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試合巧者のドイツが仕掛けた"ズレ"を生むポジションチェンジ

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120分。試合を決める追加点を奪ったエジル

ドイツ 2-1 アルジェリア

多くの人がイメージしていた"攻めるドイツと守るアルジェリア"という図式を裏切り、序盤から攻守に積極的なプレーで最後までドイツを苦しめたアルジェリア。ヨアヒム・レーブ監督が「これほどまでに身体的に屈強な相手はめったにいない」と警戒していた迫力ある守備に苦戦し、なかなか前にボールを運べない。ただ当たりに強いだけではなく、ボール保持者に寄せるスピードとタイミング、そこからボールを奪い切る能力に優れる相手に対し、特に立ち上がりはほとんどの競り合いでドイツ選手は力負けしてしまった。

それでも相手のペースが下がり、少しずつプレッシャーのスピードとパワーに慣れてきたドイツは、30分過ぎから徐々にリズムを取り戻し、パスを回せるようにはなった。とはいえ、一つのプレーで崩せるほど軟な守りをしていない。そんなアルジェリアに対し、ドイツが選んだのは真っ向からぶつかって活路を切り開くのではなく、攻撃陣のポジションチェンジで相手守備に"ズレ"を生じさせることだった。

■重要なミュラーの動き出し

ドイツの攻撃で特に鍵を握っていたのがトーマス・ミュラーの動き出しだ。これまではトップの位置で起用されるとFWの仕事をしなければと、無理に相手を背負ったプレーばかりしてしまっていた。しかし、本来彼の持つ長所とはDFとの駆け引きから相手が嫌なスペースに流れたり、そこから裏を取る動きにある。今大会ではこの点が修正され、トップの位置で起用されても、背負わないでボールを引き出せるポジショニングを取ろうとする工夫が見られている。

また、ミュラーは動きだけではなく、ボールをもらう態勢にも気を使っている。バックステップでサイドに流れ、そこからウェーブの動きでスペースに飛び出したり、斜め前に抜け出したりと、常にボールが見られる態勢を取りながらパスを要求している。

ドイツとしてはそんなミュラーを起点にメスト・エジル、マリオ・ゲッツェの3人がポジションを頻繁に変えることで、相手守備陣が常にマークを受け渡さなければならない状況を作り出す狙いがあったと思われる。3人は常にDF間のスペースを狙い、相手が重なった時には裏に走り込むなどして揺さぶりをかける。前半途中からはミュラーがセンターの位置に残って相手守備の意識を引き付けたかと思ったら、サイドにふっと流れて起点を作るなど動き出しが良くなってきた。それでも横の展開だけでは相手守備をズラすことは難しい。そこで重要になるのが縦のポジションチェンジだ。

■ラーム、シュバインシュタイガーの飛び出し

今大会のドイツはSBの位置に本職CBの選手を起用している。アルジェリア戦ではマッツ・フンメルス欠場のため、それまで右サイドバックを務めていたジェローム・ボアテングがCBに移り、シュコドラン・ムスタフィが右サイドに入ったが、いずれにしても左サイドのベネディクト・ヘーベデスを含め、両サイドバックの最重要事項はカウンター対策だ。

大会前に、チーフスカウトのウルス・ジーゲンテーラーは「今日のサッカーでは守備陣に195㎝以上の選手がいるのは珍しくない。彼らはほぼすべてのヘディングに勝利する。真っ向から立ち向かっても」と分析した。つまり、SBのポジションに本職の選手を起用して、サイドからの圧力を増してクロスを上げ続けるよりも、他のやり方を模索する方を優先すべきと考えた。サイドから攻撃をしないわけではなく、サイドからの崩しばかりではなく、もっと幅と深さのある攻撃で相手の牙城を崩そうとしている。

サイドではないとなると、縦のポジションチェンジが見られるべき場所はセンターになる。この試合では、本来はパスをさばく役割を担うはずのバスティアン・シュバインシュタイガーとフィリップ・ラームのポジションが非常に高く、何度も積極的に前のスペースに飛び出していた。59分にはクロースからのクロスを、ミュラーが流れて作ったスペースに入り込んだシュバインシュタイガーが落とし、後ろから走り込んだラームがきわどいシュートを打つというシーンもあった。前だけではなく、サイドにも流れていく2人にアルジェリアDFの意識が向くと、その隙をぬってミュラーがセンターに飛び込む。アルジェリア守備陣にとっては絶えずマークすべき相手が代わるため、少しずつ対応が後手になってきた。

■交代選手によるプレーリズムの変化

ポジションチェンジで重要なのは、スピードとリズムの変化だ。ボールアウトになった時だけ、左右のポジションを代えるだけでは相手にとってさほどの脅威にはならない。自分たちがポゼッションをしている時に、スピードとリズムに変化をつけながらポジションを動かしていくことで相手守備を揺さぶることができる。

その点で考えると、後半開始から途中交代で入ったアンドレ・シュルレは大きな変化をもたらした。鋭い動きを繰り返してボールを引き出し、武器であるスピードを生かした縦への突破で、前半のドイツの攻撃にはなかった深みをもたらせた。サイドに起点ができたことでよりバリエーションのある攻撃が可能になり、ドリブル突破を警戒させることで相手の意識が外に向き、ミュラーへのマークが少しずつ追いつかなくなってきた。ゴールにはならなかったが、後半に決定的なシーンもいくつか生まれている。

90分間は守り通したアルジェリアだったが、辛抱強いドイツの攻撃による疲労は確実に肉体と頭に蓄積されていた。93分、ドイツの先制ゴールの場面では、それまで1対1の場面ですんなり突破を許すことなどなかったアルジェリアが、一瞬のズレをミュラーに突かれ、ファーから飛び込んだシュルレを捕らえ切ることができなかった。最後まで諦めずに健闘したアルジェリアも素晴らしかったが、難しい相手を徹底的に"縦と横"に揺さぶり続け、ほんの少しのスキを見逃さなかったドイツからは、美しいサッカーをしながら脆さもあった前回大会と違い、勝利へのしぶとさとしたたかさが見られた。


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