TOP > コラム > 指導者は"スキル"よりも"スタイル"を磨け / ラグビー・中竹竜二の「フォロワーシップ」理論

指導者は"スキル"よりも"スタイル"を磨け / ラグビー・中竹竜二の「フォロワーシップ」理論

"カリスマ性"のある指導者というものはサッカーに限らずどのスポーツにおいても存在し、多くの人がカリスマ指導者を追いかけ、考え方や手法を身につけようと目標にする。しかし、それは果たして本当に正しいことなのだろうか。かつて指導経験が無いまま早稲田大学ラグビー蹴球部の監督に就任してチームを大学選手権2連覇に導き、現在は日本ラグビーフットボール協会のコーチングディレクターを務める中竹竜二氏はその問に対して"否"という。

指導者にとって重要なのは"スキル"を磨くということではなく、自分独自の指導法、"スタイル"を確立させることなのだという。今回、COACH UNITED ACADEMYで公開されるオンラインセミナーの前編動画では、中竹氏の考えるチームの力を引き出す指導理論について語って頂いた。(文/竹中玲央奈)

この記事の映像は、COACH UNITED ACADEMYで公開中!
詳しくはこちら>>

Still0522_00002.jpg

次回の記事を読む>>

■常に正解を持つものが"真の指導者"なのか?

中竹氏は、「日本一オーラがない監督」と自身を例える。早稲田の前任監督であった清宮克幸氏は、現在、ラグビートップリーグのヤマハ発動機ジュビロで監督を務めるラグビー界のカリスマ指導者である。

その後を、指導経験もなくサラリーマン生活をしていた中竹氏が引き継ぐこととなったのだが、そこで中竹氏が取り組んだのが、指導者の指示をただ実行するチームではなく、チームに所属する一人ひとりが自ら考え、行動する集団に変えることであった。

中竹氏はまず、そもそものリーダーの考え方における前提を提示する。彼いわく、リーダーにはいろいろなタイプがあってよく、何でも知っていて、常に正解を持っている人がリーダーではなく、本当のリーダーに大切なのは"スキル"ではなく"スタイル"だと言う。

nakatake2.png

「『一番良いコーチングはなんですか?』『一番機能する戦略はなんですか?』
成果を出すと、こういう問い合わせが多く来ます。ただ、成果を出した良い戦略があれば強くなると思いがちですが、チームによって当てはまる戦略は違います。ラグビー日本代表監督を務めたエディ・ジョーンズ氏も『コーチングに唯一正しい解はない』と話していました。それは指導者自身が考え、決めなければならないことなのです」

理想、目標とするチームやそこで採用されているメソッドならびに選手へのアプローチ方法、そして練習メニューなどを多くの指導者が参考にしたいと思うのは自然である。しかし、必ずしもその手法が正しく、どのチームにも当てはまるということはない。チームは生き物であり、それぞれに適した指導法、適さない指導法というものが存在するのは自明である。

「多くの人はどうしてもスーパーマンを目指してしまう。能力が高くて、人望もあり、紳士であり、何でもできる。そういったスーパーマンが指導者にとっての一番の理想ですが、現実を考えるとそうではない人が大多数というのがあります。先程の話と関連すると、多くの人がスーパーマンを目指すのは正解か、というとそれは違います」(中竹氏)


Still0522_00001.jpg

■選手の"差"を認めて"異"を追求する

チーム作りにおいても選手個々のやる気、モチベーションを高めていくという点においてはそれぞれ手法が異なり、1つの成功例を模倣したところで自チームにピタッと当てはまり成果が生まれるということはそうそうない。

その事実を再確認するために、中竹氏は"差と異"という2つの違いについて目を向ける重要性を説く。ここで言う差は"スキル"であり、異は"スタイル"だ。

「スキル(差)は物事を達成するにあたって分解した1つの機能です。サッカーであればランニング、初動のスピード、角度を変えるステップ、キックの質...など優劣がつく違い。スタイル(異)とは優劣がつかない、その人の色、自分らしさといった違いです。
選手は人との差ばかりを気にして埋めようとすると、矛盾が起こります。どうしても埋められない他の選手との差が可視化されてしまうからです。その時、スタイルを持っていない選手は、自分は何に軸をおいて何に戻れば良いかがわからなくなる。」

指導者が、ある選手と別の選手の間で存在する差を埋めようとするのは重要であることは間違いない。しかし、そこを育んでいく過程の中ではどうしても埋められない他の選手との差が出てしまう。いざ埋められない差を目の当たりにしたときに、選手は自信も失ってしまうだろう。そうなるとプレーヤーとしての進路が先細りになってしまう。

Still0522_00003.jpg

そこで重要なのが、「選手の"差"を認めた上で"異"を追求すること」だと中竹氏は言う。本質的なモチベーションは"できる""できない"より"好き"か"嫌い"かによって生まれる。オンリーワンであるその選手の"らしさ"を引き出し(これが、"異"である)伸ばしてあげるほうが選手の能力ひいてはチーム力を向上させることができるのである。

ただ、スタイルの引き出し方も唯一の方法があるわけではない。選手のスタイルを引き出し伸ばすためには、指導者も自身を分析した上で、自身の指導スタイルを確立させることが必要なのだ。

では自身のスタイルを探すためには自身のどういった行動パターンや性格の部分に焦点を当てれば良いのか。COACH UNITED ACADEMYのセミナー本編では、中竹氏が自身の指導経験の中で確立した「フォロワーシップ」という指導法について解説している。

選手を引っ張るだけの指導者ではなく、支える指導者。初の監督業にも関わらず名門早稲田大学ラグビー蹴球部を大学選手権2連覇に導いたその指導スタイルを、ぜひ参考にしてみて頂きたい。

次回の記事を読む>>

<プロフィール>
中竹 竜二/
1973年5月8日生まれ。福岡県出身。早稲田大学ラグビー蹴球部の主将として、4年次には全国大学選手権で準優勝を果たす。卒業後は渡英し、帰国後は三菱総合研究所に入社。5年の社会人生活を経て2006年に早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、初の監督業にも関わらず2007年、2008年と全国大学選手権でチームを連覇に導く。
2010年の退任後は日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターに就任。ラグビーに限らずスポーツそしてビジネスの場においてもリーダー育成に取り組んでいる。『監督に期待するな 早稲田ラグビー「フォロワーシップ」の勝利』(講談社)、『挫折と挑戦 壁をこえて行こう』(PHP研究所)、『判断と決断』(東洋経済新報社)など複数の書籍も上梓している。


この記事の映像を含む、全120本以上が月額980円で見放題!
詳しくはこちら>>