TOP > コラム > 「GK指導の重要性(後編)"チームを勝たせるメンタルを持つGKを育てるために"」 松本山雅アカデミーGKコーチ、川原元樹氏インタビュー

「GK指導の重要性(後編)"チームを勝たせるメンタルを持つGKを育てるために"」 松本山雅アカデミーGKコーチ、川原元樹氏インタビュー

GKがチームに与える影響は大きいと言えるでしょう。GKの活躍で勝つこともあれば、一つのミスが失点につながり、敗れてしまうこともあります。試合の結果に大きな影響を及ぼすポジションでありながら、その重要性はそれほど広くは知られていません。またGKを専門的な視点から教えることのできるGKコーチの数は少なく、適切な指導を受けることが難しいポジションでもあります。そこで今回は、GK大国ドイツでGKの指導について勉強し、現在は松本山雅のアカデミーでGK指導をされている川原元樹氏に『GK指導についての疑問』をぶつけてみました。GK指導について興味をお持ちの監督、コーチはぜひ参考にしていただきたいと思います。(取材・文/鈴木智之 写真提供/松本山雅FC 写真/田川秀之)

HT010241.JPG

<<前編

Q:ジュニア年代のGKを指導する際、抑えておくべきポイントは、どのようなことでしょうか。

川原:GKに求める役割はたくさんありますが、ジュニア年代の選手に一度に多くのことを伝えても理解しきれないので、ポイントを絞って指導をすることが大切だと思います。

私がジュニア年代のGKを指導する際は、基本技術、ビルドアップとポジショニング、そして『チームのコンセプトの中でのGKの役割』にフォーカスしてコーチングをしています。ビルドアップについては、『攻撃の優先順位の中で、どの味方にパスを出すのか』という判断と、正確にパスを届けるためのキックの技術が必要になります。私はU-12向けのGK講習会を行っているのですが、練習の最初に必ずパス&コントロールを行います。そこではボールをしっかり蹴る、しっかり止める、運ぶとはどういうことかを理解してもらいます。

試合中、GKが足でボールを扱う際には、正確なキックとボールコントロール、ボールを受ける際の身体の向きが重要です。サイドキックとインサイドのトラップの練習を通じて、「どこにボールを置けば、キックしやすいか」を意識させています。ただGKのポジションに必要なレベルというのは、トップレベルの成人のGKのプレーを含めても、判断や経験の差はあるものの、それほど難しいプレーではありません。極端に言えば、インサイドキックでのボールコントロールとパス、インステップキックのロングとミドルボールのみです。こういったことからも、ビルドアップやディストリビューションの技術は、ジュニア年代で身につけておくべきものだと思います。

指導者の方に、ジュニア年代のGKを指導する上で注意して頂きたいことは、『トップチーム(大人)のGKと比較して、あれこれ言わないこと』です。例えば、成長過程にあるジュニア年代の選手にとって、相手のプレッシャーを受けながら大人と同じようなロングキックを蹴るのは難しいプレーです。また、クロスボールの処理やDFラインの背後のカバーといったプレーも、トライ&エラーの経験が必要になり、難易度が高いでしょう。そのため、あまり高度なことを求め過ぎず、ミスをしたことよりも、前に出る姿勢や出るタイミングを見てあげるようにして頂きたいです。

川原元樹.jpgのサムネイル画像

「U-12年代でGKを固定したほうがいいのですか?」と聞かれることがありますが、それはチームの状況や選手の個性によると思うので、どちらがいい、悪いとは言えないと考えています。本人がGKをやりたいと言うのであれば、やらせない理由はないと思います。GKは経験が重要なポジションです。早いうちから始めることで、経験面のアドバンテージを得ることができます。一方で、フィールドプレイヤーとしてプレーすることは、サッカーの理解を深めることにもつながります。

『キャッチしたボールを、どこに出せばチャンスになるのか』などの戦術的な部分は、フィールドプレイヤーとしてプレーすることで、より理解が深まります。先に述べたように、GKに必要なフィールドプレイヤーの技術は、それほど難しいものではないので、GK一筋でも、ビルドアップやディストリビューションの技術は十分に身につけることができます。また、普段はフィールドプレイヤーとしてプレーしている選手が、紅白戦などでGKをするのも良いと思います。どういうプレーをする選手が、GKにとって嫌なのかが分かりますし、GKの気持ちを理解する一助になるからです。

GKの導入期であるジュニア年代は、『GKをやっていて良かった』『楽しいポジションなんだ』と分からせてあげることが大切だと、日々感じています。例えば、練習でよくあるのが「あと10本シュートを決めたら終わり」といったルールです。これをGK目線で見ると、「決められる」というネガティブなイメージで練習が終わりますし、何本も止めていると、フィールドプレイヤーから厳しい視線が飛んできます(笑)。GKからすると、「10本決めたら終わり」というルールだけでなく「20本シュートを打つ中で、GKが10本止めたら終わり」などのルールを設けてくれると、よりプレーに対する集中が増しますし、フィールドプレイヤーは決めなければいけないという緊張感の中でシュートを打つことになるので、練習への集中力も高まるのではないでしょうか。

ジュニア年代で気をつけたいのが、GKというポジションを嫌いにさせない、不公平だと思わせないことです。GKのミスは失点に直結しますし、勝ち負けに大きな影響があるポジションです。GKのミスは目立つので、保護者の方も「うちの子のミスで負けた...」と肩を落とした経験がある方も中にはいるかと思います。ジュニア年代であれば、失点の責任を過度に背負わせない方がいいでしょう。ときには、キャッチングミスやパスミスなどで失点し、負けてしまうこともあります。GKとしては絶対にやってはいけないミスですが、チーム全体の中で、DFと平等に扱ってミスを指摘することが大切だと思います。GKがミスをする前段階でほかの選手がミスをし、シュートを打たれてしまった可能性もあります。反対に、味方のミスをGKの好プレーで救うこともあるわけです。

日本の育成年代を見ていると、GKが良いプレーをして失点を防いだとしても、感情を表に出す場面が少ないと感じることがあります。おそらく、その状況を喜んで良いのかどうかの判断がつかないことが原因だと思います。失点につながるミスばかりを非難するのではなく、GKで勝った試合、引き分けた試合についてもしっかりとねぎらってあげて、チームとしてもGKのプレーを認めてあげれば、GKとして持たなければいけない「自分のプレーでチームを勝たせるんだ」という"強いメンタル"の成長の助けになると思います。 そのような意思を持って試合に臨み、勝利を得る経験を重ねることで、GKとしての責任感やオーラが自然と出てくる選手が育つのだと思います。


川原元樹(かわはら・もとき)
大学卒業後ドイツに渡り、ケルン体育大学に通いながら、GKとして6部リーグでプレー。指導者転向後は、GKコーチとして名高いトーマス・シュリーク氏のもと、アルミニア・ビーレフェルトで育成からトップまで指導を行う。ハノーファー96ではU17のGKコーチ、酒井宏樹の通訳としてトップチームに帯同。VFBシュツットガルト、バイヤー・レバークーゼン、TSGホッフェンハイム、シャルケなどの育成チームで研修を積んだ後、2013年より松本山雅FCアカデミーのGKコーチに就任。ケルン体育大学の卒論のテーマは「ブンデスリーガ・アカデミーのGK練習の考察」。