05.16.2014
いかに「テレビ画面の外」を予測するか? プロに学ぶテレビ観戦での試合分析術
前号では、「キックオフ前のコツ」「開始10分間の見方のコツ」および「前半10分以降の見方のコツ」について「<1>守備の局面の見方」までお話を伺いました。今号では、「前半10分以降の見方のコツ <2>攻撃の局面の見方」から「ミスの原因を見分ける」「ハーフタイム」「後半~試合終了」「倍速で観る」といったテーマでお話を伺っています。前号をご覧いただいていない方は、ぜひこちらをご覧の上でお読みください。(取材日:2014年4月8日 取材・文:篠幸彦 図表:五百蔵 容)
<<前編:まずは一局面を重点的に見よ! プロに学ぶテレビ観戦での試合分析術
■前半10分以降の見方のコツ
<2>攻撃の局面の見方
攻撃ではまず流れの中でボールを奪って攻撃に移る場面なのか、ゴールキックやDFラインから攻撃をやり直す場面なのかで分けられます。まずゴールキックや攻撃をやり直す場面でCBから攻撃を組み立てるというシチュエーションを想定します。
○DFラインの裏を狙う
攻撃の原理原則として最も攻略すべきスペースは、ゴールへ直結する「DFラインの裏」になります。最初のステップとしてそこを狙えているか、ここをどう攻略するかが攻撃の大事なポイントになります。
極端に言えばゴールへの最短距離はGKやCBからDFラインの裏に抜けたFWへロングフィードを一発で通すことになります。それをさせないために相手はCBへプレスをかけてロングフィードを蹴らせない、蹴る瞬間にDFラインをあげてオフサイドにかける、ラインを下げてロングフィードをクリアなど、対応してきます。
一方で前線が狙えるタイミングで動いていないという最初の裏を狙うという選択肢ができなくなってからFWは「足下でもらって起点を作る」といった次の攻略方法を考えることになるので、まずはその原理原則を観る側も知っておかなければ、攻撃で何が行なわれているかを分析することができません。
○相手の守備の状況を見る
DFラインの裏が狙う選択肢の次のステップとして、CBからパスを繋いで相手を攻略していきます。その時、相手の守備を受けてどのような組み立てを選択できるかがポイントになります。大きく分けて2つのシチュエーションが考えられます。
[A]相手の守備にはめ込まれてしまっている
[A]のように、数的同数でパスの出しどころがない、いわゆるハマっている状態の場合はDFで繋ぐことはできないのでGKにバックパスをしてやり直すことになります。相手がGKへもプレッシャーに来た場合、近くの選手に繋ぐことは難しくなり、前線へロングボールを蹴ることになります。そして[B]の場合では、数的優位の状況を生かしてどうのように攻略していくかを見ていきます。
例えば、バルセロナはCBがボールを持った時に、2人のCBに対して相手の2人のFWがプレスに来たらアンカーの選手がCBの位置まで降りてきて3(CB2人+アンカー1人)対2(FW2人)の数的優位の状況を作り、ファーストディフェンダーであるFWを攻略しています。
○どこにフリーの味方ができるか
DFラインで数的優位を作り、FWとの局面を攻略すると、相手はその次の場面でまた別の選手がカバーすることになります。このとき次の選手がカバーに来たことで相手の守備にズレが生じ、フリーになる味方選手が出てきます。そのフリーの味方を使うことで、また相手の守備にズレが生じてフリーになれる別の選手が生まれます。
この守備のズレを攻撃側がどのようにして生み、「フリーになる味方選手」をどこに作っているのかがわかると、攻略の意図が見えてきます。テレビ画面にはフリーになる選手が映らないことが多く、慣れないうちはマッチアップ図で確認しながら「画面の外を予測する」ことが大事になります。
<3>攻守の切り替えの局面を見る
攻撃と守備の局面がしっかりと整理できた上で、次のステップとして攻守の切り替えという局面を分析しましょう。攻守が切り替わる瞬間に見るべきところは、ボールが奪われた、奪った直後の約1秒間のアクションになります。慣れていないうちは約3秒間のアクションを見ていきましょう。まずはボールを奪った側を想定して、その3秒間で見るべき主なポイントは3つあります。
○奪った瞬間にその選手が前を意識しているか
その選手が前への意識があるのかを見ます。相手のプレッシャーを受けている、または画面には映っていないところで前の選手が動いていないことで実際に前にプレーできない場合でも、目線だけでも前を見ているかは大事なポイントです。
○奪ったらすぐ後ろを意識しているか
奪ってすぐに後ろに下げた場面で、それが前の状況を見て即座に判断したものなのか、そもそも前への意識がないのか。その選手の意識、判断力を見ます。
○周りがすぐもらえるアクションをしているか
奪った瞬間は周りの切り替えの意識も重要になります。周りがすぐにパスを受けるアクションができているかは大事なポイントです。
ボールを奪われた側の見るべき主なポイントは2つあります。
○奪い返しに行く
ボールを奪われた瞬間にチーム全体でボールホルダーを囲い込むようにすぐ奪い返しに行っているか。またはカウンターをさせないために攻撃を遅らせるようプレッシャーに行っているか。
○引いて守備を整える
奪われたらとにかく素早く自陣に引いて、ポジションに戻って守備の陣形を整えているのか。
この計5つのポイントで3秒間を見ていくと、攻守の切り替えの局面が整理できます。得点シーンは攻守の切り替えの直後に生まれることが非常に多いので、この3秒間でどんなアクションがあるのかは見逃さないように注意しておきましょう。
■3)ミスの原因を見分ける
サッカーはとにかくミスが頻発するスポーツです。ここまでフォーメーション、守備、攻撃と分析するコツを紹介してきましたが、プレーに多大な影響を及ぼす「ミス」も分析する上で重要なファクターになります。そのミスがなぜ起こっているのか、原因は大きく3つに分けられます。
