06.06.2014
コートジボワールは、明確なスタイルを持たない――ランデル・エルナンデスの対戦国分析(1)
文/ランデル・エルナンデス
翻訳/小澤一郎
COACH UNITED編集部です。これから計3回に分け、ランデル・エルナンデス氏によるブラジルW杯における日本の対戦国分析を行ないます。翻訳者は、小澤一郎さんです。第一回は、初戦の相手・コートジボワール。高い身体能力と技術を併せ持つ選手が多く存在するチームを、ランデルさんはどのように分析したのでしょうか? 早速ご覧ください。
【特徴】
コートジボワールは通常、攻撃能力を活かすために4-2-3-1のシステムを用いた戦いをします。チームの中心はヤヤ・トゥーレ(マンチェスター・シティ)でトップ下のポジションに入り、サイドハーフにはサロモン・カルー(リール)とジェルビーニョ(ローマ)のスピードあるアタッカーがいて、攻撃を活性化させます。ただし、未だにチームの象徴であり攻撃の起点となるのはベテランのディディエ・ドログバで、このW杯でも彼の活躍と得点がチーム躍進の鍵を握ります。彼は優れたストライカーであるだけでなく、相手のDFラインの裏に抜け出す能力も高く、それにより後方の選手は2列目の選手(トップ下、サイドハーフ)の動き出しを探りながらのビルドアップが可能となります。
プレースタイルについてですが、現在のラムシ監督のみならず、元監督のエリクソンやザウィもポゼッション、カウンター、前からのプレッシングなど色々なスタイルを模索してきましたが、いずれも浸透させることが出来ませんでした。よって、コートジボワールは明確なスタイルを持たずにブラジルに入り、選手の特徴に頼った戦いをしてくるでしょう。
攻撃を機能させるためには後方でプレーを組み立てる選手が必要ですが、それこそがラムシ監督がW杯までに修正するポイントです。世界的に名の通った選手はいますが、チームもプレースタイルも仕上がっていません。チームの平均年齢も30歳近くまで上がっており、ラムシ監督はこれまで23歳のラシナ・トラオレ(アンジ・マハチカラ)、セルジュ・オーリエ(トゥールーズ)といった若手選手を起用して世代交代も意識しています。
監督:サブリ・ラムシ
監督としての経験はまだありませんが、選手としては十分な経験を持っています。元フランス代表のMFで、パルマ、インテル・ミラノ、モナコといった欧州トップクラブでの素晴らしいプレーが思い出されます。2012年5月からコートジボワール代表を率いていますが、アフリカネイションズカップでナイジェリア相手に敗戦したことから「確固としたスタイルがない」という批判にさらされています。ただ、セネガル相手に苦しみましたが、最大の目標であったW杯出場権は獲得しています。
日本の勝ち方
コートジボワール相手に日本が勝利するためのポイントを列挙したいと思います。
1)ピッチ中央での数的優位
中盤での組み立てや優位性に興味を持たないコートジボワールの弱点でもあります。1トップのドログバは中盤に降りてこないFWですから、日本はサイドハーフやサイドバックが積極的に中央に入って数的優位を作りながらポゼッションします。その際、無理に前進を急ぐポゼッションをする必要はなく、ボールを回しながら前進するのに最善のタイミングを探りたいところです。
2)2列目、セカンドプレーに対する強度の高いプレッシャー
コートジボワールは日本のDFラインの背後を一発で狙うようなダイレクトな攻撃を多用してくるでしょうから、クリアした後のセカンドボールを確実に回収することが重要です。また、相手の2列目は個としての怖さはあるもののコンビネーションや創造性に欠けますから、連動したプレッシングをかければボールホルダーを囲い込めます。そのためには、日本のサイドハーフのプレッシング(横のコンパクトネス)が鍵となります。
3)ショートパスとサイドチェンジのコンビネーション
日本が得意とする近い距離感でのショートパスのみならず効果的なサイドチェンジを組み込んだ攻撃を仕掛けることによってコートジボワールはかなり消耗するでしょう。だからこそ、リスクを冒す(=前に急ぐ)ポゼッションは不要なのです。この試合は、日本がボール支配率を高めれば高めるほど、勝利の可能性は高くなります。
4)エリア侵入の回数ではなく人数
相手のエリアに侵入する回数はもちろん増やすべきですが、日本が得点を奪うためには人数を増やすことが重要です。
日本としては初戦の次に3試合の中で最も力の劣る対戦相手(ギリシャと)との試合を控えていることから、「負けないこと」を念頭に初戦に挑むべきでしょう。だからこそ、無理にリスクを冒す必要はないですし、ボール支配率を高めて試合をコントロールしながら着実に勝ち点を稼ぐ戦いをすべきです。最も警戒すべきは、自陣、特にディフェンシブサードでの軽率なミスで、ここでボールロストが発生するとコートジボワールは個の力で得点を奪う能力を持っています。
また、フィジカルコンタクト、怪我につながるような接触はできるだけ避けたいところですし、ライン間のスペースを作ること、特に2人のサイドの選手(カルーとジェルビーニョ)の裏を狙うことも意識したいところです。行ったり来たりのオープンな試合展開は日本にとってプラスではなく、多少テンポやリズムは落ちたとしても序盤からできるだけ落ち着いた時間を作って、少ないタッチ数でパスを回していくことでコートジボワールをイライラさせる、走らせることを目指します。
ザッケローニ監督はメンバー発表の会見において「相手をリスペクトするが、恐れることはない」と発言しました。日本サッカーの可能性、潜在能力の高さについて常に言及してきた私は、「日本はどの相手にも主役になれる存在」だと信じています。コートジボワールとの初戦においても、その姿勢・自信の有無が鍵を握ると思います。
■ランデル・エルナンデス
1976年3月6日、スペイン・ビルバオ生まれ。育成年代の指導に20年以上携わる。2006年、「アスレチック・ビルバオ主催キャンプ」でU-12からU-14の日本人を指導、2007年、2010年に日本でクリニック、指導者講習会を開催。取得資格は「弁護士資格」と「スペインサッカー協会公認上級ライセンス(LEVEL 3)」。
取材・文 ランデル・エルナンデス 翻訳/小澤一郎 写真 Jean-Marc Liotier