10.28.2014
『大切なのは、相手を見て判断すること』(元石川SC U-12監督・鈴木浩二インタビュー/後編)
元石川SCは地域の小学校を主体としたクラブながら、攻守に質の高いサッカーを展開し、過去にU-10が激戦区・神奈川県でベスト8に進出。ダノンネーションズカップでも決勝大会に進むなど、着実に足跡を残しているクラブである。後編では、U-12の監督を務める鈴木浩二氏に、プレーの選択肢を多く持つことの大切さや守備のオフザボールの動きについて聞いた。(取材・文/鈴木智之 写真/田川秀之)
――攻撃時のオフザボールの動きに関して、どのようなトレーニングで動きを身に付けさせるのですか?
鈴木:最初は映像を使って、目で見て覚えさせます。実際にグラウンドでは、マーカーやパイロンをディフェンス代わりにして、体に染み込ませます。馴染んできたら、パイロンの代わりにコーチを立たせたり、選手を入れたりして、実際の試合に近づけていきます。どのタイミングで受けるのか、どのタイミングで走り出すのかなどを覚えていく中で、タイミングが遅い、速い、パスが弱い、強いといった細かい部分が出てきます。そこですり合わせて、プレーの精度を高めていく。段階を踏んで難易度を上げていきます。
――オフザボールの動きに関して、試合中はどの視点でコーチングをしていますか?
鈴木:パターン練習をやっていて、それが試合で出なかったとします。そこで選手たちに「なんでやらないんだ!」と怒るのは良くないと思います。最終的なプレーの判断、決断は選手がするわけですから。例えば、あるプレーを選択したけどうまくいかなかったとします。そこで大切なのは、プレーを実行する直前まで、別の選択肢もあるかもしれないと考えながらプレーすること。それは、試合中に聞きますね。そこで「別の選択肢もあった」というのであればOK。「なかった」と言った場合は、「じゃあ、そこもイメージしよう」と。そうすれば、相手はどう対応すればいいか迷います。プレーの実行の最後の最後まで選択肢が複数あって、その中で最終的に相手を見てこのプレーだと決めることができれば、W杯で吉田麻也選手をドリブルで翻ろうした、コロンビアのハメス・ロドリゲス選手のようなゴールができるわけです。
――サッカーは相手がいるスポーツです。例えば、相手の体の向きによって、パスを前に出したほうがいいのか、後ろに出したほうがいいのか、判断は違いますよね。そこでベストの判断ができれば、プレーの成功率は高くなる。
鈴木:僕が6年生に言っているのは「相手を見なさい」ということです。ゴールに直結する最後のプレーの基準が、自分ではなく相手になっているかを、選手に問いかけますね。「相手を見て判断した?」と。でもほとんどの選手が、自分のイメージでプレーしています。だから相手に止められるし、味方とも合わない。例えば2対3の状況で、1人の選手がドリブルで仕掛けるとします。相手が3人とも下がっているところでスルーパスを出しても止められてしまいますよね。スルーパスを出したいのであれば、横並びの3人のうち、1人を引き出して、ライン間にギャップをつくらなければいけません。そこで相手を引き出していないのに、自分のイメージだけで、選手間の狭いスペースにパスを通そうとすると奪われてしまいます。そこで重要なのは、相手を引き出すためにワンツーをしたり、味方を使って局面を変えること。より相手が嫌がる方にプレーを変えていく。「やられた!」と思わせるプレーをどう選択するか。それが駆け引きだと思います。
――相手を見てサッカーをすることはとても重要なことだと思います。日本サッカーの各カテゴリーを見ていても、自分たちのプレーにベクトルが向いていて、「相手がこう来ているから、こうしよう」という駆け引きは、まだまだ向上の余地がありますよね。
鈴木:それはジュニアの指導をしていても感じる部分です。試合中、「相手を見たか?」という趣旨のコーチングをする指導者はそれほど多くはありません。相手を見てプレーするためには、直前になってプレーを変えられる技術が必要で、複数の選択肢を実行に移すことのできるボールの持ち方がポイントになります。選手たちを見ていると、常にトップスピードでプレーしようとしていて、相手が来くると「抜かなきゃ!」と力んで硬くなり、ボールコントロールが乱れることが多いんですね。身体に力が入ると、繊細なボールタッチをするのは難しくなりますし、視野も一点に集中してしまうので、状況の微妙な変化に気付きにくくなります。だから僕は、練習の時に「がんばりすぎるな」「見るのではなく、眺めよう」と言っています。力み、焦りはサッカーにとって天敵ですよね。
――育成年代の試合を見ていると、指導者の声かけによって力んだり、焦ってしまうことがあります。試合中の声掛けで意識していることはありますか?
