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南米の"頂"を日本はどうやって超えるのか/2014東京国際ユース(U-14)サッカー大会決勝分析

近年ゴールデンウィークに駒沢オリンピック公園総合運動場で開催される東京国際ユース(U-14)サッカー大会が今年も5月1日に開幕する。昨年はボカジュニアーズ(アルゼンチン)とパルメイラス(ブラジル)という南米対決の決勝が行われ、1-0でパルメイラスを下したボカが優勝を飾った。U-14カテゴリーとはいえ、激しい球際の攻防やビッグプレーが随所に見えた昨年の決勝について、スペインのバルセロナ在住で現在はUEコルネージャのユースコーチを務める坪井健太郎氏に話を聞いた。(取材・文/小澤一郎)

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■南米対決で際立つ「縦への早さ」

まず坪井氏が挙げた南米決戦の特徴は、「プレーの激しさ、球際での身体のぶつけあい」だ。「この部分は私がよく知るスペイン、日本と比べても目立った部分で、特に『絶対に勝つ』という強いメンタルに裏打ちされたアグレッシブさや1対1の局面での粘り強さが試合を通して出ていました。それが日本でも最近よく言われる『インテンシティ』の高さ、つまりプレー強度の高さと激しさを生み出していました。加えて、アルゼンチンとブラジルという南米の二強によるライバル心がそれをより一層引き出していたように思います」

試合展開として坪井氏が「南米対決らしさ」として挙げた要素が「縦への早さ」だ。「基本的に両チームの攻撃は縦に早い、縦を目指すサッカーでした。まずは縦にはがしていこうという狙い・習慣の下にプレーしているように見えましたが、戦術的に見たときには数的不利な状況で無理な突破を何回も繰り返していたので、そのプレーが正しいかどうかは議論の余地があると思います。縦を意識してボールが前進する展開自体は良かったと思いますが、崩しの局面でのコンビネーションプレーがあるともっと面白いゲーム展開になったはずです」

とはいえ、縦に早いサッカーで点を奪って勝ち切るため、両チームに面白い個のタレントがいたのは事実で、坪井氏は「ボカの11番が印象に残りました」と述べた。「やはり南米の名門クラブになると、能力が高い選手がチームに一人、二人はいます。ボカの11番は、欧州の中でも目立つ左利きの選手ですが、ボールの持ち方に特徴があり、一人で二人をはがせてしまうテクニックとフィジカルがありました。よって、彼に前向きにボールが入ったときにはボカが決定的なチャンスを作りやすい状況でした。パルメイラスも前線にタレントがいましたし、GKのレベルも高かったです」

■ストリートサッカーが育む「個」と「順応力」

突出した個が輩出される南米のサッカーと、低年齢から体系化された戦術的指導が施された組織が目立つ欧州のサッカー。「個か組織か」という永遠のテーマがある中で、坪井氏は南米から優秀な個が継続的に生まれる要因について次のように分析する。「基本的には個が目立つサッカーをしていますし、実際に南米の生活環境がどうなっているのかを私自身は分からないのであくまで推測ですが、まだストリートサッカーの習慣が残っているのは大きいと思います。ストリートサッカーの場合、決め事(戦術)の下にパスやコンビネーションプレーで相手を崩す・はがすのではなく、ドリブルでいなす・かわす局面打開やローテンポの内容が多くなります。もちろん、名門クラブの下部組織にセレクトされ、いい指導を受ける選手が優秀な個として育つケースもありますが、ストリートサッカーの中でテクニックや駆け引きを身に付け、それをベースに1対1で負けない、二人、三人をはがす能力を持つ個もまだまだ多いと思いますし、南米の中にそうした選手の評価基準があることも能力の高い個が出てくる要因の一つでしょう」

「加えてストリートサッカーではカオスの中でサッカーをするわけですから、決まり事がない中で自分自身が何をすれば勝利に近づくかを考えることを要求されます。だからこそゲームに求められることにフィットできる個が出やすいのではないかと想像できます。欧州でプレーする南米人、特にブラジル人のチームへの順応力は目を見張るものがあり、自分の良さを十分に出しながらもチームに貢献できる個が次々と出てきますが、それはストリートサッカーの影響が少なからずあると思います」

最後に坪井氏はU-14という年代で世界を経験できる大会が日本(東京)で開催されることの意義についてこう述べた。「日本が、日本のU-14年代が今世界の中でどの位置にいるのかを測る絶好の大会・試合になることは間違いありません。ブラジルW杯で敗れた日本サッカーはいま盛んにインテンシティや激しさ、アグレッシブさといった要素を追求し始めていますが、昨年のこの決勝を見てもそこに南米や世界との差があるのは見えていました。だからこそ、私は日本のチームがどういう方法で世界と戦うのかに注視していきたいと思います」

近年はこの東京国際ユース(U-14)サッカー大会のように、日本でも身近に世界を感じられる国際大会が多く開催されているが、坪井氏は「『いい経験になりました』、『惜しかったです』と言っている段階は過ぎたと感じています」と口にする。「世界の基準や情報が入ってきている中で、この決勝のように南米の特徴や戦い方は事前に見えています。だからこそ、対策を練って結果を出せる日本のチームの台頭を待っていますし、スペインでスペイン人を指導していても日本の選手たちの順応スピードは速いと感じますので、大会や試合の入りで素早く南米や世界の特徴や戦い方に順応し、日本人特有のスピード、テクニックを活かして勝てるサッカーを展開してもらいたいと思います。結果を出すことで自信や手応えを含んだ真の国際経験が得られるのです」

世界14都市から16チームが参加し、次世代を担う先鋭たちによる2015東京国際ユース(U-14)サッカー大会は、5月1日に開幕し、決勝戦は5月4日に行なわれる。今回取り上げた昨年の決勝戦のように、見どころ満載の好ゲームを期待して、ぜひ会場に足を運んでいただきたい。


2015東京国際ユース(U-14)サッカー大会
【未来を担う世界のユースによる激闘と感動! 駒沢で世界レベルを体感せよ!!】
■日程/5月1日(金)~5月4日(月・祝)
5月1日(金) 開会式 1次ラウンド 15:30~18:55
5月2日(土) 1次ラウンド 10:00~17:25
5月3日(日・祝) 2次ラウンド 10:00~15:05
5月4日(月・祝) 2次ラウンド 10:00~16:05(決勝戦 15:00~16:05) 表彰式・閉会式
■会場/駒沢オリンピック総合運動場 陸上競技場、補助競技場、第二球技場
■参加都市/北京、ベルリン、カイロ、ジャカルタ、モスクワ、ニューサウスウェールズ、サンパウロ、ソウル、ブエノスアイレス、岩手、宮城、福島、茨城、東京(トレセン選抜、FC東京、東京ヴェルディ)
■入場料/無料