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FCバルセロナの強さの秘密は「サッカーを理解する力」にある

8月末に行われた『U-12ジュ二アサッカーワールドチャレンジ2014』。FCバルセロナが圧倒的な強さを見せつけ、2大会連続の優勝を果たした。6戦全勝、得点23、失点1と申し分のない結果である。ではなぜ、FCバルセロナは圧倒的な強さで優勝できたのだろうか。まず挙げられるのが、タレントの存在だ。大会MVPに選ばれた、フォワードの9番パブロ・モレノ、そしてアンカーの位置でゲームをコントロールする、6番のモリバ・コーロマ。170cm近くあり、体格にも恵まれた2人を日本の少年たちは止めることができなかった。(取材・文/鈴木智之)

HT012822.jpg大会MVPにも輝いたパブロ・モレノ

■バルサが強調する「サッカーを理解すること」とは

FCバルセロナのマルセロ・サンス監督は、パブロ・モレノ選手について「彼は将来、クラブにとって重要な選手になるかもしれない」と、スター候補の1人であることを認めている。彼の凄さはスピードや身体の強さといったフィジカル面に目が行きがちだが、実のところオフ・ザ・ボールの動きにある。具体的には、「スペースを作り、使うプレー」だ。プロの選手でも実行するのが難しいこのコンセプトを理解し、実践するレベルは飛び抜けていた。

バルサの背番号9はボールを受ける前に、どこにスペースができて、どうすれば相手のマークを外した状態でボールを受けられるかを常に見ながら、最終ラインの選手と駆け引きをしてパスを呼び込んでいた。12歳にして「どこにスペースができるか」「どの身体の向きでボールを受ければスムーズにシュートまで行けるか」を考えながら動くなど、頭の中はトップレベルの選手に近いものがある。

パブロ・モレノ選手が披露したプレーは、まさに『バルセロナで求められる9番(センターフォワード)』というものだった。FCバルセロナにはサッカーに対する明確な哲学があり、U-12年代の選手であってもバルサのユニフォームを着てプレーするからには、バルサのサッカーの仕方を理解する必要がある。サンス監督は言う。

「選手の育成とチームの育成。それが我々にとって永遠のテーマです。ピッチ内での役割を明確にした上で、組織的なサッカーをするために"どれだけサッカーを理解できるか"が重要になります」

HT013437.jpgバルサの哲学を子どもに伝えるサンス監督

彼の言葉にバルサのサッカーを表すキーワードがある。それが『サッカーを理解する』という部分だ。バルセロナの選手たちは、ただボールを扱うのがうまい、強いキックが蹴れる、走るのが速いといったプレーの実行部分だけでなく、状況に応じてどのプレーが必要なのか、そのためには、いつ、どこへ、どのタイミングで動かなければいけないかといった、状況把握や判断の部分が秀でていた。それこそが、他の出場チームとの一番の違いと言えるだろう。

サンス監督はバルサのサッカーについて「常にボールを保持し、ゲームを支配するスタイル」と語る。ボールを保持し続けるためには、ピッチ内で数的優位を作ってパスを回し、ボールホルダーに対して、複数のパスコースを作るためのサポートがポイントになる。そして選手たちは、どうすればゲームを支配できるか、そのためにはどうボールを動かせばいいかを常に考えて、状況把握や判断などの戦術面もブラッシュアップしていく。バルサの選手たちはプレーに緩急があり、相手の出方を見ながらボールを動かし、チャンスと見るやスピードを上げてゴールに襲いかかっていた。それは相手を見た上でプレーの判断、選択をしているからだ。U-12年代であっても、ゲームをコントロールする意識は常に持ち続けている。

■それこそが、日本サッカーの今後の課題

サンス監督が「選手たちは、7歳の頃から同じコンセプトのもとでトレーニングをしています。彼らに関わってきたコーチ全員の協力のもと、このようなサッカーができているのです」と話すように、クラブとして目指すべきプレーモデルがあり、それを実行するためのトレーニングメソッドがある。育成にロスがないばかりか、カテゴリーが上がるに連れて選手が淘汰され、新たなタレントが外部からやってくる。常に競争にさらされる環境では、一瞬たりとも気を抜いたプレーは許されない。「たとえ大差がついた試合であっても、もし相手がボールを持っているのであれば、手を抜かずにボールを奪いに行き、我々のサッカーをやり抜きます」。初戦を終えたあと、サンス監督はそう断言した。

準々決勝のレジスタ戦では、縦に攻め急いでボールをインターセプトされるプレーが何度か見られたのだが、試合後にサンス監督は「選手同士で分析をして、ミーティングしろ!」と厳しい口調で指導をしたという。

HT012830 (1).jpgバルサのパスサッカーの核を担うモリバ・コーロマ

準決勝の柏レイソル戦ではレジスタ戦の反省を活かし、ゲームをコントロールする戦術眼の高さを見せつけた。レイソルにほとんどチャンスらしいチャンスは与えず、試合を通じてボールを保持し、主導権を握り続けた。

バルセロナには『サッカーをどうプレーすべきか』という明確な哲学があり、それを12歳であっても徹底的に叩き込まれる。今大会で彼らが見せた、プレーモデルに裏打ちされた選手個々の技術、戦術理解度は群を抜いていた。もちろん、パブロ・モレノ選手のように、才能のある選手をスカウトしているというアドバンテージがあることも事実。しかし、どの選手がピッチに立ってもチームのコンセプトを理解し、チームとして優位に立つプレー(パスやドリブル、サポートなど)を、ピッチの中で判断しながらオートマティックに行っていく部分は、指導で伸ばしていった要素でもある。サッカーの理解という面で、飛び抜けたサッカーインテリジェンスを持った集団、それがFCバルセロナだった。

FCバルセロナと対戦した日本のチームは、スピード、敏捷性、ボールコントロール技術では劣っていなかった。あとはサッカーの理解度をどれだけ高めて、プレーの細部に落としこんでいくことができるか。つまり、頭の中をどれだけ鍛えることができるかが、これから日本サッカーが世界のトップと互角に戦うために、必要な要素になるだろう。

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