鈴木:サッカーはミスのスポーツなので、ミスに意図したものが感じられたら、僕はOKです。例えば、DFの頭上にボールを浮かしてかわそうとする選手がいます。そこでミスをしたとしても、イマジネーションが浮かんできてプレーで具現化しようとしたわけなので、それを否定してしまうと、選手の想像力を否定することになってしまいます。それは将来、ファンタジスタになる可能性をつんでしまうことになるので、見極めが必要だと思います。大切なのはミスを反省して、プレーの向上につなげること。本人が「二度とこのミスはしたくない」と思うかどうか。そこを見ています。プレーのイメージがなく、なんとなくプレーをしてミスをした場合は指摘します。試合中も「蹴って逃げるな」という言葉は使いますね。結局、相手にインターセプトされるのって、責任逃れの横パスなどですよね。パスコースがなくて、見えた選手に出した瞬間に奪われる。プロでもありますよね。その違いを指導者が感じられるかどうかだと思います。
――守備時のオフザボールの動きは、どの程度指導していますか?
鈴木:小学6年生であれば、守備のセオリーは教えます。僕が昔、フランスのボルドーというクラブのアマチュアチームでプレーしていたとき、イタリア人のコーチに、選手同士の身体をひもでくくられて練習をしたことがありました。イタリアだと、U-12やU-10の練習で、最終ラインの4人の動きを身体で覚えるために、選手同士をひもでくくるらしいんですよ。つるべの動きと、選手同士の距離感を身体と目で覚えさせるそうです。
――それはユニークな練習法ですね。
鈴木:僕も最近、自分のチームの子どもたちにやらせました(笑)。守備時の距離感だけでなく、FWから最終ラインまでの縦の距離も、選手同士をひもでくくって身体に染み込ませるんです。そして、相手ゴールに少しでもボールが向かったら、1歩でも2歩でもいいから前に進みなさいと。僕はそう教えられました。そして、相手にボールが渡ったときには止まって、ボールに対して半身になる。そうすることで、ボールを蹴られた瞬間に素早く下がることができます。それと、守備に関して取り組んでいるのが、『中間ポジションをとること』です。相手ボールのときに、相手とボールの間の位置にしっかり立つ。守備のときは、常に一番外側に相手選手がいるようにします。そうすれば、ゴールへ向かっていくスルーパスを通されにくくなります。
――中間ポジションをとるときの、オフザボールの動きのポイントはどこでしょう?
鈴木:相手、ボール、味方の3つを同一視野に入れる体の向きをつくることです。そして、ボールホルダーに対して、一番近くにいる選手は必ず寄せに行く。うちの場合は「ガンプレ(ガンガンプレスの略)」と言っているのですが、ボールの近くにいる選手がプレスに行き、次の選手はカバーに入ります。ボールが自陣ゴールから遠いところにある場合は、相手、ボール、味方を同一視野で見ることができるポジション、身体の向きをつくって、ラインの上げ下げをします。中間ポジションを取ることができれば、ボールを奪った瞬間に相手守備陣のギャップに立っていることになるので、ショートカウンターを始めとする攻撃の第一歩になれるんです。守備のときは「中間ポジション!」とコーチングをして、ずれている選手には、具体的に「もう1メートル寄ろう」と言ったり、「誰を見て、どのポジションに立つの?」ということを声掛けします。そうすると、選手同士で「この選手が空いているから、ここに立てよ」というのを言ったりするようになります。サッカーはボールを持っている時間よりも、持っていない時間の方が長いスポーツです。攻撃も守備も、オフザボールのときにどう動くが重要だと思います。それはU-12年代のうちに、しっかりと身に付けてほしいことだと思っています。
鈴木浩二(すずきこうじ)
元石川SC U-12監督。神奈川県青葉区を中心に活動する『A.O.B.スペシャルトレーニング』クリニックマスター。主な戦績は、元石川SCを率いて神奈川県ベスト8(U-10)。ダノンネーションズカップ決勝大会進出など。
取材・文 鈴木智之 写真 田川秀之