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「GK指導の重要性(前編)"GKとコミュニケーションを取ることから始めよう"」 松本山雅アカデミーGKコーチ、川原元樹氏インタビュー

GKがチームに与える影響は大きい。GKの活躍で勝つ試合もあれば、一つのミスが失点につながり、敗れてしまうこともあります。試合の結果に大きな影響を及ぼすポジションでありながら、その重要性はそれほど広くは知られていません。またGKを専門的な視点から教えることのできるGKコーチの数は少なく、適切な指導を受けることが難しいポジションでもあると言えるでしょう。そこで今回は、GK大国ドイツでGKの指導について勉強し、現在は松本山雅のアカデミーでGK指導をしている川原元樹氏に『GK指導についての疑問』をぶつけてみました。GK指導について興味をお持ちの監督、コーチはぜひ参考にしていただきたいと思います。(取材・文/鈴木智之 写真提供/松本山雅FC)

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Q:GKというポジションの重要性は理解しているのですが、GKコーチがいないため、どのように指導をしていいかが分からないという指導者は多くいます。GKの指導、コーチングについて、まずは何から始めればいいのでしょうか?

川原:育成年代を見ると、GKコーチがいるクラブは稀で、専門的な指導を受ける機会が少ないのが現状です。GKの指導にはGKの動作や技術、戦術に特化したトレーニングが重要ですが、多くの監督やコーチが「どのように指導をすればいいかが分からない」という悩みをお持ちかと思います。私がアドバイスをするならば「まずはGKとコミュニケーションを取ること」を提案したいと思います。コミュニケーションとは、GKと会話をすることです。練習前、練習中、練習後、試合前、試合中、試合後と、話をする場面はいくつかあります。GK経験がない、GKコーチではない指導者の方であっても、GKを『フィールドプレイヤーの1人』という視点から見ることで、アドバイスができると思います。

例えば、ビルドアップの場面。攻撃のときのプレーの優先順位から考えて、まずは相手ゴールの一番近くにいるFWの選手を見て、そこが難しそうであればMF、次にDFと、徐々に選択肢が自陣ゴールに近くなっていきます。

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私はGKからのディストリビューション時、サッカーのピッチを3つのゾーンに分けて考えています(図を参照)。まず見るべきところは、相手のゴールに近い位置のゾーン3にいる選手の状況です。このゾーンへの配球の種類としては、パントキックでの展開が主になります。その際、大事にしたいことは高さや速さなど、どのような種類のボールをこのゾーンに入れるかです。理想的なのは、正確でライナー性のボールをゾーン3に送ることです。

次に見るべき場所としてはゾーン2です。このゾーンには、キックを使用するのか、オーバーハンドスローを使用するのかといった、判断の要素も入ってきます。できる範囲であれば、オーバーハンドスローで正確なパスをつなぎ、ボールをもらうプレイヤーがコントロールしやすいプレー、つまりプレイヤーが前を向いて、次の動作が行えるように配慮したボールを送ります。

そして優先順位の最後がゾーン3です。このゾーンには浮き球ではなく、グラウンダーのボールをフリーの選手に確実につなぐことを心がけます。この原則をトレーニングのときからアドバイスができれば、なお良いと思います。また、ゴールキックを蹴るときに、「あの選手を狙った方が良いと思うよ」と一言、声をかけるだけで、GKは「コーチは自分のことを見てくれているんだ」と感じます。

私は、サッカーは『10人+GK』ではなく、『11人』でプレーするものだと思っています。攻撃を組み立てる際に、GKも含めて考えてみてはいかがでしょうか。GKが守備だけをするのではなく、攻撃にも関わることができれば、チームにとって大きなアドバンテージになります。守備に関しても、サッカーに対する理解力を持ったGKのコーチングやプレーが果たす役割は、極めて大きなものがあります。GKのコーチングによって、シュートを未然に防ぐことができれば最高ですし、それこそが一番のナイスプレーです。

GKのプレーは『準備』がとても重要です。良い準備ができれば、良い初動ができ、結果として良いプレー(ゴールを守る)につながります。そのためにポイントになるのが、GKのポジショニングです。それは、ボールがどこにあるか、敵、味方がどこにいるかによっても細かく変わっていきますが、指導者の方にもGKのポジショニングに関してのコーチングを積極的に行ってもらいたいと考えています。

例えばカウンターを受けている状況において、最後尾にいるDFがボールホルダーに寄せに行った場合。GKはカバーできるポジションにつき、DFラインと協力してゴールを守ることがとても重要になります。その際のポジショニングに関しては、GK経験のない指導者でも、コーチングできることはあると思います。DFの基本である、ゴールを守るということを頭において、「ここに立ったら、片方にスペースができてしまう」「味方との距離が近い」「敵との距離が遠い」などは、フィールドプレイヤーのポジショニングと似ている部分があります。GKとしての視点だけでなく、いちフィールドプレイヤーの視点から見て、有効なアドバイスができると思います。

プレーについて会話をすることで、指導者とGKとの間で信頼関係ができると思いますし、個別に話すのが難しければ、ミーティングのときに一言、GKのプレーについて触れてあげるだけで「GKもチームの大事な一員なんだ」と意識付けをすることができます。GKの立場からすると、試合前や試合後のミーティングなどで一言も触れられず、蚊帳の外に置かれている感覚を味わったことのある選手が多くいるのが現状です。指導者側も『GKに対して話をしたいけど、GKとしてゴールをどう守るかという技術、戦術を学んでいないので難しい』と感じるかもしれませんが、『GKがフィールドプレイヤーとどう関わるか』という視点であれば、選手としての経験を通じて理解している部分も多いと思います。

小学生年代であれば、ビルドアップのときの狙いと、守備時のポジショニング、DFラインとの距離感だけでもアドバイスをしてあげると、プレーの向上面で効果があると思います。簡単なところからコミュニケーションを取ることで、GKは「このコーチは、自分のことを見てくれているな」と感じるもの。まずはできるところから手をつけて行き、指導者とGKとの間で共通理解を増やしてみると良いと思います。そして、このようなコミュニケーションの先に、サッカーに対する理解力のあるGKが育っていくのだと信じています。


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川原元樹(かわはら・もとき)
大学卒業後ドイツに渡り、ケルン体育大学に通いながら、GKとして6部リーグでプレー。指導者転向後は、GKコーチとして名高いトーマス・シュリーク氏のもと、アルミニア・ビーレフェルトで育成からトップまで指導を行う。ハノーファー96ではU17のGKコーチ、酒井宏樹の通訳としてトップチームに帯同。VFBシュツットガルト、バイヤー・レバークーゼン、TSGホッフェンハイム、シャルケなどの育成チームで研修を積んだ後、2013年より松本山雅FCアカデミーのGKコーチに就任。ケルン体育大学の卒論のテーマは「ブンデスリーガ・アカデミーのGK練習の考察」。