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「欧州と日本の中間を」。アーセナルスクール市川の挑戦

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4月に開校する、アーセナルサッカースクール市川。PFI(Private Finance Initiative/公共施設の建設や管理、運営などを民間の資金で行う)を使い、市から有償で借り上げた自前のグラウンドを所有。U4のキッズからU15のJrユース(男女)までのカテゴリーがあり、Jrユース年代はクラブチーム登録をするなど、意欲的なチャレンジを続けている。今回はメインコーチであるロビー・セルファイスコーチと権東勇介コーチに、日本の子どもたちの特徴と指導イメージについて話を聞いた。

権東 日本の子どもたちを見ていると、「ミスをしたくない」という気持ちを持っている選手が多いという印象を受けます。「ミスをしたくない」という気持ちから、すぐ周りにパスをしてしまう。それが意図のあるパスならいいのですが、もっと自分のプレーを出して、ゴールに対して積極的に向かっていってもいいのかなという気もします。

小学生、中学生の年代であればミスから学ぶこともありますし、チャレンジすることを恐れずにプレーしてほしいと思います。僕らコーチはそれを見逃さずに褒めてあげることで、チャレンジする気持ちが芽生えてくればいいなと思っています。

ロビー チャレンジする姿勢は本当に大事。でも、日本人は周りと同じことが好きで、目立つことを嫌がります。サッカーはチームスポーツですが、ピッチの中で目立つ選手でないと、プロになることはできません。子どもたちが、もっと自分の色を出せるようにしていきたいと思っています。

―セレクションで子どもたちと触れてみて、改めてそのあたりも感じましたか?

権東 そうですね。僕やロビーが選手に声をかけると、すぐにプレーが変わりました。緊張していたのか、自分を出しきれていない子もいました。ただ、それは子どもだけの問題ではなくて、僕ら大人の影響もあると思います。

僕が以前、ある学校にサッカーを教えに行ったときに、積極的にプレーして、自分を表現できていた子がいたのですが、先生に話を聞くと「あの子はいつも人と違うことをやろうとするんです...」とネガティブに受け止められていたことがありました。「このクラスはやんちゃな子が多くて、大変なんですよ」というクラスを担当したときは、子どもたちはみんな元気があって積極的に取り組んでくれました。サッカー的にはすごく良いマインドです。一方で「良い子が多い」と言われるクラスに言ったときは、子どもたちに問いかけても反応が薄かったり...。

ロビー 日本の子どもは、自分から積極的にコーチのところには来ないですね。おとなしくなります。だから、セレクションでもコーチとして、最初はテンションを上げて(笑)、子どもたちの緊張を解いてから、自分の色を出せるようにしました。いい選手もいました。コーチとして大切なのが、子どもたちをいまいるレベルよりも、さらに高いところへと成長させること。それは常に考えています。

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―セレクションでは4対2のパスのトレーニングをしていました。最初は黙って見ていて、途中からファーストタッチの大事さを含めて、指導をしていました。セレクションでコーチングをするのは珍しいと思ったのですが、どのような意図があったのでしょうか?

ロビー セレクションのメニューに関して説明すると、子どもたちのレベルがわからなかったので、最初はシンプルな対面パスのトレーニングから始めました。それから、少しずつ設定を加えて難しくしていきました。パス&コントロールはみんなできていたので、次は足の内側と外側を使って蹴ること、それも左右両足で蹴るような設定にしました。そこで、選手たちができること、できないことを見ていました。

4対2のトレーニングでは、右、左、真ん中と「3つのパスコースを持てるところにボールを置こう」という話をしました。選手によっては、難しい要求だったかもしれませんが、セレクションに合格できない子どもたちにも、なにかいいアドバイスをあげたかったんです。うまくなるために、なにかひとつでも持ち帰ってほしかった。アーセナルでサッカーができなくても、少しでも成長できるアドバイスをあげたかったので、そういうことをやりました。本当はセレクションなので、選手にはプレーをさせて、僕は黙って見ているだけでも良かったんですが、できない子も少しでもできるようになってほしかった。

権東 セレクションに来てくれた子どもたちは育てがいがあるというか、さらに成長できる伸びしろがある選手がたくさんいました。これからが楽しみですね。

ロビー そうだね。最初の話に戻るけど、いま日本人選手はヨーロッパで評価されています。チームの為にがんばることのできる選手が多いですし、技術も高くアジリティもあります。それは多くのヨーロッパ人にはない部分です。

僕はオランダ人ですが、オランダ人は周りがどう思うか、あまり気にしないんですね。どちらかというと、個人でサッカーをしている印象があります。日本は文化の違いもあると思いますが、ミスをしたら周りを気にします。僕はコーチとして日本の文化もわかるし、ヨーロッパのスタンダードもわかっています。そのことから考えると、サッカーに関して言えば、ヨーロッパと日本の中間が良いバランスだと思います。

僕の仕事は日本人のストロングポイントを出させながら、ヨーロッパの要素も取り入れて、ちょうど良いバランスを作ること。そこは他のスクールとの違いかもしれません。日本とヨーロッパ、お互いの良い部分を取り入れて、良い選手、良いチームを創りあげたいと思っています。


2月に行われたセレクションには、100人を越える選手が集まった。ヨーロッパのスタンダードと日本の文化をミックスさせ、新たなスタイルを築こうとしているアーセナル市川。世界を知るコーチのもとで、子どもたちがどのように成長していくのか。楽しみでならない。

鈴木智之(すずき・ともゆき)
スポーツライター。『サッカークリニック』『サカイク』『COACH UNITED』などに選手育成・指導法の記事を寄稿。著書多数。最新刊は『ゲキサカ』で好評連載中の『青春サッカー小説  蹴夢 KERU-YUME』(講談社)。「読めばサッカーがうまくなる」をモットーに、練習の大切さ、うまくなるために必要な情報を小説の中で表現した意欲作。TwitterID:suzukikaku

取材協力/アーセナルサッカースクール市川
http://www.arsenalsoccerschool-ichikawa.com/home.html