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勝利優先か、学び優先か? オランダ式育成に学ぶ優先順位のつけ方

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Jリーグが開幕しましたね。どのプロチームも、チームの目標に合わせたできるだけの上の順位を目指して、一日一日、準備をし、勝利を目指して頑張っています。監督も選手も、明日を生き残るために、必死にトレーニングし、試合に挑んでいます。

ところで、プロと違って育成年代では、勝利が絶対条件かと問われれば、いろいろな意見に分かれることでしょう。「何としてでも勝利を前提に目指すべきだ」という人もいれば、「いや、学びの場だ」という人もいます。「厳しい環境が人を育てる」という人もいれば、「リラックスした状態」でのびのびとやらせるべきだ、という人もいます。言われてみると、どちらも正しいような気もします。特にU17日本代表の試合の評価を見たりすると、その評価の分かれ方の多さに、話の収拾すらつかなくなるような印象を受けます。

ドイツでも大きく分けると、「あまりに成功を求めるプレッシャーが強すぎるのではないか」という指導者と「それで成功するならいいじゃないか」という立場の指導者に分かれます。

自身も指導者として活躍し、ドイツサッカー連盟が発行する指導者用のテクニカルな専門誌にも寄稿するペーター・ヒュバラ氏の著書「Mythos niederländischer Nachwuchsfussball(オランダサッカーの神話) 」(※)の中に、ドイツサッカーのそういった問題をいかに解くか、というヒントをライバルのオランダから参照しています。

ここでは、彼とトゥウェンテのU23の監督であり、育成アカデミー統括のレネ・ハーケ氏の会話をまとめながらU12からU23までの年齢に応じた目標設定の基準の例を見て行きましょう。

●U12、U13(ドイツではUは未満を意味する)は、ジュニア年代で身につけた必要な戦術・技術のベースを実際の試合で使えるようにするための期間。

●U14は、ゲーム自体を試合で勝つための能力を鍛えるために使う。この時期は1試合のなかでオフ・ザ・ボールの時間のほうが長いことを理解し、その動きをしっかり身につける時期。つまり足でプレーするのではなく、頭をより使ってプレーを覚える時期。

U15は、試合で勝つための能力(11対11)を覚える時期。選手は、どのシステムでも、起こりえる状況を作り出すことが求められ、しかもそれを論理建てて説明できることが求められる。さらに、さまざまな状況の中で必要な適切な対応をすることを学ばなければならない。

U16は大会を勝ち抜く能力を身につける時期。この時期では、これまで学んできたことを、より発展させ、最終的に、チームの結果に結びつけることを学ぶことが求められる。彼らは、より勝利という目標に応じたプレーが求められる。さらには、個々の選手の特徴や才能が、「どのポジションで最も発揮されるのか?」という問いに特に取り組みながらトレーニングメニューを組むことが必要になる。

U17も、大会を勝ち抜く能力を身につける時期。この年代はU16のカテゴリーで学んだことをより発展させ、応用していくことが求められる。とりわけ、相手に応じて、自分たちのシステムや戦術の変化に対応する能力を求められる。選手は、1試合の結果に動じないメンタルを学ぶことを求められる。

U19は、プロのトップレベルに備えて準備するカテゴリー。なによりも勝つことを学ぶ。1.)ポジションに応じた課題を与えられたトレーニング。2.)スペシャリストになることと、さまざまな異なる課題が求められることを学ぶ。3.)チームの成功のために全てをすることを学ぶ。

U23は、プロのトップチームの「サブチーム」である。そこでは、トップチームと同じオーガナイズ、プレースタイル、プレーコンセプトが用いられ、育成が完成することを意味する。全国単位では、KNVBによるU23の大会が行われ、そこでトップ5に入ることが目標となる。

さらなる目的は 1.)選手を段階的に、個々人の特徴や発展に応じたトレーニングによって、各個人がプロに適応できるように準備する。 2.)精神面での仕事。「自分がプロサッカー選手として成功するために何が出来るか、何が必要なのか?」を考えさせる。

ここでは、もちろん、トゥウェンテというオランダの育成組織のひとつのケースを例として用いているだけで、国やクラブによって、選手の性格や組織の方針は異なってくると思います。

しかし、僕がドイツにせよ、オランダにせよ、スペインにせよ、情報を集めながら比較して、共通しているのは、遅くても14歳までには戦術・技術を含めた、「個の能力」のベースを築く訓練を終え、11対11の集団でプレーし、その試合で勝つために必要な能力を学ぶこと、つまり「戦略的に」考えることをトレーニングする段階に入っていることです。

つまり、ある局面を打開する能力を「戦術」と呼ぶとすれば、チームでその打開しやすい局面、身につけた戦術をより有利に使うための局面そのものを作り出す能力を学ぶことが求められるのです。

このように日本の教育制度の学年に合わせて見ていくと、

0.)ジュニア年代(ホルスト・ヴァインのコラム参照
1.)局面を打開する個人個人の技術・戦術理解のベースの習得(小学校高学年)、
2.)それを11対11の試合に適用させる能力の習得(中学1,2年生)、
3.)1試合を勝つための戦い方の習得(中学3年生)、
4.)大会の勝ち抜きかたを習得する(高校1,2年生)、
5.)プロになる準備(高校3年生)、
6.)プロとして生活していくことを学ぶ(それ以降、U23)

という年齢に応じた段階を踏んでいることを参考にすれば、指導者は何を基準にコーチングの目標を設定しなければならないのか、また、選手は何を重点的に学ばなければならないのか、分かりやすくなると思います。サッカーファンも、テレビでアンダーカテゴリーの試合を観ながら、何が必要なのか、足りないのか、という基準ができると思います。

これを見る限りでは、だいたい高校2年生あたりが、ピッチ内での純粋なパフォーマンスに限っては、大人と同じように評価してもよい目安になりそうですね。ただ、その後も段階が続くように、オフ・ザ・ピッチの面でのサポート、行動については、きちんと考慮に入れる必要がありそうです。

皆さんの参考にしていただき、選手に還元されれば、これ以上嬉しい事はありません。

(※)Peter Hyballa u.a. "Mythos niederländischer Nachwuchsfussball" Meyer&Meyer, Aachen 2011. S.93-94.


鈴木達朗(すずき・たつろう)
宮城県出身、ベルリン在住のサッカーコーチ(男女U6~U18)。主にベルリン周辺の女子サッカー界で活動中。ベルリン自由大学院ドイツ文学修士課程卒。中学生からクラブチームで本格的にサッカーを始めるも、レベルの違いに早々に気づき、指導者の目線でプレーを続ける。学者になるつもりで渡ったドイツで、一緒にプレーしていたチームメイトに頼まれ、再び指導者としてサッカーの道に。特に実績は無いものの「子どもが楽しそうにプレーしている」ということで他クラブの保護者からも声をかけられ、足掛けで数チームを同時に教える。Web:http://www.tatsurosuzuki.com/