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トレンドという言葉だけでは語れない! ドイツが示した今後世界で勝つために必要な複合因子

LS_CU05_580.jpg取材・文=中野 吉之伴


ドイツ1-0アルゼンチン
(延長後半8分 MFマリオ・ゲッツェ)

 ワールドカップ・ブラジル大会の祝宴が終わった。決勝戦では、延長の末にアルゼンチンを1-0で下したドイツが見事に優勝を果たした。開始直前に、ドイツはMFサミ・ケディラがふくらはぎを痛め、欠場するというアクシデントが発生。その代役として出場し、好プレーを見せていたMFクリストフ・クラマーまでもが脳震盪の疑いで途中交代する事態に見舞われた。しかし、そんな予期せぬ出来事にもしっかり対応して勝利を手にするあたりが、今大会のドイツの強さを物語っていた。この試合、ドイツにとってまず最重要事項だったのが"カウンター対策"だった。

■ドイツは最適なポジショニングで最後に危機を回避

 ヨアヒム・レーフ監督は試合前の会見で「相手に合わせて自分たちのやり方を変えたりはしない」と話していた。その言葉通り、ドイツは高めに守備ラインを保ち、主導的にゲームを進めていった。一方でボールを失うと、できるだけすぐに相手にプレッシャーをかけて、カウンターの起点となるパスを抑えにかかる。しかし、常にそこで抑え切れるわけではない。

 パスを出された場合は、まずそのボールを相手が抑える前にはじき返すか、取りに行けない場面では相手の攻撃を遅らせるポジショニングを取ることが求められる。この日は今大会ここまでMVP級の活躍を見せてきたCBマッツ・フンメルスがそのポジショニングを誤るシーンもあり、前半にはアルゼンチンのエースであるリオネル・メッシのドリブルに何度か振り切られ、ピンチになりかけた。

 カウンターからサイドを崩された場面では折り返しに対する位置取りがポイントになるが、その点で素晴らしい動きを見せたのがMFバスティアン・シュバインシュタイガーだった。この場面でよく見られるミスは慌てて戻ることで状況判断が追い付かなくなり、ゴールを守ろうとするばかりに、守備ラインにまで入り込んでしまうこと。それでは、その後ろのスペースを敵にプレゼントしてしまう結果になる。しかし、シュバインシュタイガーは素早く帰陣しながらも、ペナルティエリア内の状況を冷静に把握し、相手へのラストパスを読み切ったポジショニングを取っていた。
 
 また、これまで不安材料の1つと見なされていたDFジェローム・ボアテングが抜群の存在感を見せたことも大きい。鋭い出足でアルゼンチンFWへのパスを何度もカットし、空中戦でもほとんど負けなし。自分のエリア外へのボールに対して集中力を切らすことが難点だったが、気を抜くシーンもなく、常に最適なポジションへと動いていた。

 そんな中でも、アルゼンチンはドイツCBの間にできるスペースを狙い、何度か抜け出すことに成功したが、最後の砦としてGKマヌエル・ノイアーが立ちふさがった。派手なセーブこそなかったが、どの場面でも相手との間合いを素早くつめると適切なポジショニングでシュートコースを消した。シュートを打つ時まで重心を動かさずに待てるので、相手も駆け引きがしにくい。クロスボールに対しても制空権の高さと守備範囲の広さで完全に対応してみせた。

■縦に加え、横への揺さぶりで最後の好機をものにする

 ドイツの攻撃は"縦パス"と"サイドチェンジ"が鍵を握っていた。守備を固めるアルゼンチンの守備をこじ開けるのが至難の業なのは、戦前から予想されていたことだったからだ。

 だから、サイドから攻めるだけではなく、まずは中央突破を狙った。闇雲に攻めては簡単に相手のプレスの餌食となり、カウンターの嵐を浴びることになる。そこでドイツは中盤でパス回しの中心となるMFシュバインシュタイガー、トニー・クロース、メスット・エジルらが攻撃のリズムを変えながら、好機を見て縦パスを入れることで揺さぶりをかけた。常に同じボールタッチからのリズムでパスを出すのではなく、時に半テンポ早いタイミングでパスを出し、時にボールを出すタイミングを溜めることで敵を動かし、狭いながらも自分たちで作った小さいスペースにパスを送り、起点作りを意識した。

 パスの受け手となるFWミロスラフ・クローゼとMFトーマス・ミュラーはダイレクトパスで突破を図ったり、スクリーンしながらうまく身体を使ってターンで抜け出したりとチャンスを作り出すが、アルゼンチンも最後のところで体を張ってしのぐ展開が続いた。

 ここでポイントになったのが"縦への揺さぶり"に加え、"横の揺さぶり"だった。特に、クロースから右サイドバックのフィリップ・ラームへのサイドチェンジは何度も好機を演出した。サイドチェンジで大事なのは、サイドを代えた後のプレーだ。つまり、サイドを代えることが目的ではなく、試合状況を変える起点を作ることが目的。ラームはダイレクトでのクロス、縦のスペースへのパス、あるいはパスを受けてからスピードに乗ったドリブルで持ち上がるなど、相手を混乱に陥れるべく、次々に変化をつけた。