○技術的なミス
パスコースはあり、周りの状況的にまったく問題がない状態で、単純にキックミスといった技術的なミスをした場合。
○チーム戦術的なミス
パスを受けるべき選手が状況を把握せずに、ポジショニングを誤って出し手がパスを出せない、あるいはパスを出して取られてしまった場合。
○個人戦術的なミス
そもそもそのプレーを選択すべきではないといった、個人の判断によるミスの場合。
例えばスーパープレーによる失点シーンでも、その一連のプレーを辿っていくとそのどこかでミスが起こっているものです。相手のスーパープレーは褒めるべきものとして、そのシーンが生まれてしまった守備側の原因がどこにあったのかを見つけるのが分析になります。テレビの場合は、失点シーンを巻き戻してミスがどこから始まったのかを確認することが可能できます。
■ハーフタイム
ハーフタイムでは前半に見えた「問題点の整理」をしていきます。問題点の整理はただ状況を確認するだけではなく、その問題点から後半どのような修正があり、どんな展開になるかという予測までするのが分析であり、サッカーを見る上での楽しみでもあります。
普段、テレビ観戦する海外サッカーやJリーグ、日本代表戦など、プロの試合では歓声にかき消されて監督の指示が伝わりづらい状況にあります。そのため、監督に指示による問題点の修正ができないことは多々あります。逆に前半は選手たちの判断に委ねられる部分が大半を占め、選手の適応力・対応力が見られるという側面もあります。
そしてハーフタイムになると監督が指示を出せるため、戦況がガラリと変わることは珍しくありません。試合の中で最も変化が起こるのがこの15分間と言えます。その変化に対応するためにも、自分の中で見えた問題点をしっかりと整理して後半に備えることが大切になります。
■後半~試合終了
そのチームの攻守のポイントは前半に整理されているので、後半は前半からの変化がポイントになります。監督の采配による変化や状況的な変化、どのような変化が生まれているのかを分析し、試合がどう動いているのかを見ていきます。
○フォーメーションの再確認
前半10分と同様に、後半の5分程度はフォーメーションやメンバーに変更がないかを確認します。もし変更があったのなら、マッチアップ図を修正して情報をアップデートしましょう。
<変化を見る>
前半のうちからスコアが動き、それに伴って戦況が大きく変化することは多々ありますが、やはり最も変化があり、試合が動くのが後半です。その試合が動くその主な変化は4つ挙げられます。
○選手の変化
最もわかりやすいのが選手交代です。スコア、試合の流れ、疲労度、選手の特性などからその交代がどのような意図・メッセージがあるのかを読み取り、その交代でどんな変化が生まれるのかを見ていきます。
○フォーメーションの変化
次にわかりやすいのがフォーメーションの変更です。選手の並びを変更することでマッチアップ図も変化し、前半に攻略されていたスペースの修正や相手のスペースを利用するための変更など、その変更の意図を見ていきます。
○戦術の変化
上記2つもこの変化の一因であり、試合が動く大きな要因と言えます。負けているチームであれば前線に人数をかけて点を取りにいき、勝っているチームであればしっかりとブロックを作るために、後ろの人数を増やすこともあります。前半に攻守が整理できていれば、戦術の変化はわかりやすいでしょう。
○体力の変化
体力の消耗により運動量が低下し、本来のポジションに戻れなくなることでスペースが生まれてしまうことはサッカーではよくある現象です。後半にオープンな展開になるのは、負けているチームが攻撃的な戦術に変更することと、この運動量の低下による間延びが主な原因と言えます。
上記4つの変化をベースになにが原因で試合が動いているのかを分析するのが、後半の見方のコツになります。
■倍速で観る
テレビ観戦のメリットは録画ができることですが、LIVEではなく録画した試合の1つの見方として「倍速で観る」という方法があります。
試合を倍速で観ることで、選手個々を追うことやボールを見ることが難しくなり、細かな技術を見ることができなくなります。ですが、速い動きを見ているうちに試合の流れを選手という個ではなく、少し引いた全体の絵で見ようとするため、選手の点としての動きが見やすくなります。点で見ることで、選手の動きがわかりやすく、より攻守の問題点を分析しやすくなります。
さらにその早さに慣れてから通常のスピードに戻した時にテレビ特有の画面の切り替わりにも容易に対応できるようになります。また、LIVEで試合を観る時にも倍速に慣れているぶん、本来は早い展開であってもそれほど早く感じずに冷静に試合を分析できます。
この視聴はオランダの指導現場では当たり前のように行なわれている方法で、倍速で観るのでより多くの試合を観られるメリットもあります。
<了>
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林雅人(はやし・まさと)
1977年岐阜県出身。FELICE MONDO INC.テクニカルディレクター。日本体育大学サッカー部卒業後、8年間オランダに滞在。03年にオランダ1部・フィテッセとプロ指導者として契約、日本人として初めてとなるオランダサッカー公認1級ライセンス、UEFA公認A級ライセンスを取得。帰国後はファンルーツアカデミーコーチ、東京都社会人1部東京23FCヘッドコーチ、J1浦和レッズ監督通訳を経て現職。著書に『サッカートレーニング・メニュー解体新書―練習のフォーカスポイントが一目でわかる!』など多数。
取材協力:FELICE MONDO(フェリーチェ モンド)株式会社 http://felice2005.com/
取材・文 篠幸彦 写真 図表:五百蔵容