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[書評] 日本はバルサを超えられるか

※本記事は、ブログ『22番の蹴球ファカルティ』様の同名タイトル記事の転載となります※

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スペインに精通した指導者とジャーナリストによる日本サッカーの育成環境への提言。

本書は、育成、保護者の関わり方、Jリーグの役割、メディア活用の観点などから日本がサッカー大国になるための提言をまとめたものである。タイトルの「バルサ」に関しては、現代サッカーの象徴として、あるいは倒す(超える)べきラスボス的存在としてフィーチャーされただけであり、本書内にバルサに関する話題はほぼ出てこない(著者の村松氏のブログタイトルが日本はバルサを超えられるなのでそこから取っている)。なので単純に「日本サッカーへの提言」としての読むのが良い。

■2種類の提言

すごく大雑把に大別すれば、本書は2種類の提言に分かれている。 1つは、環境やシステム面で日本が不十分である点に関しての提言。 もう1つは、個人が今からでも始められるような、小さな一歩としての提言。

提言が実現できたときの効果でいえば、圧倒的に前者の方が影響力が大きい。それは誰もが分かっていることだと思う。しかし、それはいち読者からすれば雲の上の話であり、「理屈は分かるがそれは個人としてはどうしようもない」というのが実感値だと思われる。もちろん、変わりたいと思わなければ環境もシステムも変わらないので、声をあげていくことは大事なのだけれど。

一方で、全体から見れば効果は小さいかもしれないけれど、個人レベルで考えたときに行動に移すヒントになるのは後者の方である。

本書でいえば、「個人から始められる提言」はANGLE2「育成年代の指導者が目指すべき方向性を探る」に集約されている。その中から特に印象に残った点を紹介したい。

■育成年代における戦術指導はどうあるべきか

著者のお二人が、日本の指導でスペインと比べて圧倒的に足りないと感じているのが戦術指導だという。戦術というと育成年代には早すぎるという意見もあるが、村松氏は戦術を「駆け引き」と捉えた上で次のように語っている。
「相手との駆け引き」や「状況判断」が戦術であるということ。サッカーは個人スポーツではなくチームスポーツであるため、一人で相手と駆け引きするのではなく、チームメイトと力をあわせて相手チームと駆け引きをする必要があります。
(中略)
プロでも小学校低学年でもこの戦術の基本に変わりはありません。「相手との駆け引き」は幼稚園児でも十分に理解できるし、「仲間と協力する」ことも幼稚園児になれば理解出来ます。(P.57から引用)

その上で、駆け引きをするために段階的にサッカーの原理原則を教えていくこと。この指導をないがしろにしてテクニックに奔走していてはいけないとのことである。

この辺りは最新のトレーニング理論ではどの指導者も語っている。ジュビロ磐田の黄金期を支えた鈴木政一氏は『育てることと勝つことと』(筆者のレビュー)の中で「判断力」の向上こそが指導の中心にあるべきで、年齢ごとに到達すべきレベルを示した上で判断力の重要性を説いている。判断力とはすなわち駆け引きの基本になるものである。

しかしやはり街クラブレベルでは浸透していない、もしくはやり方が分からないということなのかもしれない。単に「バルセロナのようなチームを目指したい」と言っても無理があるわけで、身の丈や選手の特徴を踏まえた上でトレーニングスタイルを次のようなポイントを踏まえて構築することを村松氏は薦めている。

・好きなプレースタイルのプロチームを見つけ、そして試合をたくさん見る
・優先順位を明確にする(例:勝利よりも試合内容を優先)
・好きなトレーニングスタイル(を実践している指導者)を見つけ、そしてたくさん見学する
・書籍や指導者仲間との情報交換等を通じて、好みの練習メニューを見つける
(P.63から引用)

■大切なことは判断のポイントを教えるということ

指導者に常につきまとうジレンマとして、どこまで教えてどこから教えないのか、という点がある。判断力を養うということはプレイヤーに判断をさせる環境を与えるということに他ならない。しかし全てをプレイヤーの判断に委ねていてはもっとよい判断ができたかもしれないポイントに気づかないまま過ごしてしまうかもしれない。