 こうした駆け引きが、結果的にアルゼンチンを少しずつ追い込んでいく。アルゼンチンも一瞬の隙を突いて得点チャンスを作っていたが、最後のところで決めきれなかった。逆にドイツは延長後半8分、左サイドをドリブルで運ぶMFシュールレがゴール前でフリーになっていたMFマリオ・ゲッツェにふわりとしたパスを通すと、ゲッツェが完璧な胸トラップからのボレーシュートを決めた。初めてエリア内で相手をフリーにしてしまったアルゼンチンとそのチャンスを確実に生かしたドイツという図式になるが、そこにはドイツが1試合をかけて作り出した流れと戦略が確かに存在した。

■大会総括:「ベースとなる秩序」と「長所を生かした戦い方」

   これまでのワールドカップでは大会を通して世界サッカー共通の方向性とトレンドが見られていた。DFB(ドイツサッカー協会)とBDFL(ドイツプロコーチ連盟)共催で行われる国際コーチ会議でのテクニカルレポートによると、2010年ワールドカップでは「守備陣形はペナルティエリアから10~20mの位置」「状況に応じたプレス」「守備的なサイドバック」「ポゼッションを主調としたスタイル」「攻撃陣のポジションチェンジ」といったキーワードが挙げられた。

 スペイン、オランダ、ドイツの上位3か国を初め多くの国が4-2-3-1システムを基本陣形とし、どのポジションにどんな選手を置くかでチームとしての違いが見られた。そしてベースとなる考え方はそのままに完成度を高めていくという傾向は、2012年欧州選手権まで続いていた。

 しかし今大会では、それぞれの国がこれまであった主流的な戦い方をベースに、自分たちの長所を生かしたやり方を模索し、それを練り上げてきたのが特徴といえるのではないだろうか。"共通したトレンド"といった安易なものではなく、上位進出した国からは「高水準の基本戦術理解」「長所を生かした戦い方」「状況に応じた対応力」「適切な判断とそれを実現するスキル」といった傾向を探し出すことができる。これは選手個人としても、指揮を取る監督からも、そしてチーム全体としても必要なものだった。

 例えば、コスタリカ代表は、かつてイタリア代表が見せていたカテナチオすら彷彿とさせる見事なまでの守備組織と両サイドをワイドに使ったカウンター主体の攻撃でベスト8進出。チリ代表は豊富な運動量とコンパクトな守備からの積極的なプレス、そしてペナルティエリア付近のアイディアとスピードがあり、サイドにポイントを作った後にエリア内のスペースに走り込むタイミングとそのスピードは大会随一のものだった。

 あるいは準決勝・3位決定戦では悲劇的な姿を世界に見せてしまったブラジル代表も、準々決勝のコロンビア戦ではチーム全体として縦への推進力を武器にスピード豊かなサッカーを見せていた。ただそうした勇敢な戦法も、対応力が高かったオランダやドイツを相手に同じように挑むだけでは無謀となってしまう。ネイマールの負傷離脱という不運があったとはいえ、残念ながら今大会の王国には「個人・チーム全体での判断力とスキル」が3強ほどはなかった。

 その点、決勝に進出したドイツとアルゼンチンはチームとしての引き出しが多く、またそれぞれの質も非常に高かった。基本的な戦い方を持ちながら、対戦相手の特徴・試合状況などに合わせて対応できるだけの成熟さを選手が持っていた。

 そして、その積み上げてきたものの質と量でドイツがアルゼンチンを上回った。2006年大会に出場していた選手が5人もいながら、各世代がバランスよくミックス。経験だけでも、若さだけでもない。一貫した哲学を浸透させ、世界のトレンドも取り入れる柔軟性も持ち合わせていた。監督のレーフは代表を「ファミリー」と呼び、代表合宿を重ねるごとに、大会を戦うごとに、自分たちの戦い方を練り上げていった。経験は積み重ねていくことで知恵となり、体験は乗り越えていくことで自信となった。

 決勝戦ではレギュラーのケディラが突然スタメンから外れるアクシデントがあっても動じることなく、代わって入ったクラマーが脳震盪で交代を余儀なくされても、スッと難なく対応してみせた。采配は監督が評価される一つの要素だが、重要なのは交代で入れた選手がゴールを決めるかどうかだけではなく、その交代からピッチにいる選手が監督のメッセージを感じ取り、即座にやるべきことを整理できるかどうかだ。そういう意味では、ドイツはあらゆる状況に対応できるだけのプレーインテリジェンスを備えていた。

 「高水準の基本戦術理解」「長所を生かした戦い方」「状況に応じた対応力」「適切な判断とそれを実現するスキル」全てでハイクオリティだったドイツがついにその収穫の時を迎えた。


中野吉之伴
秋田県出身。1977年7月27日生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU15チームでの研修を経て、元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU16監督、翌年にはU16/U18総監督を務める。2013/14シーズンはドイツU19・3部リーグ所属FCアウゲンでヘッドコーチ、練習全般の指揮を執る。底辺層に至るまで充実したドイツサッカー環境を、どう日本の現場に還元すべきかをテーマにしている。


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