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スペイン代表はなぜ、グループリーグで敗れたのか?~サッカーサービス社が分析するブラジルW杯敗退の理由

スペイン・バルセロナを拠点にヨーロッパやアジア、アメリカなど、世界中でチームの指導、選手のコンサルティングを行うサッカーサービス。カルレス・プジョルや日本代表選手など、多くのトップレベルの選手の指導・コンサルティングを手がけた経験のある、テクニカルディレクターのダヴィッド・エルナンデス氏に、ブラジルワールドカップについて分析してもらった。前編では「スペインが負けた理由」「スペインサッカーの未来」についての見解をお届けする。(取材・文/鈴木智之)

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■スペイン代表が敗れた理由

「スペイン代表はなぜ敗れたのでしょうか?」。ブラジルW杯敗退以降、多くの人からそう聞かれました。敗退には、いくつかの要素があります。1つ目が、2013-14シーズンのリーガ・エスパニョーラの日程と、優勝争いがもたらした影響です。ご存知の通り、昨季のリーガの優勝争いは最終節までもつれこみました。そのため、優勝の可能性があった、スペイン代表の中核を担うバルセロナ、レアル・マドリー、アトレティコ・マドリーの選手たちはシーズンの最後の最後まで、フィジカル的にもメンタル的にもタフな戦いを強いられました。その結果、最終節が終わってプレッシャーから開放された後、W杯に向けてメンタル面、フィジカル面を高めていくことができませんでした。2008年、2012年に欧州選手権、2010年にW杯で優勝したときは、プジョルという精神的支柱がいました。彼はチームがメンタル的に低下しているとき、周りを鼓舞することのできる選手です。今回の代表チームにはプジョルのように、仲間のメンタルに火をつけることのできる選手がいなかったのも、要因のひとつでしょう。

■FCバルセロナの低迷がスペイン代表にもたらした影響

2つ目の要因は、戦術面の浸透度の低さです。2008年から2012年にかけて欧州選手権、W杯で優勝したときは、選手たちに戦術が深く浸透していました。彼らは機械のように精密に動いて相手の守備を崩し、得点を決めてきました。守備においても同様に、前線から最終ラインまでがひとつの塊のように動き、組織的にも完成されていました。当時もいまも、スペイン代表の中心はFCバルセロナの選手たちです。彼らはチームを率いていたグアルディオラ監督(当時)のもと、攻撃においても守備においても、たくさんの戦術的なコンセプトを用いてプレーしていました。FCバルセロナのスタイルをスペイン代表に持ち込み、多くの勝利を築きあげてきたのです。

しかし、グアルディオラがチームを去ってからは、FCバルセロナもそうですし、スペイン代表もメカニズムを失ってしまいました。前回のW杯でスペイン代表が行っていた守備戦術は、FCバルセロナが用いているものとほぼ同じものでした。そのため、スペイン代表はFCバルセロナと同じようにプレーすることができていたのです。もちろん、セルヒオ・ラモスやシャビ・アロンソ、ダビド・シルバ、イケル・カシージャスなど、FCバルセロナではない選手もいますが、彼らはバルセロナの戦術を実行することができる選手たちでした。しかしブラジルW杯のときは、FCバルセロナ自体にコンセプトが残っていないため、スペイン代表に持ち込むこともできず、戦術を実行することができませんでした。

■スペイン代表の未来

ブラジルW杯ではグループリーグで敗退してしまいましたが、今後、スペイン代表は良い方向へ進んで行くと思います。理由はいくつかあります。まずはスペイン代表の次世代を担う若手にタレントが多いこと。チアゴ・アルカンタラ(バイエルン)、イスコ、ヘセ・ロドリゲス、ダビド・デ・ヘア(ともにレアル・マドリー)など、良い選手が控えています。そしてシルバやペドロなど、年齢的にもまだまだトップレベルでプレーできる選手もいます。実際にスペイン代表は2011年、2013年のU-21欧州選手権を連覇していて、次のW杯ではそのときのメンバーが戦力になるでしょう。

これまで、スペイン代表は欧州選手権、W杯と2008年から2012年にかけて、代表チームの主要大会を連覇してきました。しかし、ブラジルW杯でのグループリーグ敗退を受けて、多くのサッカー関係者が、次のW杯に向けて謙虚な気持ちで臨まなくてはいけないと考えています。学ぶ気持ち、向上心が芽生えたのもプラスに働くでしょう。私自身、ブラジルW杯での結果は残念でしたが、4年後のW杯はスペインにとって、良い大会になると確信しています。

【プロフィール】
ダヴィッド・エルナンデス
サッカーサービス社 テクニカルディレクター/Vic大学 フットボール方法論 教授/カタルーニャサッカー協会 副テクニカルディレクター。サッカーサービス社において、テクニカルディレクターとして、クラブやプロ選手のコンサルティングを担当。Vic大学「フットボール方法論」教授やトゥルブラ指導者スクールのコーディネーターなどを兼任する。また、2013年より日本サッカー協会プロジェクトコンサルティングディレクターに就任。

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