TOP > 書籍・DVD > 【全文掲載】攻撃に"火をつける"縦への意識付け。ドルトムントに学ぶ「正しいミスの生かし方」(3)

【全文掲載】攻撃に"火をつける"縦への意識付け。ドルトムントに学ぶ「正しいミスの生かし方」(3)

EXcover+obi_001_width600.jpg

※本稿は、『サッカーはミスが9割』(著者・北健一郎、ガイドワークス刊/サッカー小僧新書EX001)第3章 ドルトムントの育成に学ぶ「正しいミスの生かし方」を全文転載し、一部をWEB用に再編集したものです。

■センターバックにもドリブルさせる

 ドルトムントのセンターバックは特殊な存在だ。「DFなんだから守っていればいい」という考え方では、このチームのセンターバックとしてプレーすることはできないだろう。ヒュバラ氏のレポートにセンターバックの仕事はこのように記されている。
 
「我々のセンターバックはマンマーカーよりも多くの役割を与えられ、ゲームメイクでも重要な機能を担っている。その際、相手陣内深くへの正確な縦パスを求められるだけでなく、攻撃のスイッチの第一段階を入れる役割も担っている」

 トップチームのセンターバック、フンメルスのプレーを見ればわかりやすい。フンメルスはドルトムントの"事実上のゲームメーカー"だ。試合中、センターフォワードのレバンドフスキへ縦パスを最も多く通すのは、最終ラインのフンメルスである。
 
 サッカーの試合では、センターバックの選手がボールを持っているのにパスを出すところがなくて「出せないよ!」と両手を上げてアピールしているシーンをよく見かける。相手ディフェンスの頑丈な守備網に、縦パスのコースを見つけられない――。
 
 このような場面で普通のセンターバックは縦パスを諦めて横パスを出すことがほとんどだ。しかし、ドルトムントではパスコースがないから横パスを出したという言い訳は許されない。パスコースがないなら自分で作ることが求められる。
 
 試合中、センターバックのフンメルスが最終ラインからドリブルを始めるシーンを見たことがあるだろう。あんなところでドリブルをして奪われたら即失点につながるのにと思うかもしれないが、もちろん闇雲に仕掛けているわけではない。
 
 ヒュバラ氏はセンターバックがドリブルをすることの有効性をこのように説明している。
 
「相手が守備ブロックを作ってきたとき、センターバックはブロックの先頭にいる相手FWにドリブルを仕掛けて、自分たちの最終ラインを10メートルほど押し上げる。そうすることで、相手FWが前に出ざるを得ない状況を作る」

 フンメルスがドリブルで前に運んでいったとしよう。相手FWとしても上がってくる選手を放っておくわけにはいかないので、ある程度の距離になったところで寄せてくる。そうすれば、完璧に揃っていた守備ブロックに穴ができるので縦パスのチャンスが出てくる。
 
 もしもセンターバックに「ドリブルする」という選択肢がなければ、パスコースを見つけられずに最終ラインでパスを回して、ひたすら相手にミスが起こるのを待たなければならない。
 自分たちからアクションを起こしていくことで、相手がミスをするように仕向ける。「待つ」のではなく、あくまでも「仕掛ける」。それこそドルトムントが育成年代から貫き通す「攻めの美学」だ。

■横パスやバックパスはNG

 ドルトムントにはボールを奪った後のプレーに明確な"ルール"がある。それが、「ピッチ上のどこであっても、すぐさま前へ運べ!」というものだ。例えば、相手のボールをカットした。このとき、前方へのパスの成功率が30%、横パスやバックパスだったら成功率は80%だとする。
 
 ドルトムントでは成功率30%だとしても縦方向にボールを出すことが求められる。横パスやバックパスは、それができなかったときに初めて出てくる選択肢であって、なるべくならしないほうがいい。
 
 ドルトムントの縦への意識付けは育成年代から徹底されている。ゲーム形式のトレーニングでもマイボールになってからフィニッシュに行くまでに制限時間が設けられる。ボールを持った選手が手数をかけたり、横パスを出したりするとタイムオーバー。
 
 例えるなら、クイズ番組で回答者がカウントダウンをされる中で答えるようなもの。必然的に選手たちはボールを持ったら、すぐにゴールを目指すようになる。つまり、選手たちに縦への意識を刷り込ませるのだ。
 
 では、一体なぜドルトムントはここまで縦方向のプレーにこだわるのか?
 
 現代サッカーでは攻撃から守備への切り替えのスピードがどんどん速くなっている。ボールを奪ってカウンターを仕掛けようと思っても、1、2本横パスをつないでいるうちに、あっという間に相手の選手が戻ってきて、自陣を固められてしまう。
 
 相手に守備ブロックを作られる前に攻撃するには、ボールを奪った後は1本のパスもムダにできない。それゆえに、ドルトムントではマイボールなった数秒間のうちに崩してしまいたいため、速いドリブルで仕掛けることや、縦に速いパスを入れることを求める。
 
 このことをドルトムントの育成では「攻撃に"火をつける"」と呼んでいる。マイボールになると同時にゴールへの導火線に着火して燃え上がらせるイメージだろうか。
 
 ただし、このようなプレースタイルは必然的にボールロスト(ミス)につながりやすい。横パスやバックパスによってボールを失わずに、落ち着いてゲームを組み立てたほうが、ミスをする可能性は下がる。だが、「我々は、ボールを失うリスクを意識的にとるようにしている」とヒュバラ氏は言う。
 
 現代サッカーでは攻守の切り替えの瞬間を突かなければ、得点の可能性は一気に萎んでしまう。完璧な守備ブロックを作った相手に対し、パスワークやコンビネーションで対抗できるチームはバルセロナなど数えるほどしかない。ドルトムントが実践している攻守の切り替えの意識付けは、将来的には当たり前になっていくかもしれない。

<(4)へ続く>

北健一郎(きた・けんいちろう)
1982年7月6日生まれ、北海道旭川市出身。日本ジャーナリスト専門学校卒業後、放送作家事務所を経てフリーライターに。2005年から2009年まで『ストライカーDX』編集部に在籍し、2009年3月より独立。現在はサッカー、フットサルを中心に活動中。主な著書に「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」「サッカーはミスが9割」(ガイドワークス)などがある。