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「あらゆる環境に、いかに素早く適応できるか」南米の雄・クルゼイロECの育成(後編)  

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 あらゆる環境に適応できる人間性を育んでいく――。そのクラブ哲学はピッチ上のトレーニングにも貫かれています。クルゼイロがアカデミーの選手たちに取り入れる必要な要素として重視するのは、「徹底的に個を伸ばすこと」だと言います。横林さんが続けます。
 
 「クルゼイロにはバルセロナのような育成メソッドがあるわけではありません。選手たちは16歳になってプロになると激しい競争にさらされ、色々な環境を渡り歩いていかないといけないので、どんなチームに入っても対応できるだけの質の高い個人のスキルを養成しているんです。そのうえで人間性を高めていくことで環境への対応力もあげていく。だからこそ、たとえクルゼイロのトップに上がれなくても他クラブでプロとしてやっていける選手が育つし、30歳、35歳になってもプロのサッカー選手としてご飯を食べていけるのです」
 
 U17年代から戦術トレーニングを組み込んでいくようですが、U12のスクールやU14のカテゴリーなどは個のスキルを高めるトレーニングに力を注いでいるようです。実際、クルゼイロが今回のキャンプで展開したメニューは基礎・基本が中心でした。主催者側から日本人に足りない要素として「相手を意識したときの個の技術」をメニュー構成に提案すると、クルゼイロのスタッフたちは合計10日分の緻密なメニュー、たとえば、相手に対峙するときの体の使い方、相手に対する腕の使い方、それらを組み込んだ応用メニュー、などを分厚いファイルに丹念にしたためて用意してくれたそうです。また、「クルゼイロの子どもに向けたトレーニングをそのままではなく、日本人の子どもに合うトレーニングにアレンジしたい」という主催者側の要望にも、クルゼイロのスタッフたちは親身になって耳を傾けて柔軟に対応してくれたといいます。
 
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 ペドロさんは言います。
 
 「日本人の技術が上がっているのは、香川や本田を見ていればよくわかります。それでも今回は、主催者側の要望を踏まえながら、あえてもっとも基本的なことを繰り返しました。短い日程のキャンプスクールのなかで、やはり一番に伝えるべきはクルゼイロのスクールでも実践している個人のスキルの重要性だと考えたからです。
 
 サッカーで大事なのは何といっても基礎、基本なのです。短いインサイドキック、長いインサイドキック、強く蹴るインサイドキック、インステップのグラウンダーのパス、インステップの長いパス......。それらを正確に蹴られれば、ボールを受ける相手は正確にトラップしなければいけない、正確なトラップをしたら正確なコントロールをして自分のボールにしなければいけない、正確なコントロールができればスムーズにドリブルにも移ることができます。
 
 このキャンプは3日間がセットになったものですが、初日も二日目も基礎・基本をかなり意識して取り組んでもらいました。トラップ、シュート、パス、ヘディング、ドリブル、これらのスキルのうち一つでもできなかったり、飛び抜けたりすることがないように、すべてが普通にできるようにしてほしいと思っています。これはクルゼイロのU17やU20の選手たちも、毎日必ず怠ることがないように取り組んでいる基礎・基本です。今回キャンプを通じて、左足を苦手とする日本人の子どもが多いように感じましたが、僕らが目的とするのはすべてのテクニックを上げる練習をしてほしいということ。プロになる過程において、苦手な分野をなくして全体をレベルアップしてほしいんです」
 
 たとえば、日本のトレーニングではヘディングを軽視する風潮はないでしょうか。ヘディングも毎日しっかりと実戦を意識しながらトレーニングすることが大切なのだとペドロさんは力説します。ゴールにしろ、クリアにしろ、ヘディングの質の差で勝敗を決することは少なくないからです。
 
 このキャンプの3日目にもヘディングのディテールに拘ったトレーニングメニューがありました。
 
 まずは難易度が低いところからスタートし、座ってヘディング、その次はスタンディング、その次はジャンプをしながら、というように徐々にレベルをあげていきます。
 
 「しっかりボールをみて、勢いをつけるために両腕を使いながら、胸を突き出すようにボールを前へ押し出す」
 「ボールはしっかり地面にたたきつける」
 
 基本的でありながら忘れてはいけないディテールを何度も何度もコーチたちが繰り返します。その発展形のトレーニングとして行ったのがサッカーテニスでした。2対2でスタートし、必ず3タッチ目はヘディングで相手のコートに返すというものです。ここでも「体の使い方、腕の使い方を意識しながらヘディングをするように」などと何度も指摘を繰り返していました。そして最後にゲーム形式のトレーニングでヘディングでゴールを狙う、という流れでした。
 
 「ヘディングのトレーニングでも、初日や二日目に他のトレーニングの際に教えた体の使い方や、腕の使い方が必要になりました。つまり、すべてのメニューは連動しているということです。最後はゲーム形式のトレーニングのなかにヘディングする場面を織り交ぜました。すべての基礎・基本のトレーニングが試合に通じていると意識しながら取り組むことがとても大事なのです」
 
 さらにペドロさんは、
 
 「本来であれば、普段から体に染み付いている基礎・基本の何がダメで、いったいどうすれば改善できるのか、そういった指摘を一つひとつ丁寧に伝えながらキャンプを進めたかったのですが、時間が足りませんでした」
 
 と残念そうに話しながらも、基礎・基本のディテールに拘りながら日々のトレーニングに取り組む重要性を強調していました。
 
 主催者側の中心スタッフである小林弘典さんはキャンプを通じた印象をこう話します。
 
 「彼らは取り立てて何かをピックアップするわけではないんです。技術も、戦術も、フィジカルも、メンタルも、すべて底上げしていくことを大事にしています。ピッチの外では学校行事や全面的な教育によって総合力をあげていく。そうしないとプロにはなれないし、プロになってもドロップアウトしてしまうし、海外へいっても適応性が出てこない、という思いをもって日々の指導に真摯に取り組んでいました。
 
 僕たちが日本のスクールで子どもたちを指導する上で常々考えていたことは『子どもはサッカーだけをやっていてもダメなのではないか』ということでした。強化と育成に成功しているクルゼイロの取り組みから、改めて、子どものすべてを底上げしないといけないという確信が持てました」
 
 世界中のどのリーグに行ってもブラジル人選手は活躍しています。大切なことは、あらゆる環境に、あらゆる戦術に、いかに素早く適応できるかということです。そのために必要なことが、南米のバルセロナ――クルゼイロの育成哲学に凝縮しているように感じます。

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 <この項、了>

編集部追記:
今回参加したお子さんに、クルゼイロから特別なオファーがありました。『今すぐ自分たちの管理下に置きたい。タイにクルゼイロが出資しているインターナショナルスクールがある。奨学金を出すから来てくれないか』決裁権の持つ役員が来日しているため、キャンプ中に今回のオファーが出されました。クルゼイロ本体が直接開催しているサッカーキャンプならではの出来事と言えるのではないでしょうか。

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