村松氏もこのように語る。

自主的な選手、判断力のある選手を育てるためには、最初から「判断しろ」と言っても不可能です。なぜなら、そのための判断材料も戦術的な知識もない状態では、駆け引きはできないからです。(P.67から引用)

はじめは判断のポイントになるような具体的な指導をしていき、判断材料を揃えた上で「考えろ」という指示が噛み合ったときに自主的な選手が生まれる、という順番である。

あくまで最終到達地点は自主的に駆け引きできる選手を育成することであり、そのために必要な判断ポイントは教える、と。指導者の考える通りのプレーをさせて試合に勝つことが目的ではないので、そこを見誤ってはいけない。

また、ボトムアップ理論と呼ばれる「教えない指導」に関しても以下のように紹介している。

前述のトレーニングスタイルの確立にも関係してくる提案として、「教えない指導」が挙げられます。これは日本人の気質に合った、日本独自のスタイルと言えるでしょう。その「先駆者」的存在でもあり、広島観音高校を全国区の強豪校に育て上げた畑喜美夫先生(現安芸南高校)の「ボトムアップ理論」(教えない指導法)は、指導者不足の日本の育成環境にとってとても興味深いアプローチであり、私は最適な方法の1つになり得ると考えます。(P.65から引用)

ボトムアップ理論を紹介したDVD『質を上げ生徒の考える力で勝負する!畑喜美夫・ボトムアップ理論の概要と実際[DVD番号 tv09]』も発売されている。指導は理論だけでなく具体的な方法とともに学習しないとなかなか理解が難しい。村松氏が指導の見学を薦めている所以でもある。

■こうした草の根的な提言が日本サッカーを変えていく

街クラブレベルの指導と日本代表を強化することは次元の違う話という意見もあるだろう。しかし、そこがつながっていると考えて草の根的な活動で駆け引きのできる選手を1人でも多く育てることが、日本という国がサッカー大国として名を馳せる下地になると信じる方がなんともロマンがあって良いではないか。

日本はそもそも教育環境からして詰め込み型と言われ、それが創造性やイノベーションを阻害しているという意見もある。それが、サッカーというスポーツを通じて教育の現場では教えられない大切な判断力を養うことができるとなれば、すごくステキなことである。

■本書は両者の言いたいことを簡潔にまとめた入門書

村松尚登氏と小澤一郎氏のもっと深い主張を知りたければ、それぞれの著書を読むのが良い。

村松尚登氏の『テクニックはあるが、「サッカー」が下手な日本人 ---日本はどうして世界で勝てないのか?』(筆者のレビュー)を読めば環境面における日本とスペインの違いや、指導理論としての戦術的ピリオダイゼーション理論の一端について知ることができる。

小澤一郎氏の『サッカー日本代表の育て方 子供の人生を変える新・育成論』(筆者のレビュー)は育成についての事例が豊富にまとめてあり、琴線に触れるワードも多い。

同じく小澤一郎氏の『サッカー選手の正しい売り方 移籍ビジネスで儲ける欧州のクラブ、儲けられない日本のクラブ』(筆者のレビュー)では、環境面からのアプローチとしてJリーグの移籍に関する問題点の指摘や提言がまとめられている。


鈴木洋平(すずきようへい)
1979年9月10日生まれ、神奈川県横浜市出身。早稲田大学政治経済学部卒。採用や育成を手がける人事コンサルタントを本業としながら、背番号22番をつけてサッカーやフットサルに興じる。ワールドカップは98年より連続現地観戦。趣味はラーメンの食べ歩きで年間200杯食べる。ブログ:サッカー書籍の書評ブログ「22番の蹴球ファカルティ」 

日本はバルサを超えられるか ---真のサッカー大国に向けて「育成」が果たすべき役割とは

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