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『1人称ではなく、3人称で相手を崩そう』(元石川SC  U-12監督・鈴木浩二インタビュー/前編)

元石川SCは地域の小学校を主体としたクラブながら、攻守に質の高いサッカーを展開し、過去にU-10が激戦区・神奈川県でベスト8に進出。ダノンネーションズカップでも決勝大会に進むなど、着実に足跡を残しているクラブである。今回は、U-12の監督を務める鈴木浩二氏に『オフザボールのトレーニング』について話を聞いた。(取材・文/鈴木智之 写真/田川秀之)

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――『オフザボールのトレーニング』について伺いたいと思います。元石川SC(U-12)の試合を見ましたが、ボールを持っている選手と周囲が連動しており、ボールを保持して攻めるプレーが印象的でした。どのような練習法で、選手たちにオフザボールの動きを身に付けさせているのでしょうか。

鈴木:トレーニングで「今日はオフザボールのトレーニングをするぞ」と言っても、子供たちは「なんのことだろう?」と理解するのに時間がかかるので、事前に映像を見せるようにしています。元石川SCはどういうスタイル、コンセプトのもとでプレーをするというのを掲げた上で、それに合った試合の映像を見せます。いま見せているのは、ブンデスリーガのドルトムントとバイエルン、日本では吉武監督が率いていた『96ジャパン』です。その映像を見て、ボールホルダーの選手を周りの選手がどう追い越していくか、どこのスペースを突くのかなど、自分が思い描いているプレーをチョイスして、まずは目で見て覚えさせます。

――吉武監督が率いていた『96ジャパン』は、日本サッカーが進むべきスタイルの一つとして、技術が高く攻守に連動した質の高いサッカーをしていました。

鈴木:『96ジャパン』の選手たちはオフザボールの動きに加えて、ボールを止める、蹴るといった基礎技術がしっかりしていましたし、ボールホルダーに対して関わる選手の量と質が高かったですよね。ドルトムントやバイエルンの映像を見ると、子供たちは「すごい」と憧れの目で見てしまいますが、U-17日本代表となると、同じ日本人で年も近いので親近感が湧くんですよね。

――攻撃時のオフザボールの動きのコンセプトは、どのようなものがありますか?

鈴木:僕はボールホルダーと周りの選手(パスの受け手)の関係性が大切だと思っています。選手たちには「ボールを止めるときは、相手、味方、スペース、ゴール、ボールの5つが見える体の向きをつくろう」と言っています。そして、ボールを持っていない選手がどこに、どのタイミングで走りこむか。攻撃のオフザボールの状況は、大きく分けると、自陣でのビルドアップと敵陣でのアタッキングの2種類があります。例えばビルドアップのときに縦にボールを入れようとしても、うまくいかないこともあります。そのときは後ろにボールを下げて、違うルートを探します。その際、最終ラインの選手はただボールを受けるのではなく、相手、味方、スペース、ゴール、ボールの5つが見えるように、バックステップを踏んで体の向きと角度をつくって、2タッチで逆サイドにパスが出せるようにする。もしくは横にパスを出すと見せかけて、縦パスを入れたりと、複数の選択肢が持てる準備ができるようにすること。これもオフザボールの動きで重要なポイントだと思います。

――アタッキングサードでのオフザボールの動きに関してはいかがでしょう。

鈴木:僕は子供たちに、『ニアゾーンを攻略しよう』と言っています。小学生でアーリークロスをピンポイントで合わせることは難しいので、ゴールの近い位置まで攻め込んでいくことが、得点の可能性を高める方法だと思います。そこでゴール脇のニアゾーンまで侵略し、マイナスのボールを中央に折り返して中で合わせる。これが、元石川SCの攻撃のコンセプトです。ニアゾーンまでボールを運ぶと、相手DFの体は自分たちのゴールへ向いています。そこで中央にマイナスのクロスを折り返すと、相手の背後をつくことができます。

――ニアゾーンを攻略するための、オフザボールの動きとはどのようなものでしょうか?

鈴木:ニアゾーンを攻略するためには、ボールを持っていない選手の動きが重要です。具体的には、どうやってボールホルダーを追い越していくか。そして、どうサポートをするか。選手には「1人称ではなく、3人称で崩そう」と言っています。ニアゾーンを突くためには、ボールホルダーとパスの受け手に加えて、3人目の動きが重要です。2人目までは、相手もマークしてくるので対応されてしまうのですが、ボールホルダーを追い越していく選手、もしくは逆サイドからダイアゴナルに走ってくる選手に対しては、ボールウォッチャーになりやすいのでつききれません。その動きをすることで、ニアゾーンを攻略することができます。ワンタッチ、ツータッチでボールを動かしていくためには、ボールを止めて、蹴る技術、そしてボールを持っている選手と周りの選手のイメージがシンクロする必要があります。練習のときに3人目の選手が動き出していない場合はフリーズさせて「この前に見た映像に同じシーンがあったよね」と言うと、選手も「そうだった」と気がつくんですよね。

――具体的に、どのようなトレーニングで3人目の動きを身に付けていくのでしょうか?

鈴木:最初はどうボールを動かして、周りの選手はどう動くかといったパターン練習をします。例えば左サイドのウイングがボールを受けて、中央にドリブルでカットインしていくときに、トップ下の選手と逆サイドの選手はどう動くのか。左サイドのウイングが縦に仕掛けたら、中の選手は下がってサポートをして、こぼれ球を狙おうとか、逆サイドの選手はスルーパスを受けるために、ゴール前にダイアゴナルに入って、DFの背後で受けようとか。周りの選手にはこういう動き方があるというのを、3パターンぐらい練習します。あとは試合の状況を含めて、この選手がこう動いたから自分はこっちに行こうと、選手たちが判断します。大切なのは、ボールホルダーの動きに対応する、いくつかの動きの選択肢を持っておくこと。そう考えると、私の役割は練習を通じて、動きのオプションを身に付けさせることだと思います。プレーの選択をするのは選手ですからね。

――ジュニア年代において動き方の指導をすることは、とても大切だと思います。教え過ぎてしまうこと、教えない部分のバランスに関しては、どう考えていますか?

鈴木:小学生は柔軟な思考を持っていて、多くのことを次々に吸収していく年代だと思います。個人的には、この時期に伝えなくて、いつ身に付けさせるんだろうと思っています。ただし、一つのプレーを教えて、それだけをやらせるのはよくないと思います。それは選手をロボット扱いしているのと同じですよね。そうではなく、動きの引き出しをいくつも身に付けさせて、その中でどのプレーを選ぶのかは選手の判断であり、センスやアイデアの部分だと思います。サッカーは相手がいるスポーツなので、相手の動きに合わせて判断を変えていく。それができるのが、良い選手だと思います。

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鈴木浩二(すずきこうじ)
元石川SC U-12監督。神奈川県青葉区を中心に活動する『A.O.B.スペシャルトレーニング』クリニックマスター。主な戦績は、元石川SCを率いて神奈川県ベスト8(U-10)。ダノンネーションズカップ決勝大会進出など。