TOP > コラム > 欧州のコーチが語る。Jリーグで決まるゴールが、世界では決まらない理由

欧州のコーチが語る。Jリーグで決まるゴールが、世界では決まらない理由

サッカーサービス社のメインコーチとして日本サッカー協会のコンサルティングプロジェクトディレクターや、世界中で選手・指導者の指導やコンサルティングを行うダビッド・エルナンデス。サッカーサービス社の頭脳でもある彼に、『欧州チャンピオンズリーグなどのトップレベルで活躍するFWは、どのようにプレーしているのか?』をテーマに、FWの動きにスポットを当てて話を聞いた。(前編はこちら

前編ではダビッドに「点を取るために、ゴール前で相手と行う駆け引き」の動きについて説明してもらった。要約すると「自ら動き出し、シュートを打つスペースと時間を確保する」ことがポイントになる。

映像を見ながら、ダビッドのレクチャーは続く。

DSC04119.JPG

■シュートを決めるために必要な4つのポイント

「このプレーはJリーグでは得点になっていたかもしれませんが、リーガエスパニョーラやチャンピオンズリーグの試合では、おそらく通用しないでしょう」

ダビッドが鋭く指摘したのは、ゴール前の混戦でボールを受けた日本のある選手が、ワントラップしてシュートを打った場面だ。

「欧州では、トラップした瞬間に寄せられます。対峙する相手がジョルディ・アルバだったら、トラップした瞬間にクリアされているでしょう。世界のトップレベルのDFは何度もボールに触らせてはくれません。ほんのちょっとの差ですが、それに慣れる意識が必要です。ゴールエリアに近い位置では、常にワンタッチで打つことを忘れないでください」

shot.png

ダビッドはシュートを打つときのポイントを次のようにあげる。

    1.ワンタッチで迷うことなく打つこと
    2.ゴールの隅を狙い、低いボールを蹴ること
    3.シュートを打つ位置に全力で入ること。しかし蹴るときは焦らず冷静に
    4.どんな方法を使ってでもシュートを打つこと

「イタリア代表で活躍した、クリスチャン・ビエリという大柄なFWを覚えていますか?彼はパスやクロスボール、サポートのプレーはそれほど得意としていませんでした。しかし、来たボールをワンタッチでシュートを打つ技術は世界でも有数でした。どんなボールでも、相手を外してワンタッチで打つ。彼の頭には常にそれがありました。世界のトップで活躍するFWは、オールラウンドにすべての能力が高いというよりも、なにかひとつのプレーが、飛び抜けて優れたレベルにあります。自分の長所を活かして、何度も何度も同じプレーを続け、ゴールを奪うのです。そして、彼らは『俺が決めるんだ!』と強い気持ちで、爆発的なパワーを発揮してゴール前に入り込んできます」。

vieri.jpg
Photo:Fratelli D'Italia by goatling

「メッシやC・ロナウドのゴールシーンを思い出してください。彼らは全力でゴール前のシュートを打てるスペースに走り込み、繊細なボールタッチでシュートを打ちます。そして、これは世界トップの選手に共通する要素ですが、どんな方法を使ってでもシュートを打とうとします。『身体のどこにあたってもいい』という気持ちで、ゴール前に迫力を持って飛び込んでくるのです」。

■ストライカーのメンタリティとは?

世界のトップレベルでゴールを決め続ける選手は、技術に加えて、ストライカーならではのメンタリティを有している。常にゴールを意識したプレーでチャンスをうかがい、シュートに備える。そのためには味方、相手、スペース、ボールの動きを見ながら、移り変わる状況を予測する必要がある。この予測力に優れた選手こそが良いFWであり、結果として多くのゴールを生み出すことになるのだ。

「メッシ、チャビ、イニエスタ、セスク、ペドロなど、FCバルセロナの攻撃的な選手たちは、試合中、ボールだけを見ているのではありません。彼らは小さい頃から、ボールだけでなくスペースをどうやって見つけるか、あるいはどうやって作り出すかというトレーニングをしています。そのため、ボールがピッチのどこにあっても、予測をもとにシュートにつながる動きを考えています。だからこそ、彼らが連動して動くと相手は防戦一方になり、結果としてゴールを割らせてしまうことになるのです」

DSC04117.JPG

良いストライカーになるためには長所を伸ばし、試合中、武器を活かしたプレーでどれだけゴールに迫ることができるかがポイントになる。技術面に加えて、冷静にボールの動きやスペースについて予測する眼、そして「自分が決めるんだ!」という強いメンタリティが重要なのだ。最後に、ダビッドから日本の選手に向けたメッセージを紹介しよう。

「トップレベルの選手になるために、常に自分のプレーを自己評価していくことが重要になります。その作業を繰り返すことで、いま以上の良い選手になることができるでしょう。周りの人は、ゴールを決めたら『良かったね』と言います。試合に勝っても、そう言うでしょう。しかし、良い選手になるためには、ゴールを決めることだけが重要なのではありません。試合の結果、勝ち負けがすべてではありません。どの試合でも、どんな結果であっても自己評価をして、改善できるプレーは修正していく。そして得意なプレーを何度もできるようにする。それが、自分の能力や評価を高めることになるのです」


david.JPG
ダヴィッド・エルナンデス・リヘロ/ David Hernandez Ligero
2012年より日本サッカー協会プロジェクトコンサルティングディレクターを務めるほか、2010年より、日本のジュニアからJリーガーまでの指導・コンサルティングを実施。カタルーニャサッカー協会副テクニカル・ディレクターやVic大学「フットボール方法論」教授などを歴任し、プジョルのパーソナルトレーナーを務めた経験を持つ。


【PR】サッカー選手が、13歳までに覚えておきたい32のプレーコンセプト
FCバルセロナの選手や世界のトッププロをサポートしてきたスペインの世界的プロ育成集団「サッカーサービス社」が監修したU-13世代の選手向け教材。彼らが分析した「Jリーグ」の試合映像をもとに、選手のサッカーインテリジェンスを磨く32のプレーコンセプトを解説。「知のサッカー[第2巻]」 好評発売中!

think-soccer-vol2img.png