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女子は「理解してから」動く。ジュニア年代における男女指導の違い

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 なでしこジャパンの2011年FIFA女子ワールドカップ優勝以降、多くの女子小学生がサッカーをプレーし始めました。とはいえ、まだまだ女子だけで構成されたチームというのは多くなく、ほとんどの女子は男子チームに混ざってプレーしていることでしょう。そういう状況では選手本人はもちろん、コーチも教え方に難しい部分があるかもしれません。
 
 今回は、広島県でなでしこリーグを目指して奮闘するアンジュヴィオレ広島、そのU-12でコーチを務める柴村和樹(しばむら・かずき)さんに、この年代の女子選手で気をつけたい指導のポイントについて伺いました。柴村さんは、FKブハラ(ウズベキスタン)所属の柴村直弥選手のお兄さんでもあります。それでは、どうぞお読みください。
 
■女子サッカーの普及から育成へ
 なでしこジャパンが2011年ドイツW杯で優勝して以降、サッカーをやってみたいという女性が増え、それに応えるようにイベントや普及活動も頻繁に行われるようになってきました。実際にサッカーをやってみて「楽しい」と感じ、将来なでしこジャパンを目指すような女子小学生も増えてきています。

 ただ、小学生年代において女子のみで構成されたチームは多くなく、男子が多くいるチームに女子が混ざっているというのが現状です。現在のなでしこジャパンの選手たちも、そのような環境で育ってきました。しかし、環境に馴染めなくてサッカーを辞めていった女子選手もいたことと思います。地域に小学生年代でサッカーができる環境があっても、中学生年代では男子と一緒にプレーする環境しかないうえ、思春期という時期も重なることで競技を続けにくくなります。
 
 ただ、それでも徐々に女性がサッカーをしやすい環境は整い始めています。今後は、より一層、育成年代の女子チームが増加してくることでしょう。

 女子チームが増えれば、そこに関わる指導者も増加します。私は長く男子の各世代を指導した後、現在は女子のジュニア年代(アンジュヴィオレ広島U-12)を指導しています。男女の育成年代で、指導の矛先が大きく違うとは思いません。ただ一般的に女性は、まず「頭で考えてから行動する」という傾向があり、それによって指導の手法には若干の違いがあると思います。今回は、ジュニア年代における男女の指導の違いについて述べさせていただきます。

■「理解してから」動く女子
 私の考える男女の大きな違いは、行動までの部分です。男性は「頭で理解する前に、まず行動する」という傾向があるのに対し、女性は「頭で理解してから行動する」という傾向があります。サッカー選手としてどこへ導くべきか、どのような精神状態でサッカーをさせることができるかという点で男女に差異はありません。ただ、手法は少し変える必要があるでしょう。

 私は、ジュニア年代での練習試合は、ポジションを決めずに送り出すことが多いです。ポジションを与えられてそこへ留まるのではなく、変化する試合の状況の中で「自分自身が今どこに居るべきか」見つけることがジュニア年代ではまず必要だ、と考えるためです。

 実際に指導したチームを例に挙げると、男子チームの選手たちは理由を説明しなくても与えられた状況で精一杯のプレーをします。そして私の導きたいと考える「ポジションにとらわれない」選手へと、変化を自然と引き出すことができます。男子には「まずやってみよう!」という傾向があるため、このやり方が変化を引き起こしやすいと思います。

 しかし女子チームの場合、選手たちはまず「なんで?」と理由を聞いてきます。理解をしなければ精一杯のプレーに繋がりにくく、頭で自然とブレーキをかけてしまい、結果として変化が少なくなってしまう恐れがあるのです。女子にとっては頭で「変化した先」を知ったうえで行動することが、私の導きたい方向へ変化を起こす最善の方法だと考えます。

 私が指導者として導きたいゴールは「試合の様々な状況で、今何をしなければいけないか、どこへいるべきか判断できる選手」です。ジュニア年代で身に付くことは、選手がこれからサッカーをする上でのベースになります。そのため、何をベースにすればその選手にとって最善なのかを考えます。そして目の前の選手が男女で違えば手法も違うということです。

 「頑張ろう」と思って身体が動いている状態と、他人や周りの状況で「無理やり動かされている」状態とでは、変化の幅に違いがあります。無理を我慢することがストレスにつながり「解放されたい」と感じてしまうと燃え尽き症候群につながり、サッカーを辞めてしまう原因にもなりかねません。こうした男女の違いを指導者が理解し向き合わなければ、選手のサッカー人生を終わらせることにもなってしまうのです。
  
 私はこれまでサッカーを始めたばかりの幼児からプロで活躍している選手、年齢を重ねても現役を続けていける選手、プロ、アマチュア問わず若くして引退した選手など、多くの選手を観てきました。その中で、ジュニア年代で何を身に付けさせて、どのように成長させれば可能性の広がる選手になるのかを模索してきました。それが男女の違いによって、指導の手法が違うだけで、導きたいところは変わらないのです。

 指導者とはサッカーの技術を教えるだけの存在ではなく、選手を変化させることのできる存在だからです。


柴村和樹(しばむら かずき)
1980年8月27日生まれ。広島県広島市出身。阪南大学を卒業後、スペインのラコルーニャへサッカー留学。その後広島県の廿日市FCで指導者の活動をスタート、幅広い年代の普及、育成、強化の指導を務める。様々な経験から独自の指導法を持ち、現在は女子チームのアンジュヴィオレ広島で普及・育成に所属。昨年、徹マガインディーズで『日本サッカーの進む道を決めるのは、「無償の代償」である』を掲載。弟はFKブハラ(ウズベキスタン)所属の柴村直弥。