10の子たちはできると思います。ここまでがウォーミングアップで、10分から12分をめどにします」
この日のテーマ「相手のマークを外してパスを受ける」プレーを習得するために、練習メニューの難易度は少しずつ上がり、意識すべき事柄も増えていく。段階を経て習得していくことがポイントであり、次の練習では『ボールは手で扱う』というルールのもと、グリッド内で3対3対3のパス回しが行われた。
ここでは『選手の頭より上にボールを投げてはいけない』という制約が加わり、サヘルコーチはその理由を「ボールを頭上に通すことをOKにしてしまうと、パスを受ける選手が、マークを外さなくても受けることができてしまう」と語り、「最初は手を使ってボールを投げることから始め、慣れてきたら足を使ってパスをします」と話す。
トレーニングの難易度を調整し、コーチングする現象を出させる設定づくりが、指導者の手腕と言える。サヘルコーチはそのために重要な『3つのポイント』を「コートのサイズ、時間制限、人数」だと言う。
「トレーニングをするときに、ピッチの広さ、時間制限、人数や敵の有無で難易度を調整します。スペースが広くなれば簡単になり、狭くなれば難しくなります。指導者は練習が始まる前に、選手にどういうミスが出るかを考えておき、そのミスが出たらわかりやすく説明をすることが重要です。とはいえ、まずは選手にプレーさせることが大切なので、テーマに沿ったミスが出ない限りはプレーを止めません。ミスはとても大切です。選手はミスをすることで、次にどういうプレーをすれば良いかを学ぶことができるからです。最初から正解を言ってしまうと、選手が失敗を経験しなくなり、クリエイティブな部分が削ぎ落とされてしまいます」
練習は3対3+スリーサーバーへと移行し、続いて、ボールを持っていない時に相手を引きつけて逆をとる動き、4対4+1フリーマンなど、ドリル形式から実戦形式というように、練習中に出た課題を切り取ってドリルで確認し、ゲームに近い状況でできるかをチェックしていく。
サヘルコーチが披露した「相手のマークを外してパスを受ける」というプレーに対する練習メニュー、コーチングは明確だ。とくにU10やU12の選手を指導している人にとっては大いに参考になるだろう。トレーニングの詳細、コーチングのポイントは、ぜひCOACH UNITED ACADEMYの動画で確認してほしい。

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<プロフィール>
ベンジャミン・サヘル
ボルシアMGやフォルトゥナ・デュッセルドルフのアカデミーでプレーし、フットサル転向後にドイツ代表に選出。19歳から指導の道に入り、UEFAのB級ライセンス、ドイツサッカー協会(DFB)のエリートユースライセンスなどを所持。DFBのC級コースの指導インストラクターを経て、ボルシア・ドルトムント・アカデミーのコーチに就任。