TOP > コラム > 指導者は「目」がすべて。曹 貴裁監督(湘南ベルマーレ)指導者講習会レポート

指導者は「目」がすべて。曹 貴裁監督(湘南ベルマーレ)指導者講習会レポート

2014-04-18 19.36.28 (1).jpg

取材・文・写真:澤山大輔(COACH UNITED編集部)

 去る4月18日(金)の夜、神奈川県藤沢市・辻堂駅至近の Cocco Terrace湘南1Fにオープンした『湘南ベルマーレKidsBase ZERO』(※)にて、興味深いイベントが開催された。J2で目下8連勝と破竹の快進撃を見せる湘南ベルマーレを率いる、曹貴裁(チョウ・キジェ)監督による指導者講習会だ。
 
 J2の現役監督が、それも明後日に試合を控えるというスケジュールにおいて指導者講習を行なうことは異例(ちなみに試合は4-0で湘南が大分を破った)。会場には30人ほどの熱心な指導者が駆けつけ、曹貴裁監督の一挙手一投足を見守った。

 イベントは少人数制のクローズドなものであり、その性質上ここで事細かに内容を明かすことはできない。よって以下のレポートは、内容について詳細に明かすというよりは、部分的に紹介した上での感想に近いことを断らせていただきたい。それでも、感銘を受けた2つのテーマのみ、さわりだけは伝えさせていただく。
 
 曹貴裁監督が何度も繰り返し述べたことが、2つある。1つは「指導者は、目が大切」ということだ。
 
 湘南のサッカーのテーマは、「相手より多い人数で攻め、相手より多い人数で守る」だ。そのテーマどおり多くの人数で攻め、首尾よく得点を奪った時。得点した選手を褒めるのは簡単だろう。アシストをした選手も、第三の動きをした選手を褒めるのも簡単だろう。しかし、多くの味方が攻撃参加する中でしっかり相手FWをマークしカウンターへの備えを怠らなかった選手をすぐに褒められるだろうか。
 
 あるいは、セットプレーから得点し、GK含めたチーム全員で『ゆりかごダンス』をしようとする中、1人だけ冷静になってセンターサークルに陣取り、相手にキックオフをさせないようにした選手を褒められるだろうか。
 
 得点した選手、アシストした選手、お膳立てした選手、第三の動きをした選手、彼らはもちろん全員素晴らしい。しかしそれらの動きは「見て」いれば、視界に入るものだ。しかしボールのはるか後方で、次の次に起こりうる相手のカウンターに備え、相手FWに近いポジショニングを取る選手は、ボールを中心とした視野には入らない。ボールが動いている場所ではなく、そのポジションを頭に入れたうえで「観て」いなければ視界に入らない。
 
 漫然と見るか、観察するか。隠れた好プレーを、激しく局面が入れ替わる試合の一瞬で見抜けるか否か、評価できるか否か。それがコーチの大きな資質の差となることは、間違いないだろう。
 
 そしてもうひとつ、曹貴裁監督が強調したことがある。「選手からも観られていることを、絶対に忘れてはいけない」ということだ。
 
 当然のことだが、「観て」いるのは監督だけではない。選手もまた、監督を観ている。観察し、値踏みしている。「この監督は、自分のキャリアを預けるに足るか」、そこまで行かなくても「うまくしてもらえるかどうか」は思うだろう。こちらが相手を覗きこんでいる時、相手もまたこちらを見つめているのだ。
 
 だからこそ、コーチは常に誠実であらねばならない。選手と真剣勝負せねばならない。選手の気付きに、隠れた好プレーを評価し、「見てもらってるな」と思わせねばならない。「コーチはオレを見てないな」と思わせたら、練習効率はあっという間に落ちてしまう。そんな選手が複数出れば、チーム力はガタ落ちになる。どんな戦術や練習メニューを導入しようが、選手からの信頼を勝ち得ていない監督がもたらす影響は小さいだろう。
 
 曹貴裁監督の発言は、どれも「言われてみれば当然」に聞こえるかもしれない。しかし、その"当然"をいついかなる時も実行することがどれほど"当然"か、その難しさを一番理解しておられるのは当コラムをご覧になっているコーチ諸兄であるはずだ。曹貴裁監督は「私は常にブレまくっています」と言うが、真の意味でブレていないことは、今シーズンにおける湘南の快進撃を観るまでもなく明らかだ。
 
 J2首位を快走する湘南ベルマーレの、現役監督の話が聞ける貴重なこのイベントは、今後も不定期ながら開催される予定。Jリーグの現役監督のナマの声を聞ける貴重なイベントとして、今後の開催予定を注意して追うことをおすすめしたい。
 
 最後になるが、直前の取材申請にもかかわらず、クローズドなイベントに快く取材許可を出してくれ、貴重な機会を提供してくださった(株)湘南ベルマーレ様、とりわけ経営企画室広報チーフ・遠藤さちえ様に心より感謝を申し上げたい。公式戦2日前の夜に、Jリーグ現役監督がトークイベントを行なうという企画が実現に漕ぎ着けられるのは、こうした現場の人々の柔軟さ、誠実さあってこそだろう。

※『湘南ベルマーレKidsBase ZERO』:http://www.kidsbasezero.com
NPO法人湘南ベルマーレスポーツクラブが4月にオープンした、子ども向けスポーツ施設。子どもたちが集まり、スポーツを通じてライフスキル(生きる力)を身につけることを目的とし、様々な運動プログラムと共にライフスキルを学ぶ場を提供